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第二十四話 目指せエアマスター

六月七日。


 竜胆少年とチクチンの乱から一週間が過ぎた。


 あれからエロンゲーションが出現することも無ければ隊員の誰かが錯乱することも無く、比較的平和な日々が過ぎていた。


 もっとも俺のバイト先が復活することは無く、OBSの収入に頼らざるを得ない状態が続いてはいたが。


 そんなある日、司令から久々に電話が入り、OBS定例会議のため、本日午前十時に高峰クリニックに集合を命じられた。


 あの魔の館に赴くのは、正直気が重かったが、金のためには仕方がない。


「花音、高峰先生んとこ行くよ!」


「そーめん! そーめん!」


「いや、今日も出るかは分からないけど……てかお前、今朝もパパの朝飯の分まで食べただろ? 


 いい加減強奪するの止めてくれよ。


 パパそのうちマジで飢え死にするよ?」


「ごっつあんです! おおきに! お粗末!」


 ポローニャソーセージサンドの食べカスを口元に付けた悪魔の飽食娘は、欠片も悪びれることなく、曇天模様の外へ飛び出した。


 まったく、お行儀教室とやらでも通わせようかしら、ってそんな金ないけど。


 俺は仕方なく、非常食代わりに、食器棚に置いてあった謎の飴の菓子箱をスラックスのポケットに突っ込み、後を追った。



 というわけで、花音と飢餓状態の俺は高峰クリニックに到着し、玄関の呼び鈴を鳴らしたが、誰一人出てこない。


 仕方が無いのでドアノブを回すと、鍵がかかっていなかったので、勝手にお邪魔することとした。


 二階に上がり、竜胆少年とチクチンとのエロ漫画家部屋のドアを開けると、そこにはまたもや異空間が出現していた。


「アアアアアアアアアアッー!」


 と雄叫びを上げながら、何とか中腰(?)になったチクチンが、カオマのランバダのリズムに乗って、発情期の犬の如く腰を振りまくり、それを竜胆少年が、


「その調子です、師匠! もっと速く! もっと大胆に! 


 滝沢秀明のエアギターの如く、『性病なら俺にうつせよ』って感じでガンガン突こうぜ!」


 とよくわからんことを絶叫しながらハンディカムで撮影していた。


「何をやっているんだああああああああああ!」


 空腹で苛立っていた俺は、条件反射的にチクチンにレッグラリアートを決めてしまい、吹っ飛んだ彼は少年を巻き込み、二人とも壁に激突した。


「あいてて……ひどいじゃないですか、砂浜さん、この前はチクチン師匠に謝っていたくせに」


 少年改め映画監督が、取り落としたハンディカムを拾い上げ、壊れていないかチェックしながら俺に抗議する。


「それとこれとは別問題だ! 


 なんで朝っぱらから訳分からんわいせつ行為を見せつけてくれるんだよ!」


 ブチ切れた俺は、「レイプ! レイプ! レイプ!」と楽しそうに腰を振る花音を抑えつけながら、怒鳴り返した。


「わいせつ行為じゃなくてエアファックですよ。


 今度日本でエアファック世界大会が開催されるため、師匠と特訓している最中だったんです。


 フォームの確認には、ビデオ撮影が欠かせませんからね」


「エア……ファック?」


 こいつらは俺の知らん専門用語を流行語大賞受賞語の如く簡単に口にしてくれる。


「知りませんか? いわゆるエアギターのファック版です。


 ちなみに極めし者はエアマスターと呼ばれます」


「知らねーよ!」


「そうですか、確かに杉作 J太郎が開祖と言われる、日本発祥のエアセックスの方がメジャーですからね。


 今や世界中で開催されていますから。


 しかしエアファックも徐々に広がりを見せ、市民権を獲得しつつあるのですよ」


「どっちも知らねーよ! てか一緒だろーがセックスもファックも!!」


「いえ、全然違いますよ。いろんな説がありますが、簡単に言うとセックスには愛がありますが、ファックにはないのです。


 だからより野性的でバイオレンスでエンジョイアンドエキサイティングな演技がエアファックには求められます。


 泣きゲーと凌辱ゲーの違いみたいなもんですかね。


 もっとも残念なことに現在凌辱ゲーは衰退しつつありますが……」


「あー……」


 チクチンも寂しそうな顔をする。


「お前らの歪んだ性癖暴露はどーでもいいよ! 


 てかもうちょっと中学生らしい健全なことしようよ!」


「それより砂浜さんも出場してみませんか? いい運動にもなりますよ」


「絶対嫌だ! そんなキワモノ大会、どうせ小汚いオヤジしか出ないんだろう?」


「そうでもないですよ。例えば僕と師匠の漫画のファンでメル友の、スージーという金髪爆乳美女の26歳アメリカ人が、今回の大会に参加するため、本日日本を訪れる予定です。


 最近日本の宿泊代が値上がりして困っているというので、うちで良ければどうぞとメールしたところ、喜んで泊まると返事が来ましたよ」


「えっ……?」


 いきなりの超展開に、俺はしばらく固まってしまった。


 こんなハーブ極まる地獄絵図のような家に、金髪美人がホームステイにいらっしゃるだと? 


 催眠術でも使ったとしか思えん。


「ぷちぱら文庫! D○M! 催眠アプリ!」


「花音はちょっと黙りなさい。それって旅館業法とか民泊新法とかには触れないの?」


「別にお金はとりませんよ。純情少年を装ってうっかりおっぱいには触れるかもしれませんが」


「おい」


「冗談です。それにここ以外にも泊まり歩くそうですし、せいぜい数日だけです。


 これからY市のY空港に、司令や師匠と一緒にお迎えに行くつもりですが、砂浜さんもご一緒しませんか?」


「そ、それは……って今から定例会議があるんだろうが!」


「あんなものは車内でも適当に出来ますし、どうせ備品のコンドームやらカテーテルの購入費用がいくらかかったとかの報告だけですよ。


 そんなものより歓迎会の方がよっぽど大事です。それとも何か大切な御用が?」


「うっ」


 現在絶賛無収入中のニート一歩手前の俺には、特売のパンを買う以外の用事などあろうはずもなかった。


 それに、その金髪爆乳美女とやらに、俺の眠れる好奇心がむくむくとカリ首、じゃなかった鎌首をもたげてきたことは否定できない。


 だって俺の周囲にまともな成人女性が存在しないんだもん!


「わかった、同行する。但し花音も一緒だ」


 俺は内なる欲望をポーカーフェイスで隠した。


 Y空港には子供を遊ばせる場所も多いため、一度娘を連れて行ってやりたかったのも事実だが。


「いいですよ。我らが高峰クリニックの病院カー・ハイエースには無限に人が詰め込めますから」


「あれって病院の施設車だったのかよ! 


 てかさすがに無限は無いだろう!」


 俺がいささか突っ込み疲れて来た時、いきなりドアが押し開かれた。

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