第二十三話 閑話休題
五月三十一日、午後十時。
「パパ! だっだーん! ぼよよーん! ぼよよーん!」
「はいはい、分かったよ、花音」
狭いバスタブの中でお湯に浸かりながら、俺は花音に、自分のやや出て来た腹を差し出した。
彼女はにんまり笑うと、小さな両手で、愛おしそうに揉み揉みし始めた。
花音は俺の乳首のみに飽き足らず、時々こうやって腹部も揉みたがる。
きっとおっぱいに触感が似ているからに違いない。
天使のエプロンの由来が何となく俺にも分かってきた。
それにしてもこのおチビちゃんは本能に貪欲過ぎる。
俺の身体はどう魔改造されてしまうのか、時々空恐ろしくなる。
「よし、じゃああと10数えたら上がるぞ!」
「12345678910!
おまけのおまけの汽車ぽっぽ!
ポーっと鳴ったら上っがりっましょ!
キャストオフ!」
三秒もかからず数え終わった愛娘は、ダッシュでバスルームを飛び出すと、裸のまま脱衣所を駆け抜け、リビングへ消えていく。
「あっ、待って! 風邪引くぞ!」
慌てて俺も全裸で追いかけ、「神よ! わたしは美しい! ヌーディストビーチ!」とかほざいているお猿さんをバスタオルで簀巻きにして、全身を拭いてやる。
やれやれ、毎回こっちが風邪を引きそうだ。冬が来るのが怖い。
妻が生きていれば、外で待機してやってくれたのにな、とつい考えてしまう。
でも、こうやってゴシゴシしてやるのも嫌いじゃない。
これから、少しづつ前向きに考えて行くようにしよう。
「パパ! あれやって! 一発芸!」
「はいはい、お嬢様」
俺はフリチンのまま、何故かキッチンに置いてあるラーメン丼を頭に被ると、両腕を組んでしかめっ面をしつつ、指先で腹部を摘まんだ。
「王大人、脂肪確認!」
「キャハハハ! 週刊漫画ゴラク! 呉竜府! わしが!」
花音がやけに受けながら、フローリングの上を転げ回る。
こいつ、意味分かってるんだろうか?
つけっ放しだった奥のテレビからは、ちょうど先程の騒動の、お尻風船が爆発したシーンを流していた。
『……今回は何の被害もなく事態は収拾され、世間では、この謎の破廉恥なオヤジ達を称賛する声も上がっています』
羊女のマッチポンプ作戦は功を奏したのだ。
ちなみにハンドポンプは戦前のオ○ニーを指す隠語だがどうでもいいですね、はい。
ちなみにさっき見たネットによれば、ア○ルの美しさに感動した人々が続出し、
「やっぱりア○ルにモザイクをかけるなんて許さねえ!」
「僕のア○ルも禁止されそうです」
「ア○ルジャスティス!」
などのメッセージが、掲示板やSNSなどに大量に書き込まれていた。
ここまで狙っていたとなると、羊女の慧眼は瞠目に値すると言わざるを得ない。
偶然かもしんないけど。
とにかく俺は、羊女を殺すのはもう少し待ってやってもいいかな、と思い直した。
「ア○ル爆発! ア○ル爆発!」と花音は映像に大喜びなので、教育上よくないと判断した俺は、「さあ、もう寝るよ!」とリモコンでテレビを消した後、嫌がる花音にウ○ウゴルーガのOPを口ずさみながらパンツを穿かせるのだった。