第二十二話 天駆けるア○ルの閃き
新月のため月明かりはないが、星々がネオンに負けずに輝く夜空を、裸のオヤジが裸の男をおんぶして飛んでいた。
何とも絵にならない風景だが、誰だかはすぐに分かった。
「羊女さん!」
「あいつ、わざわざOBSに乗って来たのか?
もう全て片付いたんだぞ。
一体何を考えているんだ?」
またもや司令がぼやく。
「タクシー代わりなんじゃないですか?」と竜胆少年。
「んなアホな……ん? あいつ背中に何か結び付けてないか?」
「えーっと、確かに、何か紐が背中から上空に伸びてますね。良く見ないと分かりませんが」
「何かを持ってきたっていうのか?」
俺達は夜空に向けて目を凝らした。
紐の先端は闇夜に溶けるように消えていたが、よくよく見ると、真っ黒い布か何かに包まれた、直径3メートル以上はある球体が二つ繋がっているのが分かった。
球体と球体はサクランボのようにくっついている。
「な、何だ、ありゃあ……?」
司令が車窓から身を乗り出す。
「黒いアドバルーンか何かが二つあるように見えますが……チンドン屋でも始めたんでしょうか?」
竜胆少年が小首をかしげる。
「あの形状、嫌なものを思い出すな……」
俺は眉をしかめた。昨日戦ったおっぱいおばけに墨汁をぶっかけたような感じだ。
『行くわよー!』
突如耳元で羊女ががなりたてると共に、二つの球体を覆っていた黒い布がはらりと舞い落ちた。
それを見て俺達三人は同時に絶叫した。
「「「尻だ!」」」
何と、こちらにア○ルをくっきりと見せた肌色の巨大な尻が、飛行船の如くぷかぷかと天に浮かんでいた。
ちん○がないことから、どうやら女性の尻と思われるが、桃尻といっても差し支えない程丸く張りがありそうで、なんとも魅力的だった。
「ま、まさか新手のエロンゲーションか!?」
「落ち着いて下さい、司令さん。
あれってきっとアドバルーンを接着剤で張り合わせて色塗っただけだと思いますよ。
でなきゃ紐付けて引っ張ってこれませんって」
慌てふためく司令に対し、竜胆少年が冷静に答える。
『ピンポーン、正解よ。
お店の常連客のイベント関係のレンタル会社社長に頼みこんで、廃棄予定のアドバルーンを二個無料で譲ってもらったの』と羊女。
彼自身は、現在空飛ぶケツをOBSと共に追っている。
「何のためにそんなことを?」
つい俺も、彼に質問してしまった。
『決まってるじゃない、太郎ちゃーん。
ほら、昨日、もっとOBSをメジャーにしたらどうかってあたしが提案したもんで、司令と口喧嘩になっちゃったでしょ?
あの後自分なりに考えて、PR動画を作って配信すれば、もっと知名度が上がると思ったのよ。
それで、昨日の戦闘シーンを再現するために、おっぱいモンスターの模型を作製しようとしたってわけ』
「いやそれおっぱいじゃなくて尻だよね!?」
『話を最後まで聞いて頂戴、太郎ちゃん。
あたしが必死こいて塗装してたら、司令から、チクチン達が馬鹿なこと企んでいるってメールがあったのよ。
それで、OBSが出動したら、街の人は、また敵が来たんじゃないかって騒動になるでしょ?
OBSの内紛バトルだったなんてバレたら、イメージガタ落ちだから、急きょ新たなエロンゲーションが現れて、それをあたしが華麗に撃墜したってストーリーを演じようって作戦を練って、おっぱいから尻に作り替えたってわけ。
乳首取っちゃってア○ル描くだけですんだから楽なもんよ』
「そうだったのか、しかしお前意外と絵が上手いな。本物そっくりだわ」
俺は闇夜にぽっかりと浮かぶ尻及びア○ルを観賞しながら、本心を述べた。
描かれたア○ルは薄っすらとした茶色だが、使い込まれた感じは無く、上品で、なんというか、綺麗だった。
それ程ア○ル好きではない俺も、知らず知らず引きずり込まれそうな感じが、って俺は何を考えているんだ!
「羊女さんには、以前暇な時、僕とチクチン師匠が絵の手ほどきをしてあげたことがあるんです。
メイクや小道具作りに必要だからって。結構いい線いってましたよ」
「アッー!」
チクチンも大喜びで大絶賛の様子だった、なんとなくだが。
「しかし、前はどうなっているんですか? 法に触れませんか?」
竜胆少年がどうでもいいことを聞く。十四歳がエロ漫画描くのはいいのかよ?
『スジが一本描いてあるだけよ、リンちゃーん』
「成る程、それならコミケ規約でも可とされますからね。最近注意がうるさくなってきましたが」
「何の話だよ! てかやけに詳しいなおい!」
「一応これでも現役エロ漫画家ですから」
俺達が馬鹿な会話を交わしている間に、羊女を乗せたOBSは、天駆けるア○ルを追いかけて、ぐんぐん星の世界へ上昇していく。
「何だあのデカケツは!?」
「ウホッ、いいア○ル……」
「勝利の女神が俺らにア○ルをちらつかせているぞ!」と何だか回りが騒がしくなってきた。
道行く人々が上空を見上げ、指差している。
『だいぶギャラリーも増えてきたみたいだから、もうちょっとしたらおしっこひっかけて、空中で爆発させるわね。
お尻の中には遠隔操作で爆破できる火薬をしこんであるのよ』
「へえー、よく考えているな」
『じゃねー』
というわけで、羊女達は、キルバーン人形を担いだダイの如く、サーチライトに照らされつつ、天高く消えて行き、やがて遥か上空で爆発が生じた。
「きたねぇ花火だ……だが、綺麗なア○ルだったな」
司令が一見狂った感想を述べたが、俺も同感だった。
「ええ、そうですね……」
俺達はしばしの間、季節外れの花火大会の余韻に浸り続けていた。