第二十一話 結成・ア○ル新党
日もとっぷりと暮れたが、街はネオンの輝きに満たされ、黒服達が道行く人に声を掛けてはうざがられていた。
ホテル近くのコインパーキングに駐車中のハイエースの中で、俺達は、先程の感想戦に耽っていた。
「砂浜さん、さっきのあれ、わざとボディに一発喰らったでしょ? 危ないじゃないですか」
「いや、喰らわせた人にそう言われましても……でも、勝算はちゃんとあったよ。
チクチンが唇野郎にどうやって勝ったのかを考えていたら、ピンときたのさ。
相手を溶かしたのは、おそらく胃酸かなんかだろうってさ。
ほら、ホラー映画やゲームなんかでゾンビがゲーゲー消化液吐くじゃない?
OBSの尿と同様、ゲロもエロンゲーションに対して致命的な攻撃手段だったんだよ。
おそらくそれに感付いたチクチンは、OBSの腹部にヘッドバッドでもしたんだろうな」
「なるほど、それで、それまでの僕の攻撃は紙一重でかわしていたけれど、腹部を狙った時のみ回避せずに受けて、OBSに嘔吐させたってわけですか」
「ああ、俺のおんぼろポルテの屋根で揺られていた時点で、既にロッパー寸前だったしな。
何か衝撃を受ければ、吐くのは間違いなかったのさ」
「中々の策士ですね、砂浜さん。
間抜けなように見えて、少しは頭の回る方だったとは……僕の見当違いでした」
「いや、それほどでも……って褒めてねーな、それ!
君こそ、何でとっととスニゲーターだったかを屋上に吊るさなかったの?」
「そんなやけに高い超人強度を持つ悪魔六騎士じゃなくてイリゲーターですよ。
お恥ずかしい話ですが、屋上への着陸がうまく出来ず、周囲を旋回しているうちに、あなた方が到着してしまったんです」
「ハハハ、そういうことだったのか!
確かに難しいよね、あれ。
ヘリコみたいにホバリング機能でもあれば、簡単に出来たんだろうけどな」
俺は、つい大口を開けて笑ってしまった。
少年も、真黒な顔をタオルで拭きながら、恥ずかしそうにほほ笑んだ。
一見冷静沈着に思われた彼も、初めてのお使いで、まだ不慣れなことばかりだったのだ。
俺達は、何時の間にやら大分打ち解けていた。
「しっかし羊女のやつ、遅いな。
ちゃんと場所分かってるのか? ふぁーっ」
運転席に座る司令が、ヘルメットを被ったまま伸びをする。
ちなみに花音は助手席で爆睡中だった。
「ちゃんとメールで詳しく伝えましたよ、さっき」
「一体何を手間取っておるんだ?
今更来てもどうしようもないのに。
むしろさっきのOBSファイトのせいで、ネットでもぼちぼち噂が広まっておる。
また、例の怪物……エロンゲーションが出現したのではないかってな」
「あちゃーっ、それはちょっとまずいですね」
「あー……」
司令の足元に転がっているチクチンが、申し訳なさそうに声を出す。
どうやら反省しているようだ。
先程の壮絶な空中戦の後、負けを認めた竜胆少年にハイエースの場所を問い質し、俺達はこの駐車場に向かった。
中にいたチクチンも大人しく降参し、一応事件は終結を迎えた。
もっともチクチンの抱える心の闇は深そうだったが。
「チクチン、先程戦闘中にも言ったけれど、あの食事中の件は、俺が本当に悪かった。
妻の死を思い出して、怒りに我を忘れてしまったんだ。
君、いや、あなたが俺と花音の命を、片目を犠牲にしてまで助けてくれたなんて知らなかったんだ。
だから人命を救えなかったなんて自分を卑下しないでくれ。
すまなかった、そして、ありがとう」
「……」
俺は、姿勢を改め、チクチンに対して真摯な態度で、謝罪と礼を述べた。
チクチンはなんだかもじもじしながら、たった一つの目玉でこちらを見つめている。
「それに、アナ禁法とやらの件だが、俺も何とかしてみるよ。
知り合いに、依頼人のア○ルをスカル○ァックしてからでないと依頼を受けないっていう狂った探偵がいるんだが、腕は確かなんで、そいつに頼んでみようと思う」
「アッー!」
急にチクチンが血相を変えて叫んで、俺にすり寄って来た。
一体何が言いたいんだ?
「チクチン師匠は、砂浜さんに、そんな危険なことはしないでくれって言ってるんですよ。
確かにあなたのア○ルががばがばになったら、羊女さんも悲しみますからね」と竜胆少年。
「あいつ俺のケツ狙ってたのかよ!?
いや、何となくそんな気はしたけれども。やっぱ殺す!」
「まあまあ落ち着け。どちらにせよ、お前さんが万が一下半身不随や人工肛門になれば、一番困るのは可愛いお嬢さんだぞ。
依頼はやめとけ」と司令。
「そうですね、俺も肛門がもじもじしてきたんで、思い直します」
俺はあっさり前言撤回した。
いざとなったらチクチンのア○ルをスカル○ァックさせるつもりだったけど。
「いっそのこと、国政に打って出て、法律改正を止めさせたらどうだ?
五体不満足でも、浮気さえしなけりゃ支持者がいっぱい付くらしいぞ」
司令がまた、無責任な発言をする。
「浮気しようにも元から奥さんすらいませんよチクチン!
大体彼の写真入りの選挙ポスター見た時点で皆気絶しますよ!」
「でも全裸の選挙ポスターはOKだそうですし、意外と受けるんじゃありませんか?
キモ可愛いとか言われて」
「絶対有り得ねー!
てかア○ル賛成って公約がまず引くわ!」
「あー……」
「ほら、砂浜さんがそんなこというから、またチクチン師匠が落ち込んじゃったじゃないですか」
竜胆少年の言う通り、いじけたチクチンが、また車のフロアマットに顔を埋め、めそめそしている。
えーい、この腐れ臭豆腐メンタルめ!
『ごめんねー、遅くなっちゃって』
その時、俺および皆の装着している通信機に、突如野太い声が響いた。
「羊女! 待ちくたびれたぞ! 一体何処に居るんだ!?」
司令が怒鳴り返す。
だいぶお冠のご様子だ。
確かに、良く考えたら羊女って、ろくに戦闘に貢献してないしな。
唇の時も今回も不参加で、先日は撃たれた後は役立たず状態だったし。
『ちょっとお空を見て頂戴』
「えっ!?」
俺達は一斉に車窓を覗いた。