第百八十五話 デジャブ その5
「こちら射精管理センターです」
「すいません、もう我慢の限界です! 助けて!」
「ではお客様の登録されていたお母様の音声を発信します。『タケシー何しとんじゃコリャー!』どうです、萎えましたか?」
「すいません、最近母子姦モノに目覚めたので逆効果です! うがああ」
果たしてタケシの運命や如何に!?
「おい、どうしたんだ!? 壊れかけのオナホみたいに口をポカンと開けおって」
「はっ!」
肩をゴキっと靴底で踏まれる感触と呆れたような胴間声で、俺はようやく我に帰った。
どうも時々精神がトリップする嫌な癖がついてしまったようだ。
運良くこの地獄を抜け出せたとして、無事社会復帰できるだろうか?
「と、いうわけだ、自称砂浜太郎のミスターエックスくん。どうしてこんな珍しい名前の人間が、あの場に二人もいなければならないのだ? 別に中村さんとか佐藤さんとかいうありふれたやつじゃないのに? 常識的に考えて明らかにおかしいだろうが!? ならばどちらかが嘘をついている可能性が高いとは思わんかね、え?」
「はあ……」
考えがまとまらず、頭の中が抽象画みたいになってしまった俺は、この居丈高な尋問にどう適切に答えていいかわからなかった。
今まで自分が砂浜太郎だと思っていたが、それはひょっとすると俺の思い違いだったのか?
まるで自分が自分で無くなったような奇妙な感覚にとらわれた俺は、唐突に昔何かの本で読んだ「自分の死後のことを自分で想像することは難しい」という文章を思い返していた。
いや、そんなものは簡単だ、という人はいるだろう。確かに人は、自分の葬式風景を頭に思い描くことは出来る。自分の遺体が棺桶に入り、自分の笑顔の遺影が無数の花に囲まれて祭壇に飾られている。遺族は皆悲しげに遺族席に座っている。
……だが、それではその光景を、「自分」は一体どこから見ているのだ!?
現在の自分自身に起こっている摩訶不思議な現象は、まさにそういうことだった。
おそらく、自分が過去にタイムリープだかタイムスリップだかなんだかしたのに、既にそこにはもう一人の自分がいて、既に自分が経験した人生を歩んでいる。
それではこの自分は今後一体どうなってしまうんだ?
俺は、もはやウイルス汚染されて残骸しか残ってなさそうな脳の記憶から、今の状況を説明してくれそうな助言を苦心してほじくり返した。
そう、確か……
『厳密に言うと少し違います。ここは完全に同じ過去ではありません。次元的に微妙にずれています。そしてこれが初めてというわけではなく、この現象をあなたはもう何回も何十回も何百回も、それこそ数えきれないくらい行っています、お父さん』
あの、俺のことをお父さんと呼ぶ天空の女神は確かにそう語っていた。
つまり、これこそが次元的な微妙なずれというやつなのだろうか?
すいませんが現在足の状態が悪く激痛が続いているため、次の更新日は未定です。皆様よいお年を!では、また。