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第百八十三話 デジャブ その3

 無様に這いつくばる俺の目の前に、二本の人間の指が無造作に転がっている。


 どちらも根元から力任せに引きちぎられたような無様な断面を曝しており、一本がもう一方よりやや短い。


 言わずもがな、俺の大切な左手の小指と薬指の変わり果てた姿だ。


「とりあえず最低限じゃんけんが出来るように、親指と人差し指と中指は残しておいてやったぞ。もっともチョキだかパーだかわかりにくいだろうがな、ガッハッハッハッ!」


 何がそんなに可笑しいのか、頭上の真四角オヤジはがさつな笑い声を早春の落雷のようにぶちかまし、ただでさえズキズキする俺の全身が更なる苦痛に苛まされた。


 俺はハンマーで殴りつけられるような頭痛にあらがいながらも、どうやったらこの生き地獄から抜け出せるのか、必死に無い知恵を振り絞った。


「……一体あなたはどう答えたら満足してくれるんですか?」


 しばし黙考した後、これ以上刺激しないように、なるべく穏便な言葉を選びながら、慎重に切り出した。


「なんだ、そんなこともまだわからないのかこの薄ノロが!? とっとと正直に喋ればいいに決まっておろうが!」


 バカみたいな笑い声が一気に恫喝にとって代わる。どうやら話し方をどう変えても無駄なようだ。


「じゃあ俺が砂浜太郎本人じゃないという根拠を、逆に教えてください!」


 自分も相手につられ、つい喧嘩腰になってしまうが、これはもう仕方がないだろう。


「やれやれ、何を言い出すかと思ったらそんなことか。貴様、我々が何も知らないと思ってバカにしているのか?」


 俺と反対にどんどん男の声のトーンが落ち着いて冷酷そのものになり、氷のように背筋を滑り落ちていく。俺は怖気だった。対応を間違えたのかもしれない。


「い、いえ、決してそんなつもりじゃないんです。ただ、自分がどうしてこんな理不尽な目にあうのかすらわかっていないし……」


「……」


 急に重い沈黙が夜の帳のように降りてきて、辺りを肌寒い空気が覆ったみたいに感じた。


 世界が鬼色に染まったかのようだ。


 また、何か失言してしまったのだろうか?


「そうだな、指を二本折り取っても、まだ言う気がないところをみると、確かに貴様は少々混乱しておるようでもあるし、説明ぐらいはしてやってもよいだろう」


 悪鬼羅刹もかくやといった男の口調が微かに柔らか味を帯び、話し方もゆっくりになる。


 だが、嵐の前のなんとやらかもしれず、俺は緊張を解かなかった。もしくは台風の目か。


「よいか、自称砂浜太郎ことミスターエックス氏よ。なぜ貴様が我々の手厚い招待を受けたのかというと、全裸友達の三人と一緒に夜の浜辺で奇怪極まる行為に及んでおったからだ」


 思わず「言い方!」と突っ込みそうになったが、咄嗟に下唇を噛み締め我慢した。


「一部始終を目撃したスリーパーセ……おっと、我々の仲間によると、夜空に突如巨大な女性の姿が天井画のように出現したかと思うと、貴様ら四人の全裸集団が浜辺に忽然と現れて、貴様が何か叫んだと同時にそれぞれの体内から短髪の男どもを生み出したとのことだ。厳しい訓練を受けていた目撃者も、俄かには信じがたい光景を目の当たりにして、さすがに幻覚でも見たのかとうろたえたそうだ」


「あああああああああ……!」


 幼児にでも説明するような調子の彼の話を耳にしながら、俺はようやくあの一連の出来事が、まぎれもない現実だったことを思い知った。

すいませんが次回も四週間後更新予定です。では、また。

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