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第百八十一話 デジャブ その1

 魂-もし人間にそんなものが存在すると仮定しての話だが、実は魂はたった1分くらいしか寿命がない脆弱なもので、すぐに消滅してしまうので、神様が常に新しい魂を用意して古い方の記憶や人格をコピーし、せっせと入れ替えているという、SF小説作家顔負けの、想像するだに恐ろしい仮説を生み出した哲学者が昔どこぞにいたそうな。


 もしこの狂った説が本当だとしたら、俺の魂担当の神様は筆舌に尽くしがたいボンクラ野郎で、何かとんでもないヘマをやらかしやがってコピーに失敗し、記憶の大半がゴミ箱行きになってしまったんじゃないかと、俺は朦朧とした意識の中で考察していた。


 早くアンチウイルスソフトかなんかをへっぽこ神様にインストールして欲しいもんだが、天国じゃ無料配布とかしてないのかしらん……


「おい、豚野郎、起きろーっ!」


「ぐえっ!」


 野太い声とともにいきなり尻に何か硬いものを叩きつけられたような激痛が走り、俺は無理矢理夢想を破られ、現実世界に呼び戻された。


「ここは……」


 重い瞼を押し開けるも、最初に目に映ったのはグリーンの金属製と思わしき硬い床だけだった。


 身体を起こそうとするも、どうやら両腕および両脚は縛られているらしく、ほとんど自由がきかない。


 自分は全裸で芋虫のように床に転がっているのだということに気づくのに、幾分時間を費やしてしまった。


 床伝いに、ゴンゴンゴンゴンと何かの機械音らしき音が規則的に響いてくるのが、なんとも不快だった。


 なんとか首をもたげると、床どころか壁も天井も全て緑色の金属製の狭そうな部屋で、俺は唖然とした。


 どこかの収容所なのか、ここは?


 そういえば、過去の記憶の世界で恐るべき二色カレー体験をする直前、確か俺はどこかの砂浜で後ろから何者かに殴られるかなんかされて昏倒したような気がする。


 ということは、その後俺はその謎の襲撃者にチャーシュー用の焼き豚のごとくふん縛られて、この殺風景な部屋に担ぎ込まれてきた、ということか?


 なんか以前も似たような目にあった記憶がかすかに蘇りそうになったが、あの時は、えーっと……


「おい、いつまでぼーっとしておる! こっちを見ろ!」


「ぐぎゃっ!」


 再び尻に、しかも大事な穴の近くに一撃をくらい、俺は思わず実が飛び出るかと思った。


 カツカツという足音とともに黒い革靴とカーキ色のズボンが目の前に現れた。


 それ以上の視認は、アシカ以上に身体を仰け反らさねばできないので、俺には無理だが。


「まったくよく寝る奴だ。おい、名を名乗れ、豚野郎!」


 威圧感に溢れる罵声が、俺の上から容赦なく降り注いでくる。


 反抗してやろうかと一瞬考えたが、尻の痛みを思い出して俺は踏み止まった。えらい!


 だが……俺は一体誰なんだ?


 先ほどの夢のような記憶の中では、コーホーコーホーしか基本的に言わない師匠的男や、イノシシ頭の女医に俺は「砂浜太郎」と呼ばれていたが、それは本当の名前なのか……?


 俺は自分自身に問いかけてみたが、鏡に向かって叫ぶようなもので、答えは何一つ返ってこなかった。


「おい、聞こえなかったのか? だったらもう一発……」


「す、砂浜太郎です!」


 暴力野郎が痺れを切らしかけたので、慌てて俺は仮の名前を告げた。


「ほう、変わった名前だな。本当に本名か?」


「自分でもよく覚えていないんです! でも、そう言われていたような気がしたので……」


「いい加減なことを言わずはっきりと答えろ!」


「ぎゃああーっ!」


 その時、信じられないくらい激しい痛みが俺の左手に走ったかと思うと、何かがゴロンと俺の目の前の床に投げ出された。


 どうやらそれは、根元から引きちぎられた、血まみれの小指だった。

すいませんが色々ありまして、次回も四週間後になるかと思います。では、また。

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