第十七話 サンドイッチ○ァックって多忙なサンドイッチ伯爵が一人で二人の相手を出来るように考案したんでしたっけ?
暮色蒼然としたぼやけた街並みが、目の前いっぱいに広がっている。
太陽が沈む時間は、徐々に遅くなってきた。
今日も日課のゴミ漁りを終えたカラスどもが、やかましく鳴き交わしながら、どこぞの森へと向かって集団帰宅していく。
X市はまだまだ自然が多く、街外れに熊が出たことだってある。
都市開発って大事だな。
黒衣の群のやや下方には、この遠距離からでも目的地の日翔ホテルの天を摩する姿がはっきり目視出来る。
航空会社が経営するこのラグジュアリーホテルは、約130メートルの30階建てで、観光用タワーなどがないX市では断トツの高さを誇っていた。
ちなみに一階にあるプティックは、高級パンも売っており、近所の奥様方に大人気で、夕暮れ時には値下げしてくれるので、俺もしょっちゅうお世話になっている。
『まったく、どうせやるならスカイツリーででも実行すれば、ちっとは画になるだろうに、コ○ン君みたいにな』
司令がよく分からん文句を言う。
「いや、ここから遠過ぎますよ!
そもそもそんな映画嫌ですって!」
『分かっている、冗談だよ冗談』
「しかしハイエース全然見当たりませんね。
何処か別の場所じゃないんですか?」
「パパ! 前! 集中!」
『ご、ごめん、花音。
ちょっと余所見してただけさ』
俺は、教育ママのように厳しい背中の娘に謝った。
現在俺は、前日の出撃の時と同様に、グラサンとマスクのみ着用した裸の危ないおじさん状態で、OBSと花音にサンドイッチされ、走行中の車の屋根にうつ伏せになっていた。
なんかちょっぴり慣れて来た自分が怖い。
ついサンドイッチファッ○という単語が脳裏を掠めたが、そのまま素通りさせて、無かったことにした。
どうやら疲れが溜まっているようだ。
車は前回同様法定速度をブッチしているが、あまり寒くはない。
昨日の反省を踏まえ、鉄の前掛けじゃなかったエンジェルズ・エプロンは既に展開済みだ。
ちなみにOBSの残り一体は高峰クリニックに残してきている。
『しっかしブラッドハーレーの馬車みたいに揺れる車だな。
ちょっとサス硬過ぎないか?』
それは俺も思った。
今、司令が親亀子亀孫亀状態の俺達を乗せて運転しているこの車は、トヨタ製だが、ハイエースではなく、俺の愛車のポルテである。
さっきから、『小型車は勝手が分からん』などとぶつぶつこぼしながらなんとか走らせていたが、とにかく酷い走りだった。
まぁ、俺が運転しても同じなのだが。
特にこうやって屋根にしがみついていると、ハイエースとの違いが良く分かる。
ガタガタ揺れて身体中痛くなってきたし、OBSの顔色も心なしか青い。でも……。
「しょうがないでしょう、小型車なんだから!
ハイエースに比べたら大人と子供ですよ」
『確かにそうだな、すまん。
でもメンテはこまめにした方がいいぞ。
なんか時々変な音するし』
「だから金欠なんですって!
それにしても、超高圧浣腸で自殺なんて、可能なんですか?」
『そうだな、普通高圧浣腸は、1メートル程度の高さから、イリゲーターと呼ばれる容器を吊るし、それに繋げたネラトンカテーテルを腸内に挿入し、容器の中身を注入していくという方法で行われる。
イリゲーターの中身は水ではなく生理食塩水だが、ほぼ水圧と同じとして、130メートルの高さからかかる圧力を計算すると、約1274MPaとなる。
単純に比較するのは難しいが、金属やコンクリートの切断に使用されるウォータージェットの水圧が約300MPaだから、大体その四倍くらいだな』
「……」
俺は肛門がキュッと引き締まる感覚を覚え、何も答えなかった。
「そもそも、どうして彼らの企みが分かったんですか?」
『うむ、実は今日はOBSの定期メンテナンスの日でな。
いつもハイエースに三体とも積んであるんで、まず先に二体降ろして診察室に運び込み、優しく乳首にワセリンを塗ったりしておった』
「めっちゃ酷使してますからね……」
俺も自分自身に塗りたくなってきた。アオキに売ってるかしら?
『その後、三体目を降ろそうと駐車場に向かったところ、なんとハイエースが影も形も無かった。
一瞬慌てたが、レインボーシステムを駆使してOBSの居場所を調べたところ、真っ直ぐ県道を駅に向かって進んでいることが分かった。
OBSにはGPS的な機能も搭載しているのだ。具体的には乳首に超小型発信機が埋め込まれている』
「だからなんで乳首!?」
『また、竜胆くんとチクチンも部屋にいなかったが、彼らの筆談したメモが散らばっていたため、なんとか内容を解読したところ、公開ア○ル自殺計画の全貌が判明した、というわけだ』
「そうか、さっきもメモ使って会話してましたからね。
でも、誰が車を運転していったんですか?
竜胆くんはまだ中学生だし、チクチンはあんな身体だし……」
『あのハイエースは緊急時に備え、チクチンでも運転できるように改造を施してある。
この前の飲み会で酔い潰れた我々を運んでくれたのは彼だぞ。
ちゃんと第十一話のタイトルで伏線を張っておる』
「でも、彼自身が運転していたら、OBSは発進できないのでは?
代行でも頼んだんですか?」
なんか今一瞬司令のメタ発言があったけど、俺はさりげなく無視した。
『うむ、実はあの竜胆少年は、OBSに対するかなりの高さのシンパシー・レイシオを有しておる。
多分、彼には余裕で操縦可能だ。
もっとも高峰先生の手前もあり、チクチンと羊女にしか教えてないがな』
「え? てことは……」
『そう、彼は四人目のパイロットだ。
よかったな、早速後輩が出来て』
「なんであんたのまわりには、そんなにOBS操縦者ばかりホイホイ集まるんですか!?」
『そりゃ、都合良く主人公に惚れる女しかいない異世界の逆みたいなもんだろ』
「意味分かりませんよ!」
『そんなことよりそろそろテイクオフだ。
しかしさっきからお嬢ちゃんやけに静かだな』
「あっ、ひょっとして……花音、起きろ!
自分から乗りたいって言ったんでしょ!?」
「ムニャムニャ……パパ……おっぱい……陥没乳首……」
『え、そうだったのか?』
「違うわボケェ! まったく、だからお昼寝しなさいってあれ程言ったのに、パパの穴という穴に異物を挿入しようとして全く寝ないんだから!」
『早く起こした方がいいぞ、離陸時の衝撃で泣かれても困るしな』
「花音、起きろ! 起きたら後で夕ご飯のデザートにサクランボ食べるよ! 山形の高級佐藤錦だよ!」
「むっ! 美味! チェリーなゆううつ!」
さすが食欲魔人、食い物で釣ると一発で覚醒したようだ。
『さて、行くぞ! 彼らの計画を何としてでも阻止してくれ! 機首を上げろ!』
「はいよ! えーっと、確か……」
「パパ! 右乳首!」
いつもの刺激が俺のアンディに走る。
「痛い! 分かってるって教官!
それじゃタッチダウン開始!」
『それは接地と着陸だ馬鹿者!』
とまあ色々あったが、俺達はなんとか無事、茜色の大空へ飛び立った。




