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第百七十四話 ダ・カーポ その2

 悪夢の中に存在する腫瘍のような腹から生えた角刈りで小太りのオヤジは、最初は人面痩程度のささやかなものだったのに、みるみるうちに頭、首、肩、両腕、胸、腹、両足と母体から産み落とされる新生児の如くするすると出現し、全身が一通り揃い人の形を成していった。


「あああ……」


 とてつもない惑乱の渦中で俺の脳内の海馬が焼けた針で突き刺されたかのように刺激に曝される。


 俺は、このあまりにも異常で非現実的な現象を知っている。


 そして、こいつらの名前も。


「ひょっとして、これが、OBS……?」


『その通りです、お父さん』


「何っ!?」


 突如、俺に向かって葉擦れにもにた微かな声が語り掛けて来た。


 俺は一瞬幻聴かと耳を疑ったが、今や夜空を埋め尽くさんばかりに膨張した、光り輝く巨大な女性の口元が、声と同期して動いていることに気づき、愕然とした。


 確か、彼女の名前は先ほどいきなり俺の脳裏に真冬の雷のごとく閃いたのだが……


「あんたの名前が花音なのか!? 教えてくれ、『お父さん』ってどういう意味だ!? このよくわからんオヤジ達は一体何だ!? この回りの連中は!? そして、俺は誰なんだ!?」


 矢継ぎ早に天に向かって質問を繰り出すも、女神のごとく地上を見下ろす女性の眉は憂いに潜み、悲し気な微笑を浮かべるのみだった。


 俺はこの時、地の底から這い上ってくる悪寒に包まれ、心臓を死神に鷲掴みにされたような恐怖に襲われた。


「俺は今の状況に見覚えがあるのだが、ひょっとして、この場面を既に体験したことがあるのか!?」


『はい……少しだけ記憶を取り戻されたようですね、お父さん。それは既視感でもなんでもなく、あなた自身の過去の経験です』


 花音という謎の女性の声が、干ばつ期の慈雨のごとく再び空から降り注ぎ、俺のすっからかんの中身を潤していく。


「ど……どういうことだ? 俺は過去の世界に戻ったということなのか? 一度タイムスリップしたのか?」


『厳密に言うと少し違います。ここは完全に同じ過去ではありません。次元的に微妙にずれています。そしてこれが初めてというわけではなく、この現象をあなたはもう何回も何十回も何百回も、それこそ数えきれないくらい行っています、お父さん』


「……えええええええええええええええええっ!?」


 非現実的な女性のあまりにも非現実的な発言に、俺は心底驚き全裸のまま絶叫した。


『でも、こうするしかお父さんの命を救う方法がなかったのです。お許しください。そして、私の力もここまでです。次元の移動に能力を使いすぎ、もう、身体が長く持ちません』


「えっ!?」


 よくよく見ると、確かに元から水彩画のごとく薄かった女性の身体が、更に透明度を増し、空と同化していくのがわかった。


 先ほどまでまばゆいほどだった全身の光も、今では燐光のように淡く、夜の闇に紛れようとしていた。


「待ってくれ! 消えないでくれ! 俺にもっといろいろ教えてくれ! あんたはどうしてそんな不思議な力を持っているんだ!? どうして俺の命が次元移動とやらをしないと危なかったんだ!? そして俺はこの後いったいどうなるってんだ!?」


 俺は真夏の陽炎よりも薄っすらとなった女性の残像に向かい、ただただひたすら呼びかける。


 だが、返って来たのはぞっとするような絶望を孕んだつぶやきだった。


「……これからお父さんがどうなるかは、知らない方が幸せだと思います。知れば、絶対死を選ぶでしょうから」

誠に申し訳ありませんが次回も一か月後の更新になります。すいません!では、また。

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