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第百六十七話 星の…… その6

 俺は暮れなずむ砂漠の真ん中でそっと目を閉じると、妻と過ごした懐かしき日々のことを心に思い起こした。


 あの頃は何もかもが、洗濯したての純白のシーツのように輝いて見えたものだ。


 初めての恋、初めての二人暮らし、そして初めての……


 カッと音を立てんばかりの勢いで開眼した俺は、筆を握りしめると記憶を辿り、一気呵成にそいつを描き上げた。


「ほら、あんたの欲しいおちん◯んはその中にいるよ!」


 それは、明治時代にとある元武家のお嬢様がソーセージを作る材料と勘違いしたり、「ターヘルアナ富子」に出てきた近藤無太郎先生の語源となったもの、または「喧嘩商売」ではそれの代わりにサランラップが推奨されたもの……フレンチレター、ジョニーとも呼ばれるもの、すなわちコンドームだった。


 ち◯こをすっぽりと覆った形状のそいつはモザイクも必要とせずに誇らしげにそそり立ち、夕日に照らされほんのり赤く染まっていた。


 つまりは苦し紛れである。


(そういや『昔のエロアドベンチャーゲームで、アイテム探しでベッドの下を調べたら、使用済みコンドームばかり見つかるゲームがあったので勘弁して欲しかったです突撃一番!』って、某肉饅頭がほざいていたっけ……)


 疲れ切った俺は果てしなくどうでもいいことを思い返しながら、胡乱な眼差しで小憎らしいガキを見つめた。


 それにしても、なぜ俺は飲水確保のためとは言いながら、どこの馬のおちん◯んじゃなかった馬の骨ともわからぬ少女にこんなにも真摯に付き合ってやっているのだろう?


 花音に似ているというだけでは最早説明がつかなかった。


 彼女の仕草や言動の中に見え隠れする何かが、俺の心の奥底に眠る開けてはならぬパンドラの箱を、いくら注意してもやめない子供のちょっかいのごとく、執拗に刺激してくるのだ。


 もう少し、あともう少しで、何かに気づきそうなのだが……


「ディ・モールトベネ!」


「えっ?」


 なんと、ホシノがスケッチブックを右手でパンパンと叩いて左手をサムズアップしたため、俺は目を疑った。


「ブラボー! ハラショー! ハウディホー! いいね、これ! 面白いよ、君! 特に銘柄が実写版GANTZで嵐の二宮和也君が夏菜とあわよくば一戦交えようと思って購入した『うすぴた』ってところが粋で、わかってるねえ穴が血おじさん! あれってコンビニによく売ってるしね! ひょっとして使ってた?」


「その通りだよ! 悪かったな、愛用してて! GANTZスーツもびっくりの伸展性だよ! てか詳しいな、おい!」


「ボク的には『オロロ畑でつかまえて』に出てきたLOVEち◯こパッケージの銘柄も捨てがたいんだけどね。


 そういえば、自称エロ漫画家がヒロインのホラー小説『クリムゾンの迷宮』にも、水筒代わりになるのでコンドームが出て来たけど、クリムゾンって意味深だよね、エロ漫画家だけに!」


「知らねーよ! てか意味わからんわ!」


「おや、寝ちゃったよ、じゃなかった、萎えちゃったよ、このおちん◯ん」


 いつの間にか、薄いピンク色のゴムを被ってスケッチブックから飛び出して来たおぞましい蛇に似た生物を、底知れぬ魔性の少女は目を細めて楽しげに指先でツンツンしていた。

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