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第百六十二話 星の…… その1

「……お〇んちんの絵を描いてよ」


「……」


「裸ん坊のおじさん、お〇んちんの絵を描いてよ」


「……は?」


「ねえ、お〇んちんの絵を描いてったらぁ!」


「……はいいいいいいいいいっ!?」


 まるで千の鈴の鳴り響くような可愛らしい声が、声と似あわぬとんでもないことを訴え続けるので、俺の意識(っていうか意識しか存在しないんだが)は無理矢理覚醒させられた。


 砂まみれの顔をゆっくりと上げ、肛門が痛むのにも耐え、半ば砂山に埋没していた身体をなんとか起こした俺の前に、何とも信じ難い奇妙な光景が広がっていた。


「か、花音……?」


 そこに立っている、ボサボサ頭の黒髪で、白いワンピースをふわりと羽織って、肩から画材がはみ出しているカバンを下げ、右手に絵筆を、左手に鉛筆を挟んだスケッチブックを持っている少女は、まさに我が最愛の娘、花音に他ならなかった。


 いや、目を擦ってよくよく見ると、現実の花音よりもずっと背が高く、8、9歳ぐらいに見えるのだが……


「かのん? ちがうよ、ボクはそんなどこかの双子座の片割れみたいな名前じゃないよ。


 そんなことより早く、お〇んちんの絵を描いてよ、お〇んちん丸出しのおじさん」


 白鳩のように小首を傾げて可愛く否定する謎の少女は、相も変わらず少女が口にすべきではないおぞましい単語を連発するため、俺は脳天をモーニングスターでかち割られたような気分になった。


「っていうかなんでそんなもん描かなきゃいけないんだよ!?


 嫌だよ俺は! わいせつ画像流布で捕まりたくねーわ!」


 乾いた喉を無理矢理ごくんと鳴らした後、当然の如く俺はブチ切れ、どこともしれぬ砂漠のど真ん中で絶叫した。


「モザイクかければ大丈夫だって」


「誰がかけてくれるんだよ!? モザイクトーン持ってねえよ!


 それに俺、絵が超下手くそなんだよ!


 相手の恋愛対象年齢を10歳下げることが出来る、何処で役に立つのかよくわからん能力者とかが出てくる頭脳バトル漫画『アクマゲーム』の主人公並みに酷かったんで、嫁からは『画伯』って呼ばれていたんだよ!」


 俺はほじくり返されたくないトラウマを何故か自らカミングアウトせざるを得なかった。


「そんなに卑下しなくてもいいよ。まずは人体の筋肉のデッサンからだって、山本四角改め山本しかく氏も言ってたよ」


「知らねえよ! ていうかち〇こはフツーそこまでデッサンしねーよ!


 ほら、俺の絵が以下に下手くそか見てみろや!」


 俺は彼女の手にしたスケッチブックをふんだくると、鉛筆を抜き取り、大蛇が象を丸のみにした、帽子そっくりのあの有名な絵とその中身の絵を、某郵便飛行機乗り作家よりも更に酷い歪んだ曲線で殴り描きした。


「うーん、ボク、丸呑み画像に興奮する性癖はないんだよね。それに断面図フェチでもないんだよ」


 少女は俺の力作を辛辣に批評する。


「俺だってねーよ! かの岡本倫先生だって、断面図や性器を直接描くのはエロに非ずとフライデーされておっしゃっておられたぞ。


 後、本当は巨乳が嫌いだとも言ってたけど、最近そう言う巨乳絵師さんが多くて残念な……ってんなこたどーでもいい!


 とにかく無理なんだよ! 無理無理無理無理無理無理ィィーッ! 自分で描けよ!」


 あまりにも絶叫しすぎたせいと、茹るような暑さのせいも相まって、先ほどから感じていた喉の渇きが絶好調となり、俺は一刻も早くオアシスを発見したい気分になった。


「ボク、そんな変な物描きたくないんだよ。


 それによく知らないし、やっぱついている人に描いてもらうのが一番でしょ?」


「いやその理論はおかしい! チンコプロポーションXアンド心のチンポジ!」


「なんだかよくわからないけど残念だな。せっかく色塗り用の水まで持ってきたっていうのに」


 少女がカバンの中から青みがかった水筒を取り出す。


「み、水!?」


「描いてくれないし捨てちゃおうかな?」


「ま、待って! 描くよ! いや、描かせてください! 是非とも! お願いいたしますお嬢様!」


 俺は自分でも嫌になるくらいプライドを捨て去ると、地面に這いつくばって小さな依頼主に土下座した。


 仕方なかろう、悲しいけれど弱い人間は生理的欲求には基本的に逆らえないのだから。

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