第百五十九話 心の海 その2
「つまり人は年齢をとると、どんどん好みや考え方が変わってくるということだ。
過ぎたことや古い慣習に拘らず、柔軟に生き、今まで当たり前のように出来ていたことが、ある日突然出来なくなっても、決して絶望せず、前に突き進め、ということだ。
輪廻の輪には必ず終わりが来る。
『ハンター×ハンター』だって、俺の生きているうちには完結しなかったが、作者がいつの日かやる気を出して、終わらせる時が必ず来る。
FSSだってバスタードだってガラスの仮面だってコボちゃんだってきっといつか完結する。
家族を信じ、仲間を信じ、運命を信じろということが、結論として言いたかったわけだよ」
名古屋城の鯱の如く金色に輝く司令は、あたかもオデュッセウスが今後の運命を知るために、生きたまま冥界に下って会いに行った予言者テイレシアスのように、俺の未来を知っているかのような口振りで、俺に滔々と語った。
「多分いいこと言ったつもりなんでしょうけど、話の流れ的にすっげえ無理がありますよ!
まったく今、外の世界は大変なことになっているんですから……」
俺は、愚痴をぼやきながらも、司令が亡くなってから、現在に至るまでの状況を手短に説明した。
「そういう司令こそ、あんな悲しい出来事があったっていうのに、後悔したり、絶望したりしなかったんですか?」
「もちろんしたさ。だからこそ、君にはそうなってほしくないと願っている。
愚かな私の二の舞にならないでくれ。
それに、私は今襲撃中の子宮型エロンゲーションとやらとの戦いが最後ではないと思う。
この後に続く、想像を絶する何かが必ずある、そう信じている」
「ええっ、黒ヘルメットの遺言で、最強のエロンゲーションが最後だって言ってたじゃないですか!? 今の奴、結構強いですよ!」
「確かにそのようだな。しかし、漠然とだが、ある嫌な予感がするのだ。
実は君も、君の頭部のように薄っすらと、それを感じているんじゃないのか?」
「……!」
俺は現在この場には存在しないはずの、自分の心臓がドキンと跳ね上がったような気がした。
確かに、心当たりはあった。
あの夏の日、妻の実家の料亭で見た、血に染まったように赤い雛段の片隅に……。
「どうやら、思い当たる節がありそうな顔つきだな。
でも、これから何が起ころうとも耐えるんだ。
先ほども言ったが、何事もいつかは必ず終わりが来る。
俺もかつて、全ての関羽フィギュアを購入する『何でも関帝団』を立ち上げたが、志半ばで資金がショートして挫折したことがある。
そういや最近あまり関羽フィギュア見なくなったけど、『僕の妹は漢字が読める』で関羽のおっぱいマウスパッドの話が出ていたのは嬉しかったな」
「限りなくどうでもいい例えですね!」
「おっと、すまん。久々に他人と話せるのが嬉しくて、つい無駄話に花を咲かせてしまったな。
そういや無駄話ついでだが、『THEレイプマン』の続編ってやらないのかな?」
「今のご時世厳しいですよ、それ!」
「まあ、いいじゃないか。例えば『帰ってきたレイプマン(娑婆へ)』ってタイトルなんかどうだ?」
「どっから帰ってきたんですか!?」
「ハハハ、レイプ星からじゃなさそうだな」
「最悪な名前の星ですね……」
「じゃあ、『レイプマン二世』ってのはどうだ? バビル二世みたいに」
「なんか強姦で出来た子供みたいで、すっげえ嫌なんですけど……」
やや突っ込み疲れてきた俺は、何故こんな意識の底の世界でレイプマン談議を続けなければならないんだろうかと悲しくなってきた。
助けてレイプマンが大好きな平野耕太先生!




