第百五十四話 新作落語「万札怖い」
俺は明らかに、また幻覚を見ていた。
庭師の爺さんが、「なんて気持ちのいい連中だろう……ウッ」とか言いながら、顔の角ばったインターポールの警部を抱きしめていた。
警部は真面目な顔をしながら、「庭師はとんでもないものを盗んでいきました……本官のア〇ル処女です!……ウッ」とか呻いていた。
それを、「カリ〇の同人誌は当時あたしも結構持っていたけれど、大抵危ない薬漬けにされちゃったクラリんが伯爵に玩具にされているのばっかりだったので、あれで催眠モノとNTRものに目覚めちゃったわ~。
それにしても老監督様にしては、触手とナイスなババアが出てこないのは解せないわね。まだこの時は本性を現していなかったのね~。
さて来週の放送は、高田由美、関俊彦、玄田哲章、小杉十郎太などの豪華声優陣が出演する、老監督様を激怒させ、関わったスタッフは追放されたという伝説の名作、『バルテュス ティアの輝き』をお送りするわよ~」と、ミル姉さんが気だるげに解説してくれた。
俺は、なんて嫌な金曜ロード○ョウだろうとげんなりしながらも、意識が遠いどこかに運ばれているのを薄っすらと感じていた。心の旅はまだこれからだ。
「え~皆さん、本日は良いお日柄で。では只今から新作落語、『万札怖い』を一席ぶたせていたたきやす。えっ、もう題名が出オチだってえ?
ちょいとそこのお婆ちゃん、じゃなかったお嬢さん、それを言っちゃあおしめえよ。
あたしゃ新作落語では、ある大晦日の晩に、貧乏な父親と二人の息子の三人がソープランドに行って、『一人分の料金しかないんですが……』っていう人情噺の『一発のお〇んこ』が大好物でやんすが、確かにそれよりかは一段落ちると思いますけど、まあまあ、とりあえず聞いてやって下さいよ。
えーっと、昔々、じゃなかった、つい最近の話ですが、とある貧乏なくせにソシャゲに嵌ってパフィーニップルじゃなかった陥没乳頭疑惑があるパッ〇ョンリップちゃんを召喚するためジャブジャブ湯水の如く課金していたネット依存症一歩手前のコンビニバイトの若いフリーター男が一人でボロアパートに住んでおりました。
さて、あるとても暇な日の午後、彼はとうとう資金が尽きたのでボケーっとネットサーフィンしながら『どこぞのオリジンな金欠ロボットみたいにネットでエロ漫画でも描こうかなー』などと金の溜まる方法を考えておりましたが、ふと、『そういや一万円札ってしばらく拝んでないな~』と思い、何がどう繋がったかわかりませんが、ググってはいけない裏単語、『福沢諭吉』を検索してしまったのであります。
それまでの彼の貧弱な知識では、福沢諭吉とは、しょっちゅう竜破斬を悪党どもにぶちかます、大魔導士のリナ・イ〇バース先生が知っている大賢者、という程度の認識ですが、調べていくと、とんでもない記事に出くわしました。
昭和の時代、死後76年目に、墓の移転のために彼の遺体を遺族が掘り起こしたら、地下水に浸って屍蝋化していた、というのです。ついでに屍蝋関係の写真もいっぱいヒットして、彼は盛大に昼食べた物を吐きました。
以来、彼は万札を見ただけで嘔吐するようになりました。あの無表情な顔が、そのままの姿で、開眼したまま冷たい水の底に沈んでいるイメージを思い浮かべてしまい、胸がむかつくのです。
幸いそんなに万札を持ち歩くことはないので、その点はよかったのですが、コンビニのレジ打ちなんかとても務まりません。
客が万札を出したせいで思わず熱々おでんにゲロって、とっても香ばしいメニューに早変わりしたりなど、散々な伝説を作る羽目になってしまいました。
結局彼は品出しと掃除だけする、とても使えない店員となってしまったのです。
友達と飲みに行った時も、彼は全てズボンのポケットから出した小銭で払う有様でした。万が一諭吉が混ざっていないか、札入れを持ち歩くのも嫌だったのです。
『お前、どうして小銭ばっかり持ち歩いてんの? 自販機のお釣りあさりとか趣味なの?』と悪友Aが尋ねました。
『いや、ちょっと、お札が怖くなっちゃって……』と彼は恥ずかしそうに打ち明けました。
『お札が怖い!? 僕もなんか最近流行りの仮想通貨ってのはちょっと怖いけど、お札はなあ……ちなみにビッ〇コインじゃなくて、DLサイトとかでエロ同人ソフトが買えるビッ〇キャッシュは大好きだけど』と重度のオタクの悪友Bが呑気に言いました。
『仮想通貨とは意味が違うよ! もう、見ただけで吐いちゃうんだよ!』
『臭いとか駄目なのか? 俺はお札のインクの臭いは結構好きだが。たまにストリッパーのパンティに突っ込まれた後のような臭いのするやつもあって想像力が高まるぞ』と重度の変態の悪友A。
『臭いはあんまり関係ないけど……』
『今度、お札で作る折り紙の本をあげるよ』と悪友B。
『やめてよ! それより今からうちに来て、全員女子高生PC演じる舶来物のTTRPG『パンティ爆発』するんじゃなかったの? 早くしようよ』
というわけで、三人は連れ立って彼のアパートまで来ました。しかし彼が小銭に埋もれた鍵を探している間、邪悪な悪友Bが悪友Aにそっと耳打ちしました。
『ねえねえ、面白そうだから、彼にお札を投げつけてみない? どういう化学反応が起こるか興味あるでしょ? ちなみに生憎僕は手持ちがないから君が出してよ』
『お前なあ……でも、それも面白そうだな。以前あいつに貸したエロ漫画が、全てパフィーニップルに描き換えられていたから、復讐しないとな』
というわけで、悪友Aは札入れから千円札を一枚そっと引っこ抜くと、『おーい開いたぞ、上がって上がって』という彼に向かって放り投げたのです。
『ギャーッ!』と彼は叫ぶと、千円札を握りしめ、部屋の中に飛び込んでいきました。
『あれは……怖がったのか? どうなんだ?』と、なんか無駄な浪費をした気になった悪友Aは悪友Bに尋ねました。
『よくわからないよ、覗いてみたら?』
というわけで、悪友Aが玄関に入ると、彼はちょうどお札をポッケナイナイするところでした。
『おい、話が違うぞ!』と怒鳴る悪友Aに対し、彼はにんまり笑って、『ああ、樋口が怖い、樋口が怖い』と言ったのでありました。お後がよろしいようで」
「だから何なんだよこれは!」と怒鳴る俺は、見る見るうちに目の前の落語家が雲散霧消し、ようやく出口に辿り着いたのを感じた。何故なら……
空飛ぶ巨大おっぱいが現れたからだ。