第百五十話 祝・百五十回! そして……
不本意ながら、OBS相手で男相手のキスは慣れているとはいえ、やっぱり口元に当たるヒゲやナメクジのごとき感触は気持ち悪く、そもそも相手はよく知っている人でしかも生きておらず、いろんな意味でハードルが高いので、これ以上吐くものがないはずの俺も更に何かがこみ上げそうになったが、そこまでしてもまだ、司令は目覚めそうになかった。
「うーむ、まだダメながか? こうなったら思い切って舌を突っ込んでみい、太郎!」
「ディープキッス見たい! ディープキッス見たい!」
「あんたら他人事だと思って好き勝手言わないでちょーだい!」
さすがに俺も切れそうになって一旦顔を上げて無責任な外野に向かって叫んだが、今日一日ですでに一ヶ月分は突っ込んでいたので心身共に疲れ切っており、「男は度胸」と再び意を決し、司令の貝のごとく硬く閉ざされた口腔内に、そっと舌先を押し入れた。
途端にまるでブラックホールのような凄まじい吸引力で、司令の口が俺の舌に吸い付いてきた。
「うんぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!?」
「おおっ、まるで仕掛けにすぐに食いつく貪欲な河豚みたいやな」
「フレンチキッス! フレンチキッス!」
俺はうるさい周囲を無視しつつバキュームフェラもびっくりの司令のひょっとこ顏を文字通り目と鼻の先に見ながら、条件反射でマイタンを引っこ抜こうとするも叶わず、ついにはブラックホールに捕まった哀れな物質のごとく意識まで闇に吸い込まれていった。
「夕飯を食べようとした時、外から『誠に申し訳ありませんが、当○○地区では点検のため、本日午後7時から午後8時までの間、全住民の皆様の心臓を止めさせていただきます。繰り返します……』いう放送が聞こえてきた。
次の瞬間、私の身体が急に動かなくなり、手から箸を取り落とした。
見る見るうちに視界が狭まっていき、全身の血の気が引いていく感覚に襲われた」
「亡くなったはずのお母さんが、夜中に青ざめた馬に乗って枕元に現れ、『まだ起きていたの?』とつぶやくと馬もろとも骸骨化して冷凍庫の中に入っていった。
そういえば中には、『絶対に食べるな』というラベルが貼られた肉が入っていた」
「『よくこんな名前の事務所に来られましたね』
まだ中学生くらいの少年が、お盆にお茶をせて運んできた。
『最早高名な先生におすがりするしか方法がないのです。どうかお助け下さい!』
白髪頭の老人が、ソファに腰を下ろしたまま、深々と頭を下げる。その隣では、紫頭の老婆がフガフガと何やら呟いている。
『コーホー』
老人の対面に腰掛けているのは、スキンヘッドの大男で、鼻と口は呼吸器で覆われ、謎の呼吸音を発している。
ちなみに呼吸器は背中に背負った酸素ボンベに繋がっており、まるで潜水夫のようだ。
『先生はこの通り会話が不自由なため、僕がご依頼を伺います。どのような内容ですか?』
先程の少年が大男の傍らに立ち、優しげに問い掛けた」
「月夜の海に面した断崖絶壁に通じる細い坂道を、大勢の裸の人間たちが手を合わせながら黙々と登っていく。
やがて頂上に着いた人から順番に崖の下へと飛び込んでいく。
海面に叩きつけられ、全身の骨が折れて絶命した人々を、水中に潜む鱗の生えた何者かが貪っているようで、海水は流血で真っ赤に染まっている。
やがてその生物たちが海から四つん這いで岸に這い上がっていくと、その見るに堪えない身体が徐々に人間の姿に変わっていく。
その人々がまた浜から崖に続く道を蟻の行列のごとく順番に上がって……」
「うがああああああ、なんじゃこりゃああああああああっ!」
おぞましい情景が次々と脳裏に焼けた針のように挿入され、俺は何処とも知れぬ空間で、けたたましい悲鳴を上げた。
『落ち着け太郎、うらの呼びかけが聞こえるか?』
「そ……その声は高峰先生!ここは一体どこなんですか!?」
俺は、地獄に顕現した地蔵菩薩にすがる亡者の如く、必死に何処へともなく叫び返した。
誠にすいませんが、現在身体症状悪化のため、長期療養することになりましたので、一か月間程休ませて頂きます(なんかいろいろ腐ってます)。
必ず再開しますので、お許しを……では、また。