第百四十三話 新司令爆誕!?
「いっそ高峰先生に任せたらダメなのか?」
「あいにくうらは一度もOBSに乗ったことなんぞないし、司令みたいに詳しいわけやないんで、お断りだが」
「うーん、じゃあ羊女は……」
「悪いけど、あたしってば戦闘センスは欠片も持ち合わせていないのよねー、太郎ちゃんならよく知ってると思うけど」
「よーく知ってるよ! てかやる気出せよ! そもそもなんで操縦士なんかやってんの!? じゃあ、竜胆は……」
「僕も命にかかわらない安全地帯にいたいのは山々なんですが、実際に今までエロンゲーションと戦った経験が一度もないんですよ、すいませんね」
「そうか……こうなったら、チクチンは……」
俺はダメもとで足元に向かって話しかけるが、ヒューっ、ヒューっ、という、喘鳴音が微かに聞こえてくるのみだった。
「聞いた俺が悪かったよ……」
「というわけで、パパ、潔く諦めろ!」
なぜか花音が俺の尻を昆布でポンと叩く。お前それ送り主の目の前でやるなよ!
「そうね、あたしが命を託せる戦闘のプロなんて、どう考えても太郎ちゃんしかいないわ~」
「消去法って素晴らしいですよね」
サイコ野郎どもが無責任に談笑してやがる。
「お前ら俺の命令素直に聞いてくれるとは思えねーよ! てかなんで皆俺に厄介ごと押し付けんの!? 無理無理無理無理ぃぃぃぃっ!」
「大丈夫や太郎、そない心配すんな。いざとなったら花音ちゃんに聞け!」
鶴の、いや猪の一声で、俺は目出度く新司令に昇格しました。
「臭い……」
司令の証たる黒く輝くフルフェイスヘルメットをガボっと装着した俺の第一声は、我ながら悲痛極まるものだった。
司令のオヤジ臭が青カビの生えたチーズのようにねっとりと染み込んでおり、今日一日中吐いてばかりだった俺の胃袋がまた蠢き出した。
せめてファブリーズとかしといて欲しい……。
「長い間ずっと司令の死体と一緒に物置に放置しといたからなあ、仕方ないがや」
「まだ安置してたんですか遺体!」
「それはさておき、調子はどうや?」
俺は、ジョセフィーヌの◯◯◯臭に耐えるナポレオンのごとく息を止めながら、画面を凝視する。
様々なウインドウやゲージ類が確認でき、レインボー・システムは概ね正常に作動していた。
「大丈夫そうですよ。サングラスの時よりも視野が広いし、上手く使えそうです……臭いさえ無ければ」
「そいつは良かった。ところでニュースはなんかやっとりゃせんか?」
どっかと後部座席に陣取った高峰先生が、助手席で車内テレビを調節している羊女に声をかける。
「まだどこも放送してないわね……ん?」
MHKにチャンネルを合わせたカマ羊が、緊急速報の白いテロップに気づき、釘付けとなる。
「何々……『X駅東口上空に、謎の浮遊物体が出現。裸の男性を拘束しており、危険が予想される』ですって!?」
「か、花音の言った通りだ……」
俺も一旦レインボー・システムを停止しテレビを穴のあくほど見つめた。
「イエス!アイムジーニアス! 俺は天才だ!」
相変わらず昆布を手放さない二歳児が戯言をほざく。
見る間に画面は切り替わり、雪景色の中を大勢の人が行き交うX駅前が映し出された。
女性のパンティにも似た、複雑だが優雅な曲線を描くガラスドームの真上に、今や直径5メートル程に膨れ上がった蘭布ちゃん(子宮)……否、もはや子宮型エロンゲーションと呼ぶにふさわしい存在が浮かび上がっていた。
ちなみに子宮孔のところからは、ふりちんの会長の下半身が突き出ており、ちゃんとモザイク処理が施されていた。嫌過ぎる!
でも、全国放送で粗チンを公開されるのも屈辱だろうし、優しい配慮かもしれない。さすが公共放送と言うべきか……?
「蘭布ちゃんなにやってるんでしょう? まるで酔っ払っているような……」
竜胆の指摘通り、よく見ると巨大子宮は一箇所にとどまらず、ドームの上空をふらふらと漂っている様子だった。
「ひょっとしてなんか怪しいものでも飲ませたのか?」
「未成年だしお酒は飲ませてないですよ。一度ワカメ酒をやって欲しかったんですけどね」
「貴様は自分の松茸酒でも飲んでろ!」
「静かに二人とも! 蘭布ちゃんの様子が変よ!」
「ん?」
羊女の指摘通り、急に二本の卵管がシュルシュルと触手のように伸びたかと思うと、雪の降り積もったドームの屋根に触れ、凄まじい勢いで擦り始めた。