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第百四十二話 ラスト・エロンゲーション

 最初に登場したのは唇だった。


 その次がおっぱい。


 三番目が小腸及び大腸。


 そして今回が子宮。


 かつてない緊張感を覚え、産毛まで逆立ちしそうになりながら、俺は5カ月前に高峰クリニックで拝聴した、司令の遺言メッセージを思い起こしていた。


「エロンゲーションを全て倒せたのかどうか、それだけが心残りだが、最後に出現する敵は、今までとは比べ物にならない、とんでもない強さだと思うので、十分気を引き締めて欲しい。多分一目で分かる筈だ」


「確かに仰る通りでしたよ、司令……」


 知らず識らずの裡に、俺は死者に対して語りかけていた。


 間違いない。


 蘭布ちゃん(子宮)こそが最後にして最強のエロンゲーションだ。


 女性のシンボルそのものである臓器が覚醒した禍々しい姿は、今まで戦ったどの敵に対しても感じたことのない、一種形容しがたいオーラを放っていた。


 全てがペンキで塗り替えられたように白一色に変わった街を、竜胆と花音を乗せてポルチオじゃなかったポルテを高峰クリニックに向けて走らせながら、俺は携帯で羊女に連絡し、早口で事情を手短に説明し(かなり奇想天外なネバーエンディングハーブストーリーになったが)、死ぬ気で急いでクリニックまで来いと吐き捨てると、奴が妄言を垂れ流す前にすかさず切った。


 正直あいつの力なぞ借りるのは死んでも嫌だったが、事態が切迫しているためにやむを得ない。


「それにしても蘭布ちゃんはいったいどこに向かって飛んで行ったんでしょうね……」


 幾分落ち着きを取り戻した助手席の竜胆が、泣き腫らして赤くなった瞳で流れ行く街並みを眺めながら、独り言のようにつぶやいた。


「さあ、俺にもさっぱりわからんが、いずれニュースとかで報道されるかもな。


被害者が出る前に、なんとかOBSで追いかけないと……」


「わかった、パパ、X駅だよ! 謎は全て解けた!」


 後部座席に巨大昆布と一緒に座っていた花音が急に大声を上げたため、俺は危うく雪道でスリップしかけて急ブレーキを踏んだ。そういや金が無くて未だタイヤ交換してなかったわ!


「な、なんでそう言い切れるんだ、花音?」


「蘭布ちゃん、駅のドームで占いしてるって言ってた! きっと正気は無くしかけていても、最後の望みをかけてあれに助けを求めに行ったと思う! 元に戻れますようにって!」


「なるほど、さっすが我らの懐刀の花音ちゃん! 自称探偵のどこぞのへっぽこハゲとは雲泥の差の名推理ですね! 親の顔が見たいですよ!」


 急にいつもの調子を取り戻した腐れエロガキが、シートベルトを引き千切らんばかりに後方に身体を捻る。


「いくらでも見せてやるよ! てか褒めるのはせめて予想が当たってからにしろよ! とにかくクリニックに急ぐぞ!」


 俺は進行方向右手に見えてきた、忌まわしい思い出の多いサルスベリの寒々としたスベスベの幹を睨みつつ、アクセルを踏み込んだ。



 クリニックの駐車場には、俺の連絡を受けていた高峰先生が、すでに三体のOBSをハイエースに積み込んで、チクチンとスタンバイしてくれていた。ありがたや。


「おう太郎、久しぶりのバトルやな。腕は鈍っとりゃせんか?」


「さあ、こればっかりはやってみないとわかりませんがね。それにしても羊女はまた遅刻ですか? ひょっとしていつもの肛門痛ですか?」


「あ〜ら、やっぱりあたしのア◯ルローズが気になるのね、太郎ちゃんったら〜」


 久々に聞く虫酸の走るカマ声が俺の背後から鼓膜を襲撃し、ついでに指先が俺のア◯ルに触れた。これって訴訟とかでなんとか出来ないの?


「だから知るかってんだ貴様の爛れたケツメドなんか! とにかくこれでようやく全員揃ったな」


「チクチン師匠が凍え死にしかかっていますけどね」


「せめて毛布でもかけてあげてよ先生!」


「すまんすまん、最近忙しくてあまり世話してやっていなかったんや。やっぱ竜胆に慣れとったし、うらとの関係は今一つでな」


「完全にペット扱いだな、おい!」


「ところで、ひょっとして全員で出撃するつもりですか、砂浜さん? OBSは計三体しかないし、一人分足りませんよ」


 竜胆が一々もっともなことを言う。


 そういやそうだった。


「うーん、誰を留守番役にすべきか……」


「そりゃ司令役が残るべきよ。誰かが全員に指示を出す必要があるでしょう?」


 カマ羊までもがもっともなことを述べる。


 そう言われると、今までの戦闘では、司令がレインボーシステムを通じて様々な命令やアドバイスを伝えてくれた。


 戦場を俯瞰して見る戦闘のベテランの存在が必要なのは確かなことだ。


 だが……果たしてこの中に、適任者がいるだろうか?

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