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第百四十一話 心理的瑕疵物件の作り方

「蘭布ちゃん、そのクズ人間を殺してやりたい気持ちはよくわかるけれど、そいつをそそのかしたビッチ女はそこの床の染みになっているし、もう十分なんじゃないかな?


 彼も反省しているようだし、これ以上俺の家が死体の山になったらちょっと困るしさ」


 俺は、わりと穏やかに、俺よりも背の高くなった異形の子宮に話しかける。


「お代官様御慈悲を! 警察にも自首しますから!」


 どっぷり死の恐怖に浸かっている襲撃犯が、顔中グシャグシャにしながら、うるさいぐらいに訴え続ける。


「逆に考えると、既に一人この家で圧死しちゃっているんですから、今更もう一人増えても一向に構わないと思いますよ、僕は」


 冷酷極まりない腐れ小僧がいらんことを言って割り込んでくるので、俺も、


「思い切り構うよ! ここ俺んちなんだよ! 二人も死んだ禍家に住みたくねーよ!」


 と、つい怒鳴ってしまった。


「仕方がないですね、せっかく民俗学的忌家の考察が出来るチャンスなのに。


 でも、確かに砂浜さんもお金がないし、引っ越すのは嫌でしょうから、蘭布ちゃんも寛大な心でもって一旦バキュームフェラを止めてやってくれませんか?」


 優しく竜胆が、恋人(?)に対して甘い声音で囁きかけるも、成人男性の腕ぐらいに太くなった蘭布ちゃんの卵管は、フローリングにヌメヌメする液体で、「自分で止められないの」と優雅に字を書いた。


「だそうです。残念ですが、副会長とヴァルハラで再会して共にラグナロクに挑んでください、会長さん」


「嫌あああああああああ!」


 もはや首筋近くまでブラックホールの如き子宮孔に消えた会長が、ビヨンセのセクシーダンスばりに身体をよじって尻を振り、魔の拘束から逃れようとするため、彼の衣服は脱げかけ、学生ズボンどころか下に履いていたヤリチンの証であるボクサーパンツまでずり落ちていた。


「ポークピッツ! 赤ウインナー! 明太子!」


 ゲテモノ大好きな花音は大喜びで俺の携帯を奪い取ってカシャカシャ激写する。やめて! 汚れちゃう! てか待ち受けにすんなボケェ!


「ああああああアアアア嗚呼嗚呼亜亜亜亜ーっ!」


 その時、生死の境目の極限状態のためか、会長の粗末なそら豆が心持ち大きくなったかと思うと、ピルルルルと不快な音を立てて、ネバネバするシロップがそこら中に滴り落ちた。


 なんでこんな展開ばっかりなんだよ!


てか、何度も言って悪いけど……これ、やっぱり俺が掃除すんの?


「嫌あああああああああ!」


 俺も同時に絶叫し、明るかった我が家は、かつての中島らも宅以上のヘルハウスと化した。


 こうなったら、ダス◯ンに依頼するしかない!(費用はこいつら持ちで)


「会長ったら、この状態で人前で達してしまうとは、真の勇者ですね。見直しましたよ」


「お願いだからあんたらまとめて俺の家から今すぐ出て行って! 頼むから!」


 俺の血を吐くような慟哭にも誰も耳を貸さず、事態はどんどん泥沼化し、収束不能なカオス状態となっていった。


 そして、周囲に飛び散った忌まわしい飛沫が蘭布ちゃん(子宮)にわずかに付着した時、全てはカタストロフィーを迎えた。


「ブロアアアアアアアア!」


 突如、全身を激しく震わせ、鞭のような卵管で床を激しく叩きながら、彼女は手負いの獣の如く吠えた。


「しまった、子宮にアレを付けたらいけないんだった! 忘れてた! どうしよう!?」


 竜胆が激しくうろたえ、落ち着きなくしゃべり続けて焦燥感を露わにする。


「落ち着け! いつもの沈着冷静さはどこへ行った!?」


「そ、そうですね。蘭布ちゃん、今その邪悪な悪魔の種を拭いてあげるから動かないで!」


 彼の説得も虚しく、彼女は瀕死の、っていうか恍惚状態となった会長を子宮孔に咥えたまま、我が家を縦横無尽に転げ回り、あらゆる家具をなぎ倒すと、ベランダに面する窓ガラスを突き破り、粉雪の舞う極寒の外に飛んで行った。


「蘭布ちゃあああああああああん!」


 竜胆の必死の呼びかけも、室内に吹き込んでくる冷風にかき消され、もはや人外の領域に踏み込んだ彼女には届かなかった。


「……」


 マイホームを完膚なきまでに滅茶苦茶にされたかわいそうな俺も心底泣き叫びたかったが、虚空に遠ざかっていく子宮の大きさがあまり変わらず、遠近法を無視しているのに気づき、空恐ろしさを感じた。


 彼女は未だエロンゲーション化を止めていない。それが何を意味するのか、今まで何度も奴らと戦った俺にはよくわかった。すなわち……。


「このままではX市が滅んでしまうぞ! 竜胆、来い!」


 俺は珍しく感情を発露して号泣し続ける少年の首筋を掴み、汚濁極まる床をずりずりと引きずって玄関へと移動する。


「花音も行くよ!」


 巨大コンブを槍のように抱えた我が子も、勇ましく後からついてきた。ってそれは武器じゃねえ!

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