第百三十九話 死亡確認
「しかしよく僕の仕業だとわかりましたね」
性的に老成したサイコ少年が眉ひとつ動かさず襲撃犯に、まるで凪いだ海のごとく穏やかに話しかける。
「俺だって最初は本当に書記が化けて出たと信じ切ってしまったよ!
でもなんかやけに性格が違うし、そもそも彼女は陥没乳頭のはずなのに、ずっとビーチクがビンビンにおっ立っているのが不思議だったんだよ!」
よくわからんマニアックな武器を右肘を曲げて構えたまま、全身から怒りのオーラを迸らせながら、会長が会長らしからぬ台詞を快調に叫ぶ。
「ああっ、なるほど! ニップルエンハンサーを装着していたのが仇になってしまいましたか!
さすが学年一位の頭脳は伊達ではありませんね、会長!」
「そこ褒めるところじゃないだろ!」
腐れ外道少年が殺人鬼に賞賛の言葉を惜しみなく捧げるので、俺は強引に会話に割り込んだ。
「というわけで、幽霊が偽物だと見破った俺は、あの屈辱の日から、書記に親しかった者を徹底的に洗い出し、その結果、貴様が捜査線上に浮上したのさ。
蘭布が貴様にほのかな想いを寄せていたことは、彼女をこっそり付け狙っていた時に薄っすらと気づいていたからな」
「ってお前かよ、蘭布ちゃんをつけ回していたストーカー野郎は!」
今更ながら悟った俺は突っ込んでしまった。
「おい竜胆、このうるさいモブ禿げを先に串刺しにしてもいいか?」
「どうぞどうぞ、ウザいし話が進まないしちゃっちゃとやっちゃってください」
「なんであんたら意気投合してんの!? 変態同士だからなの!?」
俺はお外に逃げ出したくなったが、愛しい娘が室内にいるため、危うく踏み止まった。
「仕方がなかろう、副会長の胸はモロ平野過ぎて、時々なんだか男とセックスしてる気分になってしまうので、ホモに目覚めないよう、巨乳でリハビリし、生物学的にバランスを取る必要性があったのだ!」
「ひでえ! なんか理解できない言い訳してるよこの人!」
「ううっ、男の悲しいさがですね……同情はできませんが共感を覚えてしまいます」
竜胆が学生服の袖で涙を拭っている。こいつに復讐するつもりだったんだろうがお前!
「そうだ、副会長のことは心底愛しているが、それとこれとは別問題だ! わかるだろう、竜胆!」
「はい! かのCLAMP先生も、かつてち◯ぽ刑事が連載されていた伝説の雑誌ヤングマガジンアッパーズのおっぱいイラスト企画で、人はおっぱいを見ると血圧が下がって穏やかになるとか申しておられました!」
「だからなんで仲良しこよしなんだよあんたら!?」
「むっ、そういやそうだった。おい、竜胆! 貴様があの日副会長を妖しげな術で拉致したのは間違いないんだ! 俺はこの目ではっきりと見たんだからな! 言え、彼女を何処へ隠した、この人でなしめ!」
俺の一言でようやく我に帰った三白眼野郎は、更に目つきを悪くして、モブサイコ小僧を睨みつけた。
「やれやれ、人でなしはどちらですか、ポークピッツち◯こさん」
此の期に及んで竜胆は、未だに余裕綽々の態度で会長をあざ笑う。悔しいけどこいつの肝っ玉だけは見習うべきかもしれん。
「そ、それを言うなぁ!」
「気をつけた方がいいですよ。愛しいモロ平野、じゃなかった副会長は現在あなたの足元に転がっていますから」
突如魔少年がにわかに信じられない爆弾発言を繰り出した。
「な、何を馬鹿なことを言っているんだ!?」
明らかに動揺した会長が、一歩右足を後退させる。
だが、それこそが命取りだった。
プチっという、舌打ちよりも小さい音が聞こえた。
「あっ、死んだ」
「な、ななななななななななんだって!?」
会長が、手にした武器の存在すら忘れ、激しく狼狽している。
「だから、あなたが今無慈悲にも踏んづけちゃった、粒っとした透明な丸いものが、副会長の変わり果てた姿だったんですよ、南無南無」
「……」
皆、視線がただ一点に集中した。
そのまま時が止まったような時間が流れる。
そして、
「「えええええええええええ!?」」
俺と会長は同時に絶叫した。
するってぇと何か? 蘭布ちゃんがだいぶ前(第百二十五話)にポルチオあたりから床に吐き出した丸い粒みたいなものが副会長だったってことか?
それってまるで……
「ええ、砂浜さんの想像通り、受精卵です。彼女はだいぶ若返っちゃったんですね」
全てを知り尽くしたかのような恐るべき悪魔知の持ち主が、こともなげにうそぶいた。




