第百三十六話 復讐その4
「とまあそんなこんなで、ジグソウさんよりもひどい僕のブービートラップに彼らはことごとく引っかかり、どちらもハーブポイントはゼロのまま、ゲームはまったりと進行していきました。
もちろんその度に一粒ずつ挿入されるので、口腔内はどちらもサルミアッキで満杯です」
「完全に嫌がらせじゃねぇか!」
「だって復讐なんですから仕方ないじゃないですか。ちなみに混入しておいた睡眠薬の粉末には、強烈な利尿薬もブレンドしてあったので、二人のダブルお漏らしで、フローリングはいきなり!黄金伝説と化していました」
「なんでんなもんまで混ぜるんだよ!?」
「これも膀胱を無残に暴行されて強制尿失禁させられた蘭布ちゃんの敵討ちですから、致し方ありません」
「物は言いようだな……」
俺は、サイコ小僧が話す、使用したラ◯ックスという利尿薬は、効果が6時間継続することから”last six”を略してLasixと名付けられたこと、むくみを取ってくれるため、密かにダイエットなどにも使用されていることなどを、疲弊しきった頭でぼんやりと聴講していた。
「さて、汚物まみれの床でのたうちまわった挙句、徐々にぐったりしてきたプレイヤーたちを見下ろして、さすがに僕もちと焦りすぎたかと反省し、『うーん、このままじゃどちらも負けってことで、一緒に恐怖の便器流しの刑にするしかありませんよー、クソ野郎ども!』と発破をかけてやりましたが、あまり芳しい反応は返ってきませんでした。
意外とデスゲの主催者って難しいもんですね」
「ていうかちったぁ手加減してやれよ!」
「確かにこのまますぐくたばってしまってもつまらないので、別のゲームに切り替えようかと学生鞄を漁っていたところ、なんと、くの字になってエビのごとく転がっていた副会長が、殺意のこもった眼差しを僕に向けると、両手を縛っていたガムテープを力任せに引きちぎり、ウサギ跳びをしながら、いつの間にか右手に握りしめた飛出しナイフを、僕めがけて突き出してきました。
思えばコンビニでガムテープを買った時、残念ながら布製のが売り切れていて、紙製のものを購入したのが失敗でしたね。
彼女は密かに尿の海に手首のガムテープを浸して脆くし、もがき苦しむ振りをしながら拘束を緩めていたのです。
脱獄王の白石さんもびっくりな山田くんと7人の魔女ですよ!」
「なんか違う白石が混ざっているよ! しかし、さすが副会長なだけはあるな……」
「ボディチェックをした時には刃物類はどこにも保持していなかったので、多分飛出しナイフは、ア◯ルか女性器にでも忍ばせていたんでしょうね。まったく、油断も隙もないビッチです」
「知るかよ!」
俺は唐突に、(一応)師匠に当たる、狂気のス◯ルファック探偵を思い出し、頭と胃がキリキリと痛くなった。
「咄嗟に避けようとしましたが、上手くかわせず、白銀に輝く兇刃は狙い違わず僕の胸に突き刺さりました!
なんか一昔前のドラマの最終回一話前みたいな展開で興奮しますね! 果たして薄幸の竜胆少年の運命や如何に!?」
「いや、お前さん生きてるから!」
俺はここぞとばかりに盛大にネタバレしてやった。
「……でも、いったいどうやって助かったんだよ?」
「やれやれ、ちゃんと話を聞いていましたか、砂浜さん? その時僕の胸には友の形見、じゃなかった、男を魅了するアイテムが詰まっていたんですよ」
「そうか、ゴムボールか!」
「YES、YES、YES! というわけで、日頃の行いが良かったためか、痛くも痒くもなかったんですが、マーダーライセンス毒ビッチから今や恐るべきアサシンにクラスチェンジした副会長は、手応えと僕の反応に疑問を感じた様子で、眉をしかめながらも、一旦武器を引き抜いて、ウサギ跳びで後方に下がりました。
結構ピンチです!こんなことなら前もって下剤も飲ませておいてやれば良かったと後悔しました」
「それ以上薬事法に抵触しないで!」
俺は半ば涙目になって腐れ未成年者を改心させようと無駄な努力を試みた。
「まぁ、それは冗談ですが、ここでいよいよ本題に入るわけですよ、砂浜さんのところを訪れた相談事の」
「前置きがクソ長過ぎるよ!何時間経ったと思ってんだよ!」
俺は既に昼食時間をとっくに過ぎた時計を指差し怒鳴りつけた。どうもイライラが悪化してきたと思ったら、凄まじい空腹のせいもあったようだ。こうなりゃ昆布でもいいからかじりたい気分だ。
「実は、今お話しした副会長も、現在この室内に存在します。これをどうしたものかと思いましてね」
「ゲエエエエエエエエ!?」
今日何回目になるかわからない衝撃に耐えられず、アパート中に響かんばかりに俺は絶叫した。