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第百三十二話 手記その4 そして

 当然、私は目の錯覚を疑いました。ですが客観的な判断材料となるはずの加害者二人組は、あまりの非日常的状況のために発情し、胸糞の悪くなる抱擁を交わし合っている真っ最中で、私のはらわたのことは一時的にどうでもよくなっておりました。


 そうこうするうちに、その不思議な蜃気楼の如きふわふわとした存在は、次第に濃さを増したかと思うと、私の本物の子宮に染み入るように溶け込んで、こつ然と消え失せたのです。


「さて、それではストロベリーナイトショーを再開いたしましょうか」


 二重子宮のことなどつゆ知らぬ鬼女は、真っ赤な唇から涎を滴らせたまま、再び瀕死の私の方を振り向きました。


 そして、



「ちょっとすまんが、そこで一旦朗読をストップしてくれ。俺はトイレに行きたくなった」


 床に正座しながら、蘭布ちゃん(の子宮)がノートに記した文章を、竜胆が情感たっぷりに読み上げるのを聴講していた俺は、足を崩しながら挙手した。


「ここで嘔吐しても別に構いませんよ、砂浜さん」


「嫌だよ! ここおれんちなんだよ! ていうか吐きそうなのわかってんならとっとと止めてくれよ!」


「だって砂浜さんが全てを知りたいっておっしゃったんじゃないですか」


「可哀そう過ぎるのとゴア過ぎるのでもう耐えられないよ! あとは適当に要約してくれ!」


「はいはい、わかりましたよ、仕方がないですね。あなたがネタバレオッケーなチキン野郎だとは見損ないましたよ」


「ネタバレも時には必要なんだよ!」


 俺はなぜか入院中の仏像紛失事件を回想しながら訴えた。


 こいつならクトゥルー神話に出てくる魔道書や禁書全てを楽々と読みこなせるんじゃないかと予想されるハーブサイコ系においてのみチートな魔少年は、ようやく狂気山脈ノートから手を離すと、自分で持ってきた高級羅臼昆布とやらの端っこをバリっと噛み砕きながら、胸糞悪くなるストーリーを再度語り始めた。てか、確かそれって俺へのお歳暮だったよね……?


「えーっと要するに彼らは、なんとか摘出した蘭布ちゃんの子宮にぶっかけて収縮を満喫した後、先に使用した出刃包丁の他にも、果物ナイフや飛び出しナイフやダマスカスブレードやチェーンソーや骨鋸や肋骨剪刀や双鋸や高級焼き肉用はさみなどのありとあらゆる刃物を使用して、彼女の全○○を取り出しては様々な反応を楽しみ、赤○ツと白モ○に分類したり、○と○○を繋げてブレスレットを作ったり、とにかくゴアゴアゴアゴアと遊びながら、ついでに副会長の趣味のレザーク○フト用に○を」


「うろげえええええええええええ!」


 案の定というか、俺は盛大に自分ちの床に黄色い汁をデビルリバースし、腹を押さえてうずくまった。


「やれやれ、結局要約でも駄目じゃないですか」


「当たり前だ! そんな話誰でも吐くわ!」


「はい、パパ、雑巾とバケツ!」


 用意周到すぎる愛娘が、風呂場から持ってきた子育て必須アイテムを俺に手渡す。


 それってパパが自分で拭けってこと? 当然だよね! 俺は泣く泣く雑巾がけをしながら、ふと異世界に逝きたくなった。


「そして、興奮状態がやや収まったゴア馬鹿ップルは、『人が亡くなる話って感動的ですわね』『ははっ、それな!』などと楽しくピロートークしつつも、徐々に後片付けに取り掛かりました」


「後片付け……?」


 その言葉の意味することが、玩具を箱にしまうようなことでないのだけは推察できた。


「つまり、」


「ストォップ! それ以上汚い口を開かないで! 自分で考えるから!」


 俺は少年の口元に、先程床を拭いた雑巾を投げつけつつ、彼の隣で身体(?)を震わせている肉塊を眺めやる。


 え~っと、確かこいつとエンカウントしたのは、大嵐の日のマンホールだったから……。


「ひょっとしてひょっとすると……便所か!」


「その通りですっていうか腹いせに僕に八つ当たりしないで下さいよ!」


 例のノートで俺の汚物投擲を防いだ竜胆が、珍しく怒りをあらわにする。


「そのデスノートは消滅した方が世のためだよ……で、結局蘭布ちゃん(子宮)もトイレに流されたのか?」


「ええ、一番最後だったそうですがね。彼らは手際よく、腐りやすい部位から順番に切り刻んで、便器にフラッシングしていきました。何日もかけたそうですよ。


 以前うちの実家の便所が詰まった時のことは覚えていますか、砂浜さん?」


「すっっっごい良く覚えているよ! 忘れたいくらいだけどな!」


「つまり、あの際に学んだ通り、トイレのパイプの穴の大きさが五センチでしたから、それ以下の大きさに細かくすれば、大抵のものは通過できるわけです。


 で、普通の子宮のサイズは、彼女を見ればわかる通り、意外と小さく鶏の卵ぐらいで、縦七センチ、横三センチくらいですから、押し込めばわりとなんとかいけます」


「あんな無駄知識が今頃役に立つとは……」


「人生で無駄な知識など一つもありません。そして、彼らも腐りにくい子宮は結構大事に扱って、玩具代わりにとってあったそうですが、ぶっかけるのにも飽きたあの台風の日、ブリブリ博士のごとくジャーっとうんちの国へサヨナラしたのです。


 ところで強姦殺人はファック&サヨナラといいますが、愛し合っている者同士でまぐわった後心中したらセックス&サヨナラになるんですかね?」


「知るかよ!」


 俺は酸っぱい喉の奥からなんとか声をひり出した。

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