第百三十一話 手記その3
「いや、多分それやったら死んじゃうと思うんだけど……気絶しているうちにとっとと二人でいじくりまわしてエフユーシーケーしちゃってばれないように誤魔化すってのじゃ駄目なの?」
「そんな甘っちょろいことをやっても絶対ばれますよ。この女狐は、私が会長のことをお慕い申し上げていることを以前から知っているにもかかわらず、わざと見せつけるように会長と仲良くお喋りしたり、私が恋のお呪いがうまくいかないのに困っているのを見ながら陰でほくそ笑み、その後ようやく恩を売ろうとでもいうつもりなのか、助け舟を出してくるほどのダークサイドに堕ちた人間の屑です。
更には私には到底勝ち目のない下品なでかい脂肪の塊をゆさゆさといつも自慢げに見せびらかしやがって必ず殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「だ、だからといって、それくらいのことで命まで取らなくても……」
「それくらいのことですって!? 会長、この際はっきりと申し上げますが、あなたが今回、最近少しマンネリ気味だし、この人間バルーン女を交えてちょっとだけあれこれしたいので知恵を貸してくれと頼まれたのは、私の貧相な胸に飽きてしまったからなんでしょう!? はっきりとおっしゃい!」
「そ、そんな滅相もない……」
「痛がる初めての私を押さえつけ、天井のエイトエッジアサシンじゃなかった染みの数を数えている間に終わるから我慢しろなんてのたまっていたのはどこのどなたでしたっけ!?」
最早副会長の易怒性は天をも焦がさんばかりに燃え立ち消火不能なのは、目を閉じて聞いている私にもはっきりとわかりました。
「……自分です」
「ほれご覧なさい! こんな売女に私達の美しい愛が汚されることなど、あってはなりません! 早く息の根を止めてください!」
「お、俺、人をバラしたことがまだないんですけど……」
「大丈夫、私が手取り足取り教えてさしあげます。私の実家では、私が『あなたにはもっと相応しい居場所があるようですね』と粗相した使用人に告げると、たちまちシークレットルームにその者は運ばれ、私の手厚い教育を施され、コレクションの一つとなります。
私の家のおっぱいマウスパットは、皆、肌に優しい天然物なんですのよ。この下郎も上手に加工すれば、きっと十年以上は使える逸品に生まれ変わるでしょう。
そして私の家の殿方用のコンドームの材料は……」
そこまで聞いて、ついに私の張りつめた精神の糸が切れ、意識が途絶えました。
下腹部に、信じられないほどの燃えるような激痛を感じ、私は強制的に再び目覚めさせられました。
今度ばかりは取り繕う余裕もなく、両眼を張り裂けんばかりに見開くと、なんと会長が、手にした出刃包丁を私の臍のあたりに突き立て、そのまま真下に切り裂いている真っ最中でした。
「そうそう、その調子ですわよ。急いで子宮を出したいときは、横に切るよりも縦の方が確実だと、産婦人科医である私の叔父が申しておりました。
どうせ会長が調査された通り、このズベ公の卑しき孕み袋は病気持ちですから、そんなものの一つや二つ無くなったところで、かえって世の中のためですわよ。さ、もっと急いで!」
「むぐぐぐぐぐぐぐぐっ!」
私は精一杯の大声を出したかったのですが、悲しいかな、猿ぐつわのせいで、精々蚊の鳴くようなうめき声程度にしかなりませんでした。
「すまんな、蘭布。そういうわけで、世の中のために死んでくれ」
もはや副会長の忠実な傀儡状態の会長が無茶苦茶なことをのたまいながら、皮下脂肪が出てきそうなほど深く切った皮膚を割るように押し広げ、その間に突っ込んだ包丁の刃先でめきめきと何かを引き剥がしていきます。
「あぴゃあああああああああああっ!」
耐えられない痛みと恐怖と恥辱と混乱の中、私は盛大に失禁しました。
「あらあら、膀胱を無理矢理分離されますと、そりゃ中身が漏れ出してしまいますわよ。
本当に下品極まる汚まん○ですわね、お可愛いこと。まぁ、この下種女に相応しい死に様ですけれど」
明らかに一ダースは人間を殺しているであろう経験者の貫録を持って、落ち着き払った副会長が、軽蔑の眼差しで私を見下ろします。
なんだか視線が赤く染まってきたのは、あまりのショックに毛細血管が破裂し、血涙が流れ出したためかもしれません。
「お、俺、なんだか興奮してきちゃったよ」
「あら、気が合いますこと。私もですわ」
常軌を逸したカップルが、開かれっぱなしの腹腔から熱気を発散する私を放置して、何やらお互いの唇をむさぼり始めました。
その姿を見ながら、私は途切れ途切れの意識の中、今朝、「天使のリング」に祈ったささやかな願い事を思い出していました。
そのとき、あの怪奇現象が起きました。
発狂した私が幻視を見ただけかもしれませんが、他に、今の私の状態を説明できるものもないので、実際に起こったことなのでしょう。
血と内臓と尿の臭いの渦巻く中、私の脳からかつてないほどの絶望と憎悪が溢れ出し、周囲の空気までどす黒く染め上げたように感じられました。
次の瞬間、外気に晒された私の大事な子宮の上に、なんと、薄らともう一つの子宮が、鏡像のように出現したのです。




