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第百三十話 手記その2

「実は、今日は生徒会長のお誕生日なので、二人っきりで彼の家でお祝いする約束をしているのだけれど、私、こういうイベント事って初めてなので、失敗しないか不安なのよ。


 それで、仲の良いあなたも一緒に誘ったらどうかしらって提案したんですけど、彼ったら部外者はいらないって言って聞いてくれないのよ。


 だから、サプライズの意味も含めて、あなたが私に化けてケーキを持ってお宅を訪問したら、彼も笑って許してくれるんじゃないかと考えたわけ。ね、名案でしょ?」


 別段あまり良い考えだとは思いませんでしたが、いつも何かとお世話になっている彼女の頼みを断るのも悪いですし、押しに弱い私は、ついホイホイと引き受けてしまったんです。罠だとも知らずに。


 幸い、というか不幸にもというか、私と副会長は髪型と胸の大きさ以外は、顔かたちや背丈が似通っていましたし、制服も勿論一緒ですから、サラシをきつく巻いて、いつも伸ばしっぱなしの私の髪を後ろで結んで、ちょっと目を細めて厳しめの表情をしてみると、結構いい感じのドッペルゲンガーになったんです。


 あれって死期が近い人が見るっていうオバケでしたっけ?


「完璧だわ! じゃ、頑張ってね!」という満面の笑顔の彼女の言葉に、私も、「はいっ!」と答えるしかありませんでした。


 ……本当に馬鹿ですね、私って。



 会長のアパートの外階段を上っているとき、後ろからリンリンが来たのには、正直びっくりしました。同じ建物に住んでいるなんて、正直知らなかったんです。


 でも、あなたのおうちは、てっきり高峰クリニックだと思い込んでいたから、仕方ありませんね。生徒会書記失格です。


 思えばこれも、「天使のリング」のお導きだったのかもしれませんね。確かにこの時も、局所的に見れば、あなたと二人っきりの状態でした。神様はチャンスを下さっていたのです、魔の手から逃れるための。


 でも、愚かな私は、こんな恥ずかしい恰好をあなたに見られるのが嫌で、菓子箱を持ったまま、逃げるように急いで会長宅に入り込んでしまったんです。ええ、合鍵は前もって副会長から預かっていました。そして惨劇の幕は上がりました。



 ……ここから先の話は、正直あまり書きたくありません。


 文字を綴ろうとするだけで、指先じゃなかった卵管が震えます。


 でも、全部教えるって約束でしたし、頑張って最後までいこうと思います。


 ドアをいきなり開けた私は、副会長の声色を真似して、いつもより少し低めの音階で、「お邪魔します」と呼びかけました。


 部屋の構造は、もちろんここと同じダイニングキッチンと六畳間、それにバスルームとトイレです。


 ダイニングの明かりはついており、閉めた奥の間のガラス戸の向こうから、「副会長か?」という会長の声がしました。


 どうやらうまくいったようだと安堵しながら、ガラス戸に近寄ったその時です。


 後頭部に凄まじい衝撃を受けて、私はブラックアウトしました。



「知っているか、副会長。男性の精液には、プロスタグランジンと言って、子宮筋を収縮させる作用のある物質が含まれており、陣痛促進剤などに使われているんだ。蘭布くんほど発育の良い女子の子宮だったら、さぞ活発に反応してくれるだろうな」


 ふいに私は、会長の陽気な話声で目覚めました。後頭部には激痛が走り、瞼を開けることも出来ませんでしたが、これ幸いと、しばらくまだ気絶している振りをし、現状把握に努めました。


 どうやら私は全ての服を脱がされ、両手両足を大の字に伸ばされ、ベッドの上かどこかに縛り付けられているようでした。


 口にはご丁寧に猿ぐつわを噛まされている模様です。


 あまりのことに、恐怖と不安で呼吸が止まりそうでしたが、なんとか意識を保ち、耳をそばだてました。


「さすが学年一位の会長、博識ですこと。私も是非この雌豚の汚い子袋がきゅきゅっと締まるところを直に拝見したいものでございます。


 ではさっそく、この包丁で彼女の腹を掻っ捌いて、大気の下に晒してやって下さいまし」


 なんと、副会長の声までもが、頭の上の方から降ってきます。ということは、背後から私を襲ったのは、彼女だったのでしょうか?


「えっ、そ、それはさすがにちょっとまずいんじゃないか? 俺はただ、ごくノーマルにやることやってぶっかけたいだけなんだけど……」


 今までテンション高めだった会長の声が、突然ダウナー気味になっていきました。


「何をお可愛いことをおっしゃるのです。会長の気高き陽石を、こんな下賤な婢女の汚穴に入れては腐ってしまいます。


 とっとと屠殺場の豚みたいにスパパパっとやっちゃってください」


 副会長は、かつて聞いたことのないような氷の口調で会長に下知しました。

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