第百二十八話 ハネムーンの次の月はビタームーンっていって要注意だそうですよ
「僕は落ち込んでいる彼女に、優しく励ましの言葉をかけました。
『心配しないで蘭布ちゃん、僕が何とかしてあげるよ。ここにこっそり隠れて住めばいい。
ご両親や学校の先生に話してもきっと信じてくれないだろうから、今は知らせず様子を見た方がいいと思う。
大丈夫、こういうハーブな出来事に慣れている知り合いの禿もいるし、いろいろ相談して、今後どうすればいいか、一緒に考えよう。
な~に、そのうち記憶も元に戻って、Tomakみたいに身体もにょきにょき生えてくるかもしれないさ!』」
「簡単に安請け合いするなよ! てかハーブな出来事に慣れている知り合いの禿って誰のことだよ!?」
「怒るとザビエル頭が悪化して聖人認定されますよ、砂浜さん。というわけで、その日から僕と彼女の嬉し恥ずかし同棲生活がスタートし、夢のような蜜月が続きました」
「……」
俺は嘔気とともに突っ込みも口元から噴出しようとしたけれど、傍らで肌(?)を心なしか赤らめている袋状の肉塊を見ると、何も言えなくなってしまった。
まぁ、幸せの定義は十人十色なので、ここはぐっと目をつぶろう。
「二人は、近所の焼肉屋に出かけて豚のコブクロに舌鼓を打ったり、入手困難なコブクロのプラチナチケットを手に入れライブを堪能したり、飛行機でハリウッドの有名なデスオブミュージアムに出かけ、様々なコブクロの解剖写真や模型に怖がったりして、リア充カップルライフを満喫しました」
「さすがに突っ込ませろ! なんでコブクロ関係イベントばっかなんだよ!? てかどうやって手荷物チェック通ったコブクロ!?」
「医療用のリアルな模型ですって言ったら楽勝でしたよ。そんなこんなで楽しい日々は瞬く間に過ぎ去っていきましたが、二人はずっと清いままの付き合いでした。ときどきキスぐらいはしましたがね」
「お願いだ、それ以上進展しないでくれ! いろんな意味で!」
俺は涙目になって訴えた。ていうかそろそろこの相談事却下したくなってきたんですけど!
「そんなに心配しなくても、僕は紳士ですから、同意なしに一線を越えるような真似はしませんよ。
けれども、若さゆえに噴き上がる兼六園の日本最古の噴水の如きリビドーはオカズウェアを探し求め、結局エ○ン先生万歳というところに落ち着きました。
というわけで、とある夜、蘭布ちゃんが寝静まったのを見計らって、僕は秘蔵の『中2英語』フォルダーを開いてスライドショーを開催し、スローライフオ○ニーを始めました」
「もうちょっとフォルダー名捻ろや!」
「木を隠すなら森ですよ。さて、僕のシェイクスピアがテンペストして尼寺にイきそうになったとき、トイザらスで買ったメルちゃん用ベッドで眠っていた蘭布ちゃんがピクッと震えました。僕はその瞬間思い出しました、そろそろ彼女の排卵日だということを」
「なんでそんなもん知ってやがるてめぇ!……って今更だけど」
「彼女の体調管理は彼氏の仕事の一つですよ。僕は慌てて子孫汁をこぼさないよう細心の注意を払って、『5、4、3、2、1、0!』といつもの如くNASAのミッションコントロールセンター状態となってカウントダウンしながらリフトオフしましたが、わーっとえの素の辮髪軍団のように元気に飛び出した奴らのうち、ほんの数適が彼女の柔肌の上に滴り落ちてしまいました。コードブルーです!」
「もうちょっとわかりやすく例えて!」
NASAの極秘怪文書よりもひどい奴の英単語の羅列に、俺はめまいを覚えた。そういやあの巨乳金髪ふたなりは元気にやってるかしら?
「その刹那、蘭布ちゃんがビクビクビクンとけいれん発作にも似た動きをしたので、僕は慌てて彼女の身体をティッシュで拭きつつ、決して食ザーの如くぶっかけるつもりでしたわけではないと謝罪しました、もちろん下半身裸で」
「いいかげん下全部脱いでシコるの止めろや! 子供のトイレか!?」
「まだ子供の範疇ですからそこは大目に見てくださいよ。すると蘭布ちゃんは、嬉しいことに、いや、驚くべきことに、『お願い、もっとぶっかけて!』とノートに書いたのです! 管制官たちは思わず全員スタンディングオベーションです!」
「なんでそうなるの!?」
「彼女が続けて記載したところによると、『リンリンのアレが私にかかったとき、失った記憶が蘇りそうになったの』とのことでした。そういう事情であれば、遠慮はいりません。
僕は一日に二ケタ近く発射するハーレムものエロゲーの主人公の如く、気力を奮い立たせてペニセストし、再びイグニッションプロセスを開始しました」
「若いっていいな……」
俺は、精力と頭髪に溢れていた日々を思い出し、遠い目になった。
「時間は左程かかりませんでした。二度目のセルフバーニングはワグナスも驚く勢いで飛び出し、間違いなく彼女の全身に降り注ぎました。すると、彼女の身体が先程以上にのた打ち回り、淡く輝き出しました。
まるで繁殖期の雄鮭にでもなった気分で余韻に浸っていた僕でしたが、さすがに神経を集中して見守っていました。
やがて、けいれんと輝きが徐々に収まっていき、ホッとした僕は、なんかイカ臭くなった彼女が書き記す文章に、驚愕しました。
『全て思い出したわ。私を殺したのは、あの二人よ。彼らは私を生きたままバラバラにしたの』」
「……」
ある程度予測はしていたが、胸が塞がるような絶望の前に、俺は言葉を失った。