第百二十七話 トータ・ムリエ・イン・ウテロ
「花音、やめなさい! お前にはあと十年早い!」
俺は意味不明な説教をしながら禁じられた遊びに夢中になっている娘を遊星からの物体Xもどきから引きはがした。
わぬわぬの時と言い、なんでこの子はこの手の軟体生物が大好きなんだ?
「さて、水道局のお兄さん方が頑張って蓋をしてくれて床下浸水のおそれもなくなったので、改めて僕は、どうしたものかと思案しました。
勢いでつい家まで持ってきてしまいましたが、とりあえず冷蔵庫に入れるべきか、それともホルマリン溶液を尼で注文した方がいいのか……」
「なんで当然の如く保存する方向で検討してんだよ!?」
「だって秋とはいえまだまだ暑い時期でしたし、そのままではさすがのキングオブ腐りにくい臓器でもいずれは腐敗してしまったでしょうから」
「せめて埋葬でもしてやれよ!」
「嫌ですよ。土葬なんて可哀そうじゃないですか。というわけで、悩み疲れた僕は、指先でぷにぷに子宮を突っついてその柔らかい感触を楽しみつつも、明日の宿題をしようと英語の教科書を開き、ノートと筆記用具を用意しながら、思わずエ○ン先生で興奮してしまい、ズボンとパンツをクロスアウッしてセルフジェネレーションを始め、即達しそうになりました」
「てめぇのオカズ事情はこちとらどうでもいいんだよ!」
「いや、ここからが重要なんです。僕の激しいバイブレーションで、机上のボールペンがコロコロ転がり、古語でいうところのエナの側に落下したかと思う間もなく、卵管に絡みついてしまいました。
その時、まるで生きているかのようにピンクの管がクルクルっとペンに巻き付き、ビクンと震えたのです。
ところでモンストの爆音シンガ―・エナってエロい名前ですよね」
「知らねぇし今関係ねぇ!」
「たまにはピンボールやソリティア以外のゲームもしましょうよ、砂浜さん」
「子育てでそれどころじゃないんだよ、うぅっ……」
「仕方ないですね、情弱探偵さん。さて、僕は驚きのあまりエ○ン先生が獣姦している風に自分で描き足したページを眺めつつシェイクしていたライトハンドを止め、必死で社会の歴史の教科書の風神雷神図屏風を脳裏に浮かべ、あいつらBLだったっけとか考えながらニューホライズンに到達しそうなマイペンシルの沈静化に努めました」
「文科省に謝れや!」
だんだん胃痛を感じてきたのは、先程飲んだ冷水のためばかりではないだろう。
「幸いにも暴発は未然で阻止され、事なきを得ましたが、臓物が動いたのが気になった僕は、恐る恐る手にしたノートをボールペンの前にそっと差し出してみました。ほんの戯れのつもりでしたけどね。
すると、なんと卵管がにゅるにゅるとうねり、まるで指先のようにペンを操ると、たどたどしく、『ここ、どこ?』と今のように文字を書いたのです。僕は漫画みたいに椅子からずり落ちました、下半身丸出しで」
「……」
「僕は大声で、『ここ、アパートの僕の部屋だけど、汚い所でどうもすいません!』と叫びつつ、慌てて部屋中に貼ってあった、自作した等身大エ○ン先生パイズリ専用ポスターや、立ちバック風ポスターなどを引き剥がし、ペーパームーンRに特注した等身大エ○ン先生ドールとまとめて押し入れに叩きこみました」
「どんだけエ○ン先生好きなんだよ!?」
「愚問ですね。すると森高、じゃなかった子宮は、今度は、『わたし、どうなったの?』と可愛い丸文字で書き書きしたので、エロアイテム類に触れられなかった僕はホッとしつつ、いそいそとパンツを履きながら、
『どうやら君は、子宮だけの姿になっちゃったようだよ。僕も子宮が出てくるラノベなんて魔法騎士レイアースのOPのエロ替え歌が載っていたギャラクシー・トリッパー美葉か、スワロウテイル人工少女販売所か、B.A.D.ぐらいしか知らないんで戸惑っているけど、ひょっとして、蘭布ちゃんなの?』と、落ち着いた声音で羽毛のように優しく囁きました。
子宮、否、蘭布ちゃんの子宮は、明らかに頷くと、『やっぱりそうなんだ……』と力弱く草書体で綴った後、ショックを受けたように項垂れてしまいました」
「……」
俺は、子宮とはどうやって頷いたり項垂れたりするのだろうという生物学的な疑問を覚えたが、突っ込みのし過ぎでいささか疲れていたので、相変わらず粉雪が降りしきる窓の外をぼんやりと眺め、火照った頭を冷やしました、ふぅ。
「彼女にいろいろ問い質しましたが、結局どうしてそんな変わり果てた姿になったのか、何一つ覚えていませんでした。
どうやらあの僕が直腸を二針縫われた屈辱の日の朝、一緒に会話を交わしたところまでは記憶があるようですが、その後からマンホールの中より飛び出してくるまでの記憶がすっぽり抜け落ちていたのです」
「まぁ、脳自体がないんだし、しょうがないっちゃあしょうがないが……」
「いやいや、砂浜さん、昔から言うじゃありませんか。『女性は子宮でものを考える』って」
「それとこれとは全然違うだろうが……」
せっかく冷却した頭脳が下半身のみでものを考える糞ガキのせいで再び熱暴走しそうになったが、俺は寸前で耐えた。誰か褒めて!