第十一話 この後ハイエースは飲んでないチクチンが運転して帰りましたのでご安心下さい
「ま、そんなこんなで私は再び目覚め、ついでに羊女がOBSの操縦者であると発見したわけだ。
私は今言った全てのことを彼に打ち明け、なんと彼は実際にOBSを操縦して、私の語ったことを真実であると確信した。
なんとも素晴らしい運命的な出会いだった」
司令が手酌でビールを注ぎながら、遠い目をする。
「つまりあたしの車の屋根の上に、今日やったようにあたしとOBSを乗っけて、司令に操縦してもらって離陸したのよ」
「く、狂ってる……」
思わず本音を漏らしてしまったのは、乳首への刺激のせいで理性の締め付けが緩くなっていたためだろうか。
「あら、これくらいのプレイは日常茶飯事よ、お店では。今度来てね」
「絶っっっっっっ対に行きたくねえよそんな店!」
「とまれ、私は羊女の信頼を得て、高峰先生に紹介されたのさ」
「それで二人は知り合いだった、というわけですか。
ようやく話が見えてきましたよ、先生」
「ん~、むにゃむにゃ、いんぎらーっとしまっし。
おリン、明日こそ学校行けよ……」
「って何寝てるんですか!」
「あー、だって話が長過ぎるんやもん……でも大体聞いとったよ。
んで、羊の野郎が夜中に裸の男を四人も連れて来たもんだから、うらは危うく警察を呼ぶところだったが」
「でも、あたしと司令の熱弁のおかげで、なんとかご自宅に匿って貰うことになったのよー」
「まあ、うちは母子家庭で、すでに息子が一人とそこのキャタピラーが一匹住んでおったし、今更四人ぐらい増えてもそんなかわりなかったんや」
「だいぶ違いますよ!
てか、チクチンまで先生のお宅に住んでいるんですか!?」
「実は、僕がある朝海岸を散歩していたら、外国語が書いてある木造船の残骸が流れ着いていて、その中に虫の息のチクチン師匠が寝転がっていたので、哀れに思って家まで連れて帰ったんですよ」と竜胆くん。
「お願い、それ以上聞きたくないから言わないで!」
とても怖い話になりそうなので、俺は思わず耳を塞いだ。
どんどん出てくる衝撃の新事実に、異次元やら感情の波の実体化やらは、既に遠い存在となりつつあった。
「パパ! 話聞く! 大事!」
俺のノドグロの焼き物をむしゃむしゃと頬張っていた花音が、太い魚の骨を俺の右乳首に突き刺した。
「ギャーッ! わ、わかったからやめて、花音!」
「あらあら、大事なパパのおっぱいが壊死しちゃうわよ、お嬢ちゃん」
「とにかく、私たちは高峰先生の家にお世話になることに決まり、そのお礼として、私は先生がクリニックを開業したため、そこで現在事務員などの仕事をしている」
「……まぁ、大体のことは理解しました。
脳が受け入れるかどうかは別ですが」
「少なくとも嘘はついてないぞ」
司令がまたコップに口を付ける。
俺はとりあえずお酌をしてやりながら、こう聞いた。
「じゃあ、入会したら手取り四十万だの週休五日だのは本当なんですね?」
「ああ、ありゃ嘘だ」
「おーいっ!」
思わずビール瓶を取り落とし、司令の顔がペナントレース優勝みたいになってしまった。
「すまんすまん、あの時は緊急時で、お前さんを一刻も早く入隊させたいがために口から出まかせをべらべら並べ立ててしまった。
まあ、そこらへんの細かいところは、明日、高峰先生のお宅でじっくり話し合おう。
ついでに今後のミーティングもしたいから、皆も来るようにな」
「皆っていっても、あそこに住んでいないのは太郎ちゃん家族以外はあたしだけよーん?」
厚化粧のため分かりにくいが、やや赤ら顔の羊女がびしょ濡れの司令にしな垂れかかり、顔にかかったビールをぺろぺろ舐め取る。
どういう関係なんだこいつら。
「俺、モチベーションガタ落ちなんですけど……入隊の件、考え直させてもらってもいいですか?」
「餅でマスターベーションですって?
なかなか良い趣味ね、太郎ちゃーん」
「言ってねえし!」
「まあまあ、二人とも飲め飲め。
ほれ、チクチン、例の一発芸をやってくれ。
ちょうど床の間にでっかい壺が飾ってあるだろう?」
司令の言葉に、畳の上に置かれた皿に注がれたタピオカミルクティーをぺちゃぺちゃ犬のように舐めていたチクチンが、「アッー!」と答えると、ずりずり這いずって、座敷の奥にある、松の描かれた巨大な九谷焼の壺によじ登り、ぼちゃんと中にダイブした後、ひょいと首だけ突き出した。
「よっ、いいぞ! 西太后!」
最早単なる酔っ払いと化した司令が手を叩く。
「古過ぎるし、笑えませんよそのネタ!」
「まあ飲め飲め飲め」
「ぺろぺろぺろぺろ」
「やめろーっ!」
その後の記憶はない。