久し振りの協演
やっと、主人公(詩人さん)の名前が出てきました…(^_^.)
「わ…僕が代わりに詠っちゃあ、駄目?」
彼等の沈黙を破る様にリルナリーナが口を開いたが、詩人は残念そうに告げる。
「御免ね、竪琴がオルディ君と奏でたいらしいんだ。
…オルディ君、如何して駄目なのか、理由を聞かせてくれないかな?」
尋ねられた為、仕方無く理由を述べる。
「ジェリハが拗ねるんだ。だから、ジェリハ以外とは詠えないんだ。」
正直に答える少年へ詩人は、不思議そうな顔のまま見つめる。その視線に溜息を吐きながら、手を虚空へ広げる。
心の中でジェリハを呼び、来るように促す。この途端、少年の腕の中に白い竪琴が出現した。この光景で詩人は、少年の断りが何を示しているのか判った。
「そっか、君は、竪琴に選ばれたんだね。
光の精霊の竪琴か…噂で聞いた事があるけど、実際見たのは初めてだよ。」
本当は光の精霊の竪琴では無く、光の竪琴だという事を少年達と青年達は黙っていた。一応、周りが黙認しているとは言え、正体を隠しての祭り参加なので真実を言えなかったのだ。
納得された少年は、詩人に告げる。
「ジェリハと一緒なら、詠えるけど…良い?」
そう告げると詩人の隣に座り、竪琴の調整を始めた。
神子である為、神殿の許可は要らない。
然も先程の遣り取りで、周りの興味を引いていると悟った。神子の詩声を聞きたい…そんな思いを受け、少年は詩人へ曲目を相談する。
「お兄さん、何を詠う?」
「そうだね…前は光の神の旅立ちの詩だったから…他のしようか?
……何がいいかな……「安らぎの詩が良いよ♪」……え?」
人々の視線の先には、白い髪と虹色の瞳の少年と同じ色彩の父親と思しき男性、そして、闇色の髪と菁銀の瞳を持つ母親と思われる女性と共に、白い髪の少年の兄弟と思われる子供達がにいた。
物凄く見覚えのある家族の姿に、竪琴を持つ少年は頭を抱え、その片割れは己の口を思いっ切り押え、一言も言葉を発しない様にしていた。
「エア様…ラール様…。」
詩人の口から出た言葉で風色の少年は片目を瞑り、自らの口へ人差し指を翳す。内緒にと言う合図に詩人は頷き、周りにいる少年達へ目を向ける。
しかし、神子は兎も角、誰一人として驚いていない様子に安心し、
「そこの坊やから、希望があった詩で、良いかな?」
と、少年・オルディこと、リシェアオーガへ尋ねる。快く頷く彼へ、演奏の合図を送る。
闇よ 静かなる闇よ
その腕に我等を 誘い
その腕で我等に 一時の安らぎを与えん
闇の腕は 我等の安らぎ
傷付き 疲れ 嘆き 苦しみ 悲しみ
其の全てを その腕で包み 癒しておくれ
生きとし生ける者よ
我の腕で 其の身を休め
我の腕は 安らぎのもの
全ての苦しみ 悲しみを 癒すもの
だから 我の腕で安息を
生きとし生ける者に 安息あれ
期せずして、風の精霊の竪琴と光の竪琴の共演…風の方は少し不服そうであったが、相手が光の神の創りし物では太刀打ち出来ないと思ったらしく、途中からは素直に音を奏で出した。
眠りの効果を抑えられた詩ではあったが、人々へ安らぎを与える効果は残っていた為、道行く人々の心へ穏やかな響きを送っていく。
詠い終ると何時の間にか、彼等の周りに大勢の人だかりが出来ており、その中には少年の見知った顔もチラホラ見えている。
詩が終わった時、辺りから大喝采が起こった事で詩人は平然としていたが、少年の方は驚いた様にきょとんとしていた。
「え…っと、ご拝聴、有難うございました。」
何か言わないと…と思った少年は、大きな声でそう告げた。喝采の中には、流石、神子様と言う声も聞こえたが、誰一人として突っ込まなかった。
「相変わらず、綺麗だね~。
エリヤの詩声も、リシェの詩声と共に堪能出来るなんて…最高♪」
白い髪の少年が嬉しそうに言うと、傍にいる彼の家族は同意の頷きをする。そして、演奏に対してのお代とばかりに、白い代金入れへ何かを入れて行く。
追加されたのは、家族分の輝石と銀貨が数枚。
これまた破格値の代金を入れられた詩人は、驚きを隠せないでいた。彼の吃驚した様子に、家族の父親らしき男性が答える。
「多いかもしれんが、これは俺達の気持ちだ。
石の方は、そっちの子供達に言って、細工して貰えばいいぞ。……本来なら、神殿に務めて欲しいんだが、風の性質を持つ者では出来ないだろう?
だから、何時でも我等が護れるよう、身に着けてくれないか?」
空の神から言われ、受取るしかなくなった詩人は、傍らにいる光の少年に振り返る。微笑を携えて視線を受け取る彼は、詩人に話し掛けた。
「お兄さん、お願いがあるんだけど……良い?」
可愛らしく言われたそれに詩人の表情は緩み、微笑みながら頷いた。
「いいよ。で、坊やのお願いって、何だい?」
「あのね、ここにいない僕の家族に、お兄さんの詩を聞かせたいんだ。
お祭りが終わってからでも良いから…駄目?」
前と同じ状況となった事に詩人は、一瞬キョトンとしたが、直ぐに笑い出した。判ったよと言うと、少年は懐から、金色の長龍細工を出した。
大人の腕の寸法のそれを、詩人の腕へ付ける。
龍が手首に巻き付く形となるそれは、詩人の右腕で誇らしく光っている。見事な細工に目を奪われ、これが何で出来ているかの判断が遅れる。
青い目の、金の長龍……。
この美しさに見とれ、詩人は暫し言葉を無くす。そして、これ程まで精巧な細工の出来る少年へ、視線を戻す。
「これは…坊やが作ったのかい?凄く見事で、綺麗だね。」
褒められた事に気を良くした少年は、微笑みながら、告げる。
「そうだよ、僕が創ったの。
お兄さんとの連絡用に貸すから、迎えに来る時まで持っててね。」
多種多様な神々の輝石を受け取った詩人に危険が及ばない様、念の為にと少年は、己が創った輝石製の護符を渡した。もしも詩人の身に何かあったら、その護符が彼を護り、少年へと事の次第を知らせる。
この事を詩人へは伝えていなかったが、周りの者達全員からは、この少年の行動に何の意味があるかを完全に悟られていた。