護衛(保護者?)追加
周りの様子にリシェアオーガは、少し不機嫌そうになったが、彼の様子に、空風の精霊・ケフェルナイトが話し掛ける。
「私なら、姿を消して、リシェア様達を見守れますよ。
そうすると、御友人達だけと、同じ状況になりますが……駄目ですか?」
友人とのお出掛けの邪魔はしない配慮を、ケフェルナイトが申し入れるが、思わぬ希望がリシェアオーガから飛び出た。
「駄目じゃあないけど…ケフェルは、このまま付いて来て欲しい。
監視役は、エルアとコウだけで十分だ。」
意外な名を聞き、周りの者達は驚くが、その時、誰もいない空間から二人分の声が聞こえる。
「あああ~、やっぱり、リシェア様にはバレてた~。」
「……我が君に、穏業の術は効かないって、言った筈だぞ。
全く、俺の力と合わせれば大丈夫だなんて、考えが甘いぞ、コウ。」
「まあ、エルアにコウまで、リシェアを心配して来てくれたのですね。有難う。」
彼等の会話にリュースが加わり、感謝の言葉を掛ける。だが、身も蓋も無い言葉が、主であるリシェアオーガから告げられた。
「私が心配と言うより、大方私が、騒動を起こさない様にする為に、来たのだろう?それと、コウの好奇心だな。
ルシフ以外の、人間の祭りが見たかったのだろう?」
正解を当てられたコウは、無言になり、エルアが代わりに答えた。
「其の通りです、我が君。今回は参加せずに、見物のみと為りますが、其れでも見たかったらしいです。」
彼の言葉にリシェアオーガは承知し、くれぐれも怪しまれない様にと付足す。幽霊に間違えられない様、主から釘を刺された彼等は、声さえも聞こえない様にすると、真剣な声で宣言する。
風の神龍と闇の神龍ならではの穏業に、人間の方は唖然となった。そんな中、エニアバルグがある提案をする。
「リシェア、コウだけでも、一緒でも良いんじゃあないか?俺達と大して変わらない、年恰好の姿だし…。」
彼の言葉を、少し驚いた様な顔のリシェアオーガが受け取る。
「エニア、リル以外に、カルディとフェンが一緒だよ。
かなり大勢になるけど、良いの?」
自分の神官達が一緒になる事を話すと、エニアバルグが考え込み、彼の代わりとばかりに、今度はファムトリアが口を開く。
「そうですね…私達が三人で、リシェアの方が四人ですか…
保護者的な存在で、ケフェル殿を加えて八人…確かに多いですが、九人になった所で、左程変らないと思いますよ。」
人数の問題は無くなったが、新たな問題に逸早くレトヴァルエが気が付き、その事を口にする。
「寧ろ、神官様方の方に、コウ殿が付いてくれた方が安心だ。
見習いの姿になると、より一層危険が増す恐れもあるから、騎士が付いた方が可笑しくなし、しかもコウ殿が護衛に就くならば、一番安全で適任だ。」
レトヴァルエの言葉に納得したリシェアオーガは、直ぐにそれを実行した。
「と言う訳で、コウ、姿を現せ。
悪いがエルアは、レアと共にそのまま待機だ。」
会話には参加していなかった名前が出てくるが、やはり何も無い空間から聞き覚えのある声が響く。
「な~んだ、私の穏業も、見抜かれてたんだ。」
そう言うと風が姿を現し、光地の家族に挨拶をし、コウと呼ばれた闇の龍もその姿を現し、リシェアオーガの傍に控える。
「ジェスク様、リュース様、申し訳ございません。
ここに来られないエア様の意向で、リシェア様に付いて来ました。」
空風の精霊騎士の言葉に、半ば納得する彼等は、もう一つの理由…精霊本人の理由にも気が付いていた。
元来、風の精霊は好奇心旺盛で、殊の外、騒動には目が無い。傍観は元より、事と次第によっては、自ら騒動へと巻き込まれに行く傾向がある。
古参の風の精霊である、空風の精霊のエアレアは、特にその傾向が特に強い。
こんな精霊が、リシェアオーガを見逃す訳が無い。
これに加え、他の理由も推測出来た。
「レア…まさかと思うが、私の護衛をアレィに、頼まれなかったか?」
今や、保護者精霊の筆頭である、闇の騎士の名を言われ、判りました?と、素直に返される。
「アレィってば、リシェア様の無鉄砲さに、気が気じゃあないみたいだよ。
ルーニァ様とアリエ様は、エア様とラール様が一緒だから安心しているけど、リシェア様は、ジェスク様とリュース様と別行動でしょう?
だから、ケフェと私が、アレィに頼まれて来たんだよ。」
空風の騎士の言葉の裏を読み取った光の神は、納得した様に頷く。
「と言うと、神殿には来れないけど、祭りには来ているのだな。
全く、エアらしいな。」
エアレアの言葉は、溺愛している妹と弟と一緒なので、従兄弟を構えないエアファンが情報収集の為に、彼をこちらに寄越したと受け取れる物だった。
それ故に、ジェスクが苦笑をしながら、空風の精霊を見る。空風の騎士も隠す事無く頷き、その通りですと答える。
彼の言葉に、大神官が付け加える。
「後、クリフラール様とアークリダ様、フレィリー様とウェーリス様の御家族と、珍しくフェーニス様も御家族で、いらっしゃっています。
共に昨夜まで、祝福された方々と御一緒で、アークリダ様とその神子様方だけは、クリフラール様の祝福された方の屋敷で、御滞在しておられますよ。」
ほゞ、全部の神々が、この国に集っていると取られる言葉に、光地の夫婦と知神の夫婦以外が唖然としていた。リシェアオーガも、周りの気配の強さが違うとは思っていたが、聞かされた事実に驚いている。
「伯父上まで来ていたんだ…
そうと判れば、伯父上とエア、ルーニァにも、稽古を頼むんだった…。」
悔しそうに言うリシェアオーガに、リュースは溜息を吐いた。剣に関しては、父親以上に拘る我が子へ、諦めの視線を送る。
「リシェアはリーナみたいに、お洒落には興味ないのね…。
剣と知識に興味が行って…ほんと、ジェス、そっくりだわ。」
女の子らしくないと、暗に言われたリシェアオーガは、その理由を述べる。
「母上、仕方無いよ。僕は今まで、男の子として生きて来たんだ。
剣に関しては…本能だから諦めて。あっと、興味は増えたから、安心して。」
二つしかないと思っていた興味が、増えていた事にリュースは、半ば疑いの目で見ながら尋ねる。
「戦略を練る…じゃあないでしょうね?」
「違うよ。楽器演奏と詩だよ。
作ってみたいと思って、兄上に習ったから、今度聞かせるね。」
及第点の即答にリュースは安心し、後で聞かせてねと嬉しそうに告げた。