表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の詩人  作者: 月本星夢
6/15

建国祭当日

前半だけですが、やっと真の主人公の登場です。

 光の家族が、リシェアオーガの友人を伴って、神殿を訪れている頃、街中の広場では、さまざまな舞踊家達が、その芸を披露していた。

その中の一人、両の目を閉じた吟遊詩人が、(うた)う為の用意を始める。彼はこの三年間、機会がある毎にこの国を訪れ、人を捜している。

三年前の、前王国の建国祭で会った少年。

その時の約束を果たせないまま、改革の戦火を避ける為、今の国王となっているエーベルライアムによって、彼はこの国から逃がされた。

そして、この後、あの少年の事は、忌まわしき王国の生き残りだとか、改革が終った際に光の神の預かりとなったとか、色々噂だけが詩人の耳に届き、正確な物は一つも得られなかった。

彼が知っている物で一番確かな事は、少年の名。

オルディというのは仮の名で、本当の名をオーガという事と、あの時いた青年の一人、バルバートアの義理の弟という事だけ。

この国で彼が知っているエーベルライアムも、バルバートアも、今は雲の上の人。王宮にいる人々と会う事は出来無いので、仕方無く市井の噂を聞く。

何時もの様に噂を聞いていると、光地の神子と言う名を耳にする。

あの忌まわしき国の残党を滅したと言う、光の神と大地の神の子供。美しい少年と聞き、その姿を見てみたいと思った。

吟遊詩人ならではの、好奇心ではあったが、件の少年を捜す事を優先とした。

そして、()しくも以前、少年と出会った場所で、詠う準備を行う。

少年と会えたら、良いなと思いながら、彼は(うた)を詠い始めた。





 子供の友人を引き連れて、神殿を訪れた光地(こうち)の家族は、神殿の入り口で神官に驚かれ、さっさと奥へと連れて行かれた。

途中、神々の祝福を受けた者や神官達が、彼等を見掛け一礼をする。

神殿の奥に迎えられた家族はそこで、大神官と光と大地の神から祝福を受けた者達と会う事になる。大きな騒ぎにならない様、配慮されたとはいえ、神殿の奥の場所は居心地が悪かった。

「ジェスク様、リュース様、御家族御揃いで、神殿へ御越しになられるとは…昨日の内におっしゃって頂ければ、何ら策を練りましたのに。

全く、人騒がせが御好きとは言え、度が過ぎますぞ。」

大神官の叱咤に当の本人達は、微笑むだけだったが、リルナリーナ以外の子供達──一部は成人済みだが、神々の感覚ではまだ子供扱い──は、両親の方を向き、何故か、リシェアオーガの方を向く。

彼等の視線に気が付いたリシェアオーガは、少し不服そうな顔で口を開いた。

「何で、僕の方を見るの?僕は、何もしていないよ。」

少年の言葉に、的確な回答を述べたのは、友人達だった。

「いや~、血は争えないな~と思って。」

「エニアの言う通りですよ。本当に、良く似ておいでです。」

「……何時も騒動の源って、自覚無いんだな。」

三人の肯定の言葉に、少年もそのままの表情で反論をする。

「ちょっと、それ、酷いよ。僕より、リルの方が、騒動を起こす割合が高んだよ。

僕のは…騒動が大きいだけで…。」

双子の兄弟の事柄を述べて、試みた物だったが、逆に彼等からの手痛い反撃が返って来る。

「「それが問題だ!!」」

「そうですね、確かに、量より質って感じで、リシェアの方が酷いですね。」

声の合わさるエニアバルグとレトヴァルエ、辛辣な事を言うファムトリアへ、リシェアオーガも更なる反論が出来無かった。

彼等の遣り取りに大神官は、微笑を浮かべて光の神を見やり、唯一の神へ仕える神官達は、微笑ましそうに自分の神を見ている。

この部屋に来た、神々の祝福を受けた者達は、この様子に溜息を吐く。

「リュー様、本当にリシェアオーガ様は、ジェスク様に似ておいでですね。

姿だけかと思いましたが、性格までも、良く似ておいでですよ。」

大地の神の祝福を受けた女性が、口を開き、他の者達も同意する。

この国の改革の原因と、忌まわしき者達の壊滅をしたのが、リシェアオーガという事を彼等は知っていた。

しかし、ジェスク神に似ていると感じた彼等は、目の前の子供を神子として受け入れている。この可愛らしい騒動の大元へと、暖かく優しい視線を送る彼等に、大地の女神が困った顔で話し掛ける。

「本当に、そうなのよ。

この子ったら、ジェスに良く似てしまって…良い所も似ているけど、悪い所まで似ているから、困ったものだわ。」

溜息交じりで語られ、序でとばかりに子供達にも注意を促す。

「だから、リシェア、お祭りの間は大人しくしてね。勿論、リーナもよ。

カーシェは…………羽目を外さないようにね。」

母親らしい意見に、子供達は只、頷くしかなかった。が、リシェアオーガだけは、今の状況を忘れて、つい、無意識で口を滑らせた。

「母上、僕が原因で無くても、騒動に巻き込まれたら、御免なさい。

不可抗力の場合は、避けようがないから…駄目?」

上目遣いで、申し訳なさそうに言う我が子に、両親は溜息と微笑みで、仕方無いと漏らしていた。避けようの無い騒動では、回避不可能と判断したのだ。

「リシェア、(ただ)貴女(あなた)から、騒動へ突進しないでね。

…ジェスの様に、正義感旺盛なのはいいけど、無駄な争いには巻まれないでね。」

釘を刺すように告げられた、大地の女神の注意だったが、内心無理だと思っている子供達は、その事を口にしない。

したら最後、祭りに出掛けられない可能性を、感じたのだ。そんな空気を読み取ってか、リシェアオーガの傍に控えていた空風の精霊が声を掛ける。

「リュース様、リシェア様達には、私が付いていましょうか?

不穏な輩に対して、応戦する事は出来ませんが、リシェア様方を安全な所へ運ぶ事なら、私にも出来ますから。」

彼の言葉にリュース神は頷き、お願いするわと、返事を返した。いざとなったら、エアレアやエルアを呼ぶとも宣言されれば、誰もが安堵の溜息を()いた。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ