建国祭当日
前半だけですが、やっと真の主人公の登場です。
光の家族が、リシェアオーガの友人を伴って、神殿を訪れている頃、街中の広場では、さまざまな舞踊家達が、その芸を披露していた。
その中の一人、両の目を閉じた吟遊詩人が、詠う為の用意を始める。彼はこの三年間、機会がある毎にこの国を訪れ、人を捜している。
三年前の、前王国の建国祭で会った少年。
その時の約束を果たせないまま、改革の戦火を避ける為、今の国王となっているエーベルライアムによって、彼はこの国から逃がされた。
そして、この後、あの少年の事は、忌まわしき王国の生き残りだとか、改革が終った際に光の神の預かりとなったとか、色々噂だけが詩人の耳に届き、正確な物は一つも得られなかった。
彼が知っている物で一番確かな事は、少年の名。
オルディというのは仮の名で、本当の名をオーガという事と、あの時いた青年の一人、バルバートアの義理の弟という事だけ。
この国で彼が知っているエーベルライアムも、バルバートアも、今は雲の上の人。王宮にいる人々と会う事は出来無いので、仕方無く市井の噂を聞く。
何時もの様に噂を聞いていると、光地の神子と言う名を耳にする。
あの忌まわしき国の残党を滅したと言う、光の神と大地の神の子供。美しい少年と聞き、その姿を見てみたいと思った。
吟遊詩人ならではの、好奇心ではあったが、件の少年を捜す事を優先とした。
そして、奇しくも以前、少年と出会った場所で、詠う準備を行う。
少年と会えたら、良いなと思いながら、彼は詩を詠い始めた。
子供の友人を引き連れて、神殿を訪れた光地の家族は、神殿の入り口で神官に驚かれ、さっさと奥へと連れて行かれた。
途中、神々の祝福を受けた者や神官達が、彼等を見掛け一礼をする。
神殿の奥に迎えられた家族はそこで、大神官と光と大地の神から祝福を受けた者達と会う事になる。大きな騒ぎにならない様、配慮されたとはいえ、神殿の奥の場所は居心地が悪かった。
「ジェスク様、リュース様、御家族御揃いで、神殿へ御越しになられるとは…昨日の内におっしゃって頂ければ、何ら策を練りましたのに。
全く、人騒がせが御好きとは言え、度が過ぎますぞ。」
大神官の叱咤に当の本人達は、微笑むだけだったが、リルナリーナ以外の子供達──一部は成人済みだが、神々の感覚ではまだ子供扱い──は、両親の方を向き、何故か、リシェアオーガの方を向く。
彼等の視線に気が付いたリシェアオーガは、少し不服そうな顔で口を開いた。
「何で、僕の方を見るの?僕は、何もしていないよ。」
少年の言葉に、的確な回答を述べたのは、友人達だった。
「いや~、血は争えないな~と思って。」
「エニアの言う通りですよ。本当に、良く似ておいでです。」
「……何時も騒動の源って、自覚無いんだな。」
三人の肯定の言葉に、少年もそのままの表情で反論をする。
「ちょっと、それ、酷いよ。僕より、リルの方が、騒動を起こす割合が高んだよ。
僕のは…騒動が大きいだけで…。」
双子の兄弟の事柄を述べて、試みた物だったが、逆に彼等からの手痛い反撃が返って来る。
「「それが問題だ!!」」
「そうですね、確かに、量より質って感じで、リシェアの方が酷いですね。」
声の合わさるエニアバルグとレトヴァルエ、辛辣な事を言うファムトリアへ、リシェアオーガも更なる反論が出来無かった。
彼等の遣り取りに大神官は、微笑を浮かべて光の神を見やり、唯一の神へ仕える神官達は、微笑ましそうに自分の神を見ている。
この部屋に来た、神々の祝福を受けた者達は、この様子に溜息を吐く。
「リュー様、本当にリシェアオーガ様は、ジェスク様に似ておいでですね。
姿だけかと思いましたが、性格までも、良く似ておいでですよ。」
大地の神の祝福を受けた女性が、口を開き、他の者達も同意する。
この国の改革の原因と、忌まわしき者達の壊滅をしたのが、リシェアオーガという事を彼等は知っていた。
しかし、ジェスク神に似ていると感じた彼等は、目の前の子供を神子として受け入れている。この可愛らしい騒動の大元へと、暖かく優しい視線を送る彼等に、大地の女神が困った顔で話し掛ける。
「本当に、そうなのよ。
この子ったら、ジェスに良く似てしまって…良い所も似ているけど、悪い所まで似ているから、困ったものだわ。」
溜息交じりで語られ、序でとばかりに子供達にも注意を促す。
「だから、リシェア、お祭りの間は大人しくしてね。勿論、リーナもよ。
カーシェは…………羽目を外さないようにね。」
母親らしい意見に、子供達は只、頷くしかなかった。が、リシェアオーガだけは、今の状況を忘れて、つい、無意識で口を滑らせた。
「母上、僕が原因で無くても、騒動に巻き込まれたら、御免なさい。
不可抗力の場合は、避けようがないから…駄目?」
上目遣いで、申し訳なさそうに言う我が子に、両親は溜息と微笑みで、仕方無いと漏らしていた。避けようの無い騒動では、回避不可能と判断したのだ。
「リシェア、但し貴女から、騒動へ突進しないでね。
…ジェスの様に、正義感旺盛なのはいいけど、無駄な争いには巻まれないでね。」
釘を刺すように告げられた、大地の女神の注意だったが、内心無理だと思っている子供達は、その事を口にしない。
したら最後、祭りに出掛けられない可能性を、感じたのだ。そんな空気を読み取ってか、リシェアオーガの傍に控えていた空風の精霊が声を掛ける。
「リュース様、リシェア様達には、私が付いていましょうか?
不穏な輩に対して、応戦する事は出来ませんが、リシェア様方を安全な所へ運ぶ事なら、私にも出来ますから。」
彼の言葉にリュース神は頷き、お願いするわと、返事を返した。いざとなったら、エアレアやエルアを呼ぶとも宣言されれば、誰もが安堵の溜息を吐いた。