二人目の神官
「ああ~、もうオーガに、専属の神官がいる~!!
私にはまだ、いないのに~。」
高い少女の声…だか、目の前の少年と似通った声が聞こえる。
その声に大神官は、挨拶を告げる。
「光地の神子であり、リシェア様の双神であらせられる、エレルニアラムエシル・リュージェ・ルシム・リルナリーナ様ですね。
初めまして、私は此処の神殿の大神官を務める、フォルムルシム・ラル・ルシアラム・リンデルガレと申します。流石に、その名に相応しい、御美しい御方ですね。」
光地の神子とは、光の神と大地の神の神子を指す。
その神子であり、初めて実物を見る新しい神へ大神官は、この場で最敬礼を施す。全ての神に仕える神官である彼は、美と愛の神にも敬意を示す。
リシェアオーガの神官は、普通の敬礼を示し、見習い神官は悩んだ挙句、普通の敬礼を施した。目の前の新しい神が、自分の仕える神で無い事を示すそれに、大神官は内心、溜息を吐く。
七神全てにも、他の神々にも、関心を示さなかった見習い神官故に、新しい神のそれと思ったらしい。リルナリーナも、見習いと判る神官の態度で残念がっている様ではあったが、早々と表情を変えた。
「ええっと、カルディだったわね。
暫く、この屋敷にいるのなら、よろしくね。私、この街の事を知らないから、色々教えて欲しいの。オーガと一緒にね♪」
明るい少女の声に、唯一の神に仕える神官は、嬉しそうな表情で、はいと答える。
その様子にも、見習いは羨ましく思った。
自分には無い、仕える神を見定めた先輩。
その姿を見たくないとばかりに、俯く彼の肩へ、細い手が掛った。
「フェン、見分の旅から戻ったって事は、この王都の出身か?
もし、そうならばフェンも、この街の事を教えてくれないか?如何せん、私が居たのは主に王宮だったから、街中は少ししか知らないんだ。」
「判りました、我が神。
私の生まれ育った王都の事でしたら、何かと御教え出来ると思います。宜しければ、水鏡を使って教えられますが…?
……?大神官様?カルダルア様?如何かしましたか?」
自分が言った事に、気付いていないフェントルは、不思議そうな顔をしていた。驚いている二人の神官の内、若い方が声を上げた。
「フェントル、君は今、何て言ったか、気が付いてないの?
おめでとう、君は準神官になったんだよ。あ…リシェア様、宜しいですか?」
「宜しいも何も、フェン自身が告げた事だろ?
ならば、私に異存は無いに等しいが……?……フェン、自分が言った事に、気が付いたか?」
神官と神の会話で、自分がさっき、何を口走ったか思い出していた。無意識の為、中々思い当たらなかった彼へ、痺れを切らせた先輩神官が告げる。
「君は、リシェア様の事を我が神って、呼んだんだよ。
君は私と同じ、リシェアオーガ様に仕える、神官になるんだよ。
誓いの言葉、覚えてる?」
驚愕の事実を突き付けられ、フェントルは一瞬頭が真っ白になった様だ。ええっと、と言いながら、誓いの言葉を思い出している姿は、微笑ましく見える。
冷静になってと、先輩神官が傍で励ます中、彼は呼吸を整えて、一句一句、思い出していた。そして、真剣な眼差しを少年神へ向け、言霊を綴る。
『我、バルラム・ルシアラム・フェントルは、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ様に、この命果てるまで、御仕えする事を誓います。』
自分の神に向けて施す、最敬礼をして綴られた言霊に、少年神は慈悲の籠った優しい微笑で答える。
『我、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガは、汝、バルラム・ルシアラム・フェントルを、我に仕える者として認め、此処にその証として、バルラム・ルシアラムの名の代わりに、ファムエリシル・リュージェ・ルシアラムの名と誓いの金環を与えん。』
リシェアオーガに取って、二度目の誓いの儀式であったが、滞り無く終わり、フェントルの右腕に誓いの金環が輝く。
「リンデル、フェンも借りるぞ。
修行中の身ではあるが、暫く我と共にいて欲しいからな。」
「宜しいですよ。其の方が此の者の為になりますし、先輩であるカルダルアが一緒なら、何の問題もございません。
リシェアオーガ様、未熟者ですが、何卒、宜しく御願い致します。」
深々と頭を下げ、普通の敬礼を捧げる大神官へ、もう一人の神が告げる。
「ああ、修行なら、私が見てあげるよ。
でも、水鏡を作れるなんて、かなりの能力者だね。全く、リシェアには、普通じゃない子ばかりが、集まるんだね。」
知の神から、しみじみと告げられた言葉に、リシェアオーガに仕える神官達は、お互いを見合わせる。
片や、精霊の気配の状態で仕える事を決めた者、片や、水鏡と言う人間では扱い難い術を使う者。お互いの特徴を確認した後、神官達は微笑みあった。
「「カーシェイク様。
それはリシェア様の御役目を考慮したら、仕方の無い事だと思います。
今はまだ、我が神に仕える神官が少ないので、この御方の御力になる者が集まるは、必然だと思います。」」
偶然にも声を揃えていう神官達に、大神官も同意して頷き、序でとばかりに知の神に関して、己の知っている事を暴露する。
「確か、カーシェ様の時も、同じだったと聞き及んでいます。
情報に長けた風の精霊と、何処かの元間者だったとか。初めに仕える神官は、仕える神の役に立つ様な者がなると、聞いております。
リルナリーナ様もその様な神官が、誓いを立ててくれるでしょう。……未だ、この神殿に居ないのは、残念でございますが…。」
ポロリと本音を漏らす大神官に、周りの者達は微笑を浮かべた。
未だ、自分の神官を持たない、リルナリーナであったが、自分より寂しがり屋の半身に、人が集まる事を一番喜んでいた。