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風の詩人  作者: 月本星夢
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神々の祝福の詩

今回、途中に詩が入りますので、苦手な方はご注意を。

「それはそうと、ライアムは如何して此処へ?」

王宮にいる筈の国王が今、神殿にいる事を不思議に思ったリシェアオーガがそう尋ねる。彼の質問に国王・エーベルライアムは、微笑んだままで神殿の方を示す。

そこには各国の代表たる面々が集まっており、彼等の前には神々をも揃っていた。然も神々の手には、其々(それぞれ)の楽器が収まっていた。

「王宮での舞踊会を開く前に、神々から演奏会をするって、話になってね。

で、代表の方々と共に風の騎士達の手を借りて、ここに集まってるんだよ。」

納得行く回答にリシェアオーガも頷き、隣にいる吟遊詩人を見る。神々の演奏と聞いて彼の瞳は見開き、好奇心が刺激されている様子が判る。

しかし、詩人はある事に気が付いた。闇の竪琴は、闇の女神の傍にいる黒騎士が持っているのに、光の竪琴の存在が見受けられない。

噂で光の竪琴が主を得た事を聞いていたが、その主の存在がそこには無かったのだ。

光の神の手にあるのは、他の七神の竪琴…時の竪琴であった。

不思議に思っている詩人を促し、光の神の許へ駆け寄る少年を周りの者達は、優しく微笑みながら見守る。少年の手には何時の間にか竪琴が存在し、その輝きが先程共演した物とは思えない程になっていた。

まさか…と詩人は思った。

あの少年が持ち主に選ばれた竪琴は、光の精霊のそれで無く、光の竪琴その物では無いのだろうかと。

神子や神々が精霊の竪琴の持ち主になる事は稀であるが、あの少年神の今の腕前を考えると、精霊の竪琴より神々の御業の物の方が相応しいと。

そう思いながら少年神を見ていると、視線に気が付いた彼が振り向く。

「お兄さん、御免ね。これ…精霊の竪琴じゃあないんだ。

父上…ううん、父様が創った物なんだ。」

子供らしく告げて父親の腕にくっ付いている様子は、紛れも無く無邪気な神子の姿。悪漢達を制した戦の神の姿は形を潜め、光地の神子の姿だけで周りに接している。

彼の様子に詩人は、安堵の溜息を漏らした。

あの時会った少年に憂いは無い。

幸せそうに微笑み、前に別れた時の悲しみが見えなくなっている。喜ばしい出来事に微笑み、彼もまたエーベルライアムとアーネベルアと共に神々の許へ向かった。



 神殿に集まっている神々が各々(おのおの)で楽器の音の調整が終ると、神々による演奏会が始まりを告げる。

彼等が奏でるのは、祝福の(うた)

神々が愛おしいと想う、生きとし生ける者への賛歌。


  この世に生まれし者達よ 

  我等が創り 我等が育み 

  我等の手を離れ 日々を暮す

  その営みが その想いが 我等の喜び

  我等の与える試練さえ 乗り越え 成長する者達

  我等の試練に挫けるとも 再び歩みを始める者達

  その者達こそ 我等の望む姿と言えよう

 

  この世に生まれし者達よ。

  幸せに暮らせているか?

  不幸というのなら それは昔の罪

  前世の罪の 償いの為の 試練と枷

  この幾多の苦難を 嘆き悲しみ、全てを恨む事なければ 

  そしてこれを 見事乗り切り 新しい道を見つけられるならば

  我等の祝福が その身に降り掛かるであろう


  この世に生まれし者達よ

  その身に降り掛かる厄災を 乗り切って欲しい

  それが我等の望むもの

  我等が創りし者達に 敢えて与える 成長の為のもの

  我等の護る者達よ 我等の想いが届いているか?



神々の想いが綴られる詩が夕暮れの街中に響き、これに神々の力と共に精霊達の力が加わり、マーレリア王国を中心として周辺の国々にも流れていく。

神々の御業(みわざ)の楽器で奏でられ、神々の声で詠われるそれは、最も力の強い者達の手によって世界中に響き渡ったようだ。

生きとし生ける者の世界に響く咏声(うたごえ)に詩人はおろか、その場にいた人々は聞き入り、魅せられていた。美しくも悲しげで、そして…慈悲に溢れたこの奏者達の中に、あの厄災となった元木々の精霊の少年も交じっている。

今は光地の神子であり、新たな神・戦の神である少年の声は、他の神々よりも慈悲深く響き、あの頃の彼とは天地の差を感じさせた。戦の神…守護神でもある神の声に神殿に集まった人々は、感嘆の表情で聞き入っている。

やがて演奏が終わり、神々が楽器を弾くのを止めると、一瞬の静けさの後に大きな拍手喝さいが起こる。

神々と闇の騎士は平然としていたが一人だけ、戦の神が驚いた顔になっていた。そのあどけなく幼い可愛らしい表情に、ここにいる全ての人々が和んだようだ。

微笑を添えて見つめている彼等に気付いたかの神は、直ぐ傍にいる両親達を振り返る。彼の行動で父親である光の神が近付き、その体を抱き上げる。

これを合図に、何処からとも無く沢山の人影が集まる。彼等は其々の神々の傍に集い、人々の方へ向く。

そう、ここに集まったのは、初めの七神の家族達。

光の神と大地の神の夫婦を始め、空の神と闇の神の夫婦、そしてこの二組の夫婦の子供達に加えて運命の神とその子供達、水の神とその子供達と炎の神。

家族と共に佇む神々の姿は愛情に(あふ)れ、優しい雰囲気を辺りに齎している。

仲睦まじい血族の姿は、この世に生きる者達のそれとと同じ…いや、彼等を手本に創られたと言っても過言で無いかもしれない。

神々の家族が揃った場面を目の前にした人々は、そう感じた。

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