不幸デビルとFIGHTMONEY
3
放課後、俺は生徒相談室で学校中のアイドル清水穂乃香と対面している。
「それで、清水さん。今回の用件としては誰もいない様な部活に入りたいという事で聞いてますが間違いないですか?」
「う、うん。でも城ヶ崎先生は?」
「あ、俺はその城ヶ崎先生の代わりで八雲昴輝です。よろしく」
清水は疑いの目でかかり、慎重に、そして物凄く警戒しながらも返事をした。
「私は清水穂乃香です。初めまして、そしてヨロシクドウゾ」
なぜ最後が片言になる。
そして、もう一つ言わせてもらうと清水さん、あなたとはクラス一緒だからね?
四月から今の今まで顔は常に合わせてたからね?
「俺も時間が惜しい、さっそくだが本題に入ろう。具体的にはどういう部活がいいんだ?」
「あっ、部活は何でもいいんだ。とにかく周りに迷惑がかからない部がいいの」
少し伏し目がちになり、声も小さくなる。
今朝の一件といい、清水穂乃香=HLGの介入という関係図で周りの連中はおろか目にとまった奴は容赦なく袋にされるのだろう。
清水は止めたくてもその術を持たない為、傍観する事しか出来ない。
中々に辛い立場だ。
だからこそ、最大限の行動として今ここで俺に話をしているのだろう。
「HLGって奴か。今朝見たが中々の諸行だったな……さすがに他人知らずな俺でも同情したぞ」
「あはは……見られてたんだ。そう、あの人達……中学の時からアレなの」
中学って……もうストーカーレベルだろそれ。
「だから中学の同級生が誰もいない高校に行こうって思って、それで高校はわざわざ片道一時間かかる稜聖にしたんだ」
気苦労が絶えないな……。
主軸となって動いているあの三人もそれだけの選択を出来るとはただの追っかけでもなさそうだな。
特に、あの神所ってヤツは特に食えない。
実績があるならスポーツでもっと良い高校に行けるはずだし、動機が不純すぎる気もする。
「なら先に言わせてもらう、清水に見合う部活は紹介出来ない。というより、そんな部活があったら俺が入りたいくらいだ。自分で言うのもなんだが、俺は人間関係が嫌いだ」
「うわー、そこまで清々しいとアレだね。憎む気にもならなくなるね」
「まあな、そこでだ清水、俺に提案があるんだ」
そう言うと、俺は一枚の紙を清水に突き出した。
当然清水は訝しい顔で、そろーっと紙に触り、触れた瞬間猫のような速さで紙をひったくった。
ジロジロと眺める姿は、まるでエロ本に目が釘付けの中学生男子の様だ。
「これ、本気? 生活研究部って」
「当たり前だ。条件は三人以上の部員を揃えること」
「えー」
なんだよそのイヤな顔、俺だって一人で快適ライフを送る方が好きさ。
でもそれをする為にはこの部を作るしかないんだ。
心の中でボヤきながらも、俺は清水をジワジワとこちら側に引きづり込むことにした。
「なあ、これはかなりお互いにとってメリットのあるモノだと思うんだ。清水は誰にも迷惑をかけたくない。俺は人員を必要としている。実際、俺が作る生活研究部ってのは相談や悩みを解決することで貸しを作り、後にこちらが必要とする生活研究時の人力として借りる事が出来る。そういう契約で任務遂行する部活だ」
ズラズラと長々説明をして見せるが、清水はどうやらチンプンカンプンらしい。
「簡単に言うと、今こうやって清水の相談を受けているのは、城ヶ崎先生の生徒指導の代役。だからこれで城ヶ崎先生に貸し一つ。そして相談に乗った相手の清水からも貸しを一つ作る。これで俺が生活研究部として何かをする際、二人から一度、人力として手伝ってもらう事が出来るというわけだ。それをする最大の理由は単純、研究するならモルモットは一人より二人、二人より三人つまりそういう事だ」
言葉は汚くなったが、内容は理解してくれたのか、なるほどと頷いてはくれた。
「でも、それってようは恩の貸し借りって事だよね。なんかイヤだなー」
「そうか、なら他を当たるしかないな。あーあー、今朝のあの眼鏡くんから手紙預かってんだけど、どうしよっかなー。ぶっちゃけ他人のコトなんて興味ないし捨てよっかなあー」
手紙をピラピラとチラつかせる、これは最後の手段。
清水ほど他人を気にしないヤツはいないと、特に自分に好意を抱いてくれている人を見捨てるなど出来るわけがない。
その事を俺は知っていた。
そして、それを逆手に取る最低な行為をしている事も。
「それ、その眼鏡くんの手紙なの?」
「ああ、そうだ。清水、お前次第だぞ」
清水は複雑な顔をしながらも最後は入部を承諾した。
「じゃあやっくん。これからよろしくね」
「やっくんてなんだよ」
「だって、八雲って言いづらいじゃん」
なんだその理由、しかしとにかくこれで部員が二人になった。