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不幸デビルと幸運エンジェルず  作者: 想名ユウキ
不幸デビルとUNLUCKYDAY
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不幸デビルとUNLUCKYDAY

「わたしの手伝いをしないか?」

「結構です。先生ほどの美人女教師の為なら、他に手伝いたがる人は五万といますよ。それでは失礼します」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待て。貴様にもメリットはあるぞ」

 珍しく必死な形相をする城ヶ崎、とりあえず話だけ聞こうとドアに向かう足を止める。

「朝言ったこと覚えてるか?」

「はい、今週末までに決めろってヤツですよね」

 言わずもがな部活の話だ。

「そうだ、どうせ貴様のことだ。部活の見学どころか何部が存在するかすら頭にないだろう」

 ピンポイントで嫌な部分を突いてくる。

 ポーカーフェイスもへったくれもない俺の顔は引き攣り、素直に図星ですと言っていた。

「そこでだ、新たに部活を作るんだ。一人でも問題ない部活を」

 城ヶ崎は人差し指を立て、キメ顔を向けてきた。

 また理解に苦しむ事言い出したよこの人は。

「実は私は君達のクラス担任と同時に、生活指導も任されているんだ……だが正直な話、生活指導なんてモノはただの生徒の愚痴や悩みのハケ口でしかない」

 眉間にシワを寄せ悩み出した城ヶ崎。

 腕を組み、眉間に手を置くあたりかなり本気らしい。

「だいたい予想は出来る展開ですが……一応聞いときます。僕は何をすればいいんですか?」

 溜息混じりに俺が城ヶ崎に問うと、コンマ数秒差で待ってましたと言わん速さばかりに口を開いた。

「私の生活指導を代わりに受けてくれ!生活指導部と言うのを作り私の仕事を代わりにーー」

「嫌です」

 同じく、そう言ってくる事を予測してコンマ数秒で返す。

「なぜだ!」

「面倒だからにきまってるじゃないですか」

 淡白な返答にジトッと目を向けてくる。

「ですから……」

 俺は黒板の前に歩み、白いチョークを一本取った。

 単純にイエスノーで答えるのは簡単だし楽だ。

 お互いの利害が一致するウィンウィンな関係。

 しかし、俺の求める選択はその先にある。

 例えばイエスと答え、城ヶ崎の仕事を請け負い、部活として悩みを抱えた生徒の相談相手になる生活指導部創立の選択をすれば間違いなく一人でも出来る。

 だが、根本は変わらない。

 どうせ城ヶ崎が嫌になる位の内容なのだ。

 聞く中身といえば、見るに絶えないリア充の恋話やイジメや悪口からの救いの懇願だろう。

 正直に言おう、俺は恋のキューピッドでなければ正義のヒーローでもない。

 ただのぼっ……一人の人間だ。

 普通に生きていたい、問題事(特に青春真っ只中の眩しい輩の内容)にはノータッチでいたいのだ。

 しかし、だからと言ってノーと言えば良いものでもない。

 結局の所、最終着地は部活に参加という所にある。

 全部活を把握していない俺は、このチャンスをみすみす逃すわけにはいかないのだ。

 だからこそ今の段階で出来る最高の選択を取る必要がある。

 俺はカツカツと無言でその答えを黒板に書いた。

「生活研究部……だと?」

 思わず城ヶ崎の口からこぼれる。

「そう、生活研究部。様々な生活を研究し、良い点や悪い点を考察、予測、仮説、実施、改善を行う部活です」

「八雲、お前は私を見捨てるというのか……」

 城ヶ崎が絶望的な表情になる。

 生徒の愚痴を聞くのがそんなに嫌か! どんだけだよ!

 だが新部活の設立という選択肢を生み出してくれた張本人、流石に俺も人の子。

 容易く見捨てれる程の腐った心は持ち合わせていない。

「いいえ、そこで先生には生活研究部の顧問をしていただきたいのです。どのみち顧問が居なければ設立もクソもないんで」

「貴様は相当なサディストだな。担任と生活指導に加え、部活の顧問もしろとは」

 城ヶ崎のイライラゲージが上がっていく。

「私が顧問をしなければその案も潰れ、貴様は適当な部活に入るハメになると、逆に私から脅すことも出来るのだぞ」

「それには心配及びません。名目上で平出先生にお願いしようかと思ってますんで、あの人なら快諾すると思いますが?」

 諭したように決め手を告げる。

 平出は基本強く言えないイエスマン。

 それは授業で嫌という程見てきたから分かる。

 わざとらしい早退にも二つ返事で快諾。

 授業中の明らかな爆睡も黙認。

 早弁ですら文句を言わない超適当なイエスマン。

 教師として、と言うよりむしろ全ての事に関心がない人間なのだ。

 まるで誰かさんのように。

 俺ではないぞ……俺では……

「ぐっ……卑怯だぞ、貴様それでも青春を謳歌する青少年か!」

 不意の策に城ヶ崎がこちらを睨む。

「卑怯かどうかは別として、とりあえず青春は謳歌してません。後、先生がしたくないなら全然いいですよ。先生がそれでいいのなら……ね」

 わざとらしく最後の言い回しを勿体ぶらせる。

 すると、ようやく何か考えがある事を察し城ヶ崎が気になり出した。

「わ、私が……顧問になったら何か考えが、あるのか?」

「何か……と言いますと?」

「質問を質問で返すな、早く言え!」

 とぼけた喋り方で城ヶ崎に返答すると髪をわしゃわしゃと掻き乱し、地団駄を踏み鳴らしだした。

 その光景を見てからまあまあと宥め、ついに俺は最後の決定打を打ち込んだ。

「活動内容の一貫として、相談相手から救済の懇願及び不満を解消する事で、貸しを作り本部活が行動する際の借りとして貯蔵する」

「なっ……それはつまり」

「そう、先生の業務。つまり生徒指導を僕が受け、その報酬を僕が設立する部活の活動力とする。あくまでも生活の改善、向上を目的として様々な問題に向き合う研究活動」

 ぱあっと笑顔になっていく城ヶ崎。

 だが、同時に疑問を持った。

「おかしいぞ、なら何故さっき私がいった誘いには乗らなかったんだ。同じことだろう?」

「簡単な話です。貸借りというのが重要なんですよ。後付けで貸借りを内容に突っ込むのと先に突っ込むのとでは大きく違う。そもそも僕は先生の業務を『肩代わり』してあげるんです。つまり、先生も例外なく立派な相談相手なんですよ」

 城ヶ崎は今更ながらに気付いた。

 自分が生活研究部の顧問にならなければ、代わりに平出が顧問をして俺の部活は決まり、自身の抱える生活指導という面倒な役回りがそのまま残る為、俺は満足行くが結果城ヶ崎は現状維持。

 逆に顧問を引き受ければ城ヶ崎の生活指導という業務を代わりに俺が行い、俺の部活決定と城ヶ崎の役が一つ減り互いに満足行く結果になる。

 しかし、それをするという事は業務を頼むという意味にあたり、城ヶ崎は事実上の相談相手一人目とカウントする為、八雲に貸しを作る流れになるのだ。

 後にも引けないこの状況で、否応なくこのイケ好かないガキに貸しを作ると知った時には腸が煮えくり返るだろう。

 だがその二択しかない以上、どちらかを選ぶしかない。

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