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不幸デビルと幸運エンジェルず  作者: 想名ユウキ
不幸デビルとUNLUCKYDAY
2/8

不幸デビルとUNLUCKYDAY

「とにかく、担任の城ヶ崎先生からも聞いてると思うが学校の廃校舎で……」

「そこ!そこおかしくねえか?なんで廃校舎なんだよ、普通に家でいいだろ!?」

 人差し指を親父に突き立て、捲し立てる。

 いつもなら軽く二つ返事で納得しているだろう。

 中々に俺っぽくはない行動だ。

「まあまあ聞け、この家はな。売る事にしたんだ。祖母から受け継いで築50年、木造にしては持った方だと思わないか?」

 言われて家中を見回す。

 支柱部は物が当たったりして角が歪み、歩けばギシギシと軽く鳴る、おまけに居間は軽く色褪せた障子がなんとも年季を物語る。

「た、確かに、否定はしないが……それなら世界旅行どころの話じゃねえだろ?」

「世界旅行は世界旅行、家の事は家の事だ」

 俺の意見は聞こうとせず、うんうんと腕組みをしながら自己解決している親父はもうルンルン気分、お花畑だ。

「それに学校に住めば、勉強もそれだけ出来るし何より朝は遅刻の心配がない。何故なら既に学校だから!最高じゃないか!」

 最早、親父の中ではこちらの都合そっちのけで一石二鳥とでも思っているのだろう。

「お父さん!熱く語るのはいいから準備進めて!」

「そうよ、力仕事はお父さんでしょ!」

 姉妹が忙しく親父に指示を出すと三人はせかせかと落ち着きもなく働き出した。

 ダメだ、もう頭が追いつかん。

 ふらふらと重い足取りで二階の自室へと歩いていく。

 しかし軋む階段を登っていくと途中で下から呼び止められた。

「昴輝……」

 母だった。

「なんだよ、準備しねえと母さんも言われんぞ」

 俺の返事は淡白、別にいじけたわけではない。

 もう一度言おう、別にいじけたわけではない。

「一緒に連れて行けなくてごめんね。ちゃんと勉強するのよ」

 母は近寄って来ると頭を撫で始めた。

「三食きちんとご飯食べて、早寝早起きして、ぐうたらしないで、日光浴びて……」

 撫でられていると中学三年の授業参観を思い出す。

 それまで一度も、俺の方には来なかった母さんが、初めて見に来たのを。

 他の連中が「美人だ、美人がいる!」と口々に騒ぎ出していたあの頃を。

 マザコンではないが確かに自慢の母だ。料理も美味いし、その他の家事もプロ級、確かに美人だし親父には勿体無いくらい。

「別に、もうガキじゃねんだから……心配すんな」

 それゆえ、口からは思わず反抗心が出てしまう。

 だがもう一度言おう、俺はマザコンではない。

「うん、高校生活楽しんでね」

「ああ、母さんも世界旅行……気を付けて行って来いよ」

 ぶっきらぼうな言葉を吐くと、俺は小っ恥ずかしさから階段を駆け上がって言った。

 だから、マザコンじゃねえって。

「はあ……なんか、これからの事を考えるとマジでだりいな」

 生活を送る上での必要最低限な物は揃っているが、そもそも廃校舎に電気が通っているのかすら危うい。

 色々考えたらキリがないのは分かっているが、ついつい考えてしまう。

「とりあえず、寝よう」

 そんな事を考えている内に俺は深い眠りへと落ちた。


3


「お、八雲。どうだ新生活は」

 ハネッ毛をぴょんぴょんと揺らしながら校門を通る俺の後ろから呼ぶ声がする。

 言わずもがな、担任の城ヶ崎だ。

「どうもこうも、いきなり学校で暮らせと言われるわ、世界旅行に行くから家を売ると言われるわで散々な1日。結局昨日は実家で寝ましたよ」

「あっはっは、まるで悲劇のヒロインかなんかだな八雲!そう言えば一つ忘れてないか?」

 城ヶ崎に言われ今度は一体何のことか、と頭を捻る。

「今週中に決めなければ貴様の寝床は廃校舎から鶏小屋に格下げだからな」

 楽しそうに笑顔で背中を叩くと、城ヶ崎は職員室の方へと向かって行った。

 今週中に決めなければいけない事ってなんだ?

「ねー、部活今日どこ行く?」

「私吹奏楽行こっかなー」

「私テニス部ー」

 部活……部活……部活…………。

 完全に忘れていた、部活の存在。

 期限は今週末、平日計算で行くと昨日が月曜だから今日含め残り4日。

 今週は部活決めに専念して、来週から生活の基盤を作っていくか。

 とりあえず今週は実家に世話になろう。

 重苦しい溜息を一つ吐き、玄関で靴を履き替えようするとタブレットが鳴った。

「誰だよ、朝っぱらから」

 タブレットのディスプレイを確認すると、そこには一通のメールが届いていた。

「はあ、後でいいや」

 確認するのも辞め、とぼとぼと教室に入っていく。

 周りのヤツらはいつも通りの変わらぬ青春を送る中、その眩しさがむしろむさ苦しいとまで感じてしまうほど俺の心は腐っていた。

 放課後、やはり城ヶ崎の視線が異常なほどの圧をかけてくる。

 こんなの視線じゃねえ、もはやレーザーポインター。

 赤い光点が俺の体に二つ、双眸から当てられている気分だ。

 誰か、このスナイパーから助けてくれ。

「八雲、少しいいか?」

「なんですか、断る権利もないのでどうぞ言っちゃって下さい」



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