After story 響きあうように
俺の腕の中で、彼女が身体を擦り寄せてくる。
二人で寄り添っていると、こんな恰好でも暖かいもんだなどと実感していると、彼女は顔をこちらに向けて問い掛けてきた。
「ところで、どうしてあれの意味が分かったの?」
そう問い掛ける彼女に対して、俺はある話を始めた。
***
彼女の蹄鉄を店の看板に添わせるようになってから暫くしたある日、人馬族の客が店にやってみた。
そいつは店に入るなり、「あの蹄鉄はあなたの作品なのかしら」と聞いてきたのでそうだと答えると、その客は自分の蹄鉄も打ってほしいと注文してきた。
数量は一枚のみ。奇妙な話だが、左前足の一枚だけを打ってほしいという依頼だった。
そういえば、あの蹄鉄も左前足の物だったな。
気になった俺がそのことを話すと女は意味ありげに笑い、やっぱり依頼を断るなんて言い出した。
理由を聞くと女は更に笑みを強めて「彼女さんに悪いから」なんて言いやがる。
「どういうことだ。」
俺がそう問い掛けると、女は左手の薬指を示しながらその理由を教えてくれた。
真っ赤になって俯く俺に対して女は声を出して笑いながら、「あの蹄鉄、毎日しっかり手入れしてるみたいね。彼女さんも同じように大切にしなさい」なんて言い残して店から去っていった。
後に残された俺は、その日は店を閉じて街一番の宝飾店に向かうことにした。
***
「どうしてこの指輪を選んだの?」
あなたの話を聞き終えた私は、指輪が嵌った薬指を掲げながら聞いてみる。
「この、絹糸のように美しいお前の銀髪に相応しい指輪にしたかったんだ。」
あなたは私の髪を撫でながら理由を話す。
私はあなたの胸へと額を押し当てると、胸いっぱいに広がる愛しさを込めてあなたの名前を呟いた。
私のそれに応えるように、あなたが熱い吐息と共に私の名前を囁く。
まるで二つの音色が響きあうように、私たちは何度もお互いの名前を呼び合った。
ここまでお付き合い頂きましてありがとうございました。
今回の物語は「魔物との物語を書いてみたい」という理由から書き始めました。
今後とも頑張りますので、宜しくお願い致します。