side-A その音は
カァーン、カァーン
カァーン、カァーン
王が変わっても俺の仕事は変わらない。
以前からこの国が侵略を受けていたのは知っていたが、最期の瞬間は呆気なかったようだ。
敵軍の奇策で主力部隊を失った時、この国は全ての門を開き白旗を掲げ、敵国に降ることを決断した。
カァーン、カァーン
カァーン、カァーン
あまりの熱気に滴る汗を拭いもせず、俺は鉄を打ち続ける。
最近は仕事の依頼も増えた。
俺の技量が認められたのもあるだろうが、これも幸運を呼ぶ御守りの力かもしれない。
彼女の噂は、異例の活躍を見せる人馬族として最初の頃は頻繁に耳にしていたが、主力部隊の壊滅と共にすっぱりと絶えていた。
カァーン、カァーン
カァーン、カァーン
仕事仲間からは大きな都市に移ろうと何度も誘われたが、俺は断り続けた。
この街にそこまでの愛着があるわけではない。らしくねえのは分かっている。
それでも、ここはあいつと約束した場所だから。
また会おうと約束した場所だから。
俺はこの場所で鉄を打ち続ける。
***
カァーン、カァーン
カァーン、カァーン
今日も工房には鉄を打つ音が響き渡る。
カァーン、カァーン
カァーン、カァーン
最近は本当に忙しい。
明日が納期の製品すらまだ出来上がっていないような有り様だ。
カァーン、カッ、ガキンッ
……カッ…カッ…カッ…
鈍い音が工房内に響き渡る。
形が整いつつあった短剣は、力加減を誤ったことにより二つに分かれていた。
…カッ、カッ、カッ、カッ
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺は道具を放り出すと、表口へと向かっていく。
カッ、カッ、カッ
カラン、カラン、カラン
「ただいま」
そう言って微笑む彼女を、俺は力いっぱい抱き締めた。