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戦いを描く事

武器の扱いは練習や体験は可能ですが、戦いを体験した人は稀有と思います。 とは言え、多くの作品では、戦いが出てくるので、これを描く必要があります。 戦い描く場合には、軍団としての動きと、戦闘部隊としての実戦では、全く観点が異なります。 前者は軍団を抽象化した単位として見る事になり作戦と勝敗が重要であり、後者では兵士それぞれの戦いが中心になるからです。

前者については、戦史の資料を読むことで 背景を理解し、それを描写に役立てる事が出来ます。 ですから、この章では後者の戦闘の描写について述べてみます。

私自身も、当然ながら 戦闘は伝聞でしか知らず、資料と 体験者の聞き取りをしただけです。 体験者の聞き取りは、太平洋戦争の従軍者と、米国人のベトナム戦争の従軍者です。 そこで判る事は、近代兵器(連発が可能で射程が500m以上ある銃)の戦闘では、敵の姿を見る事は稀有な事です。 砂漠や海岸のような地形や、待ち伏せの場合を除けば、戦闘では敵の顔が見えて戦う事は稀有で、敵の推定位置に向かい銃を撃ち 終了の命令で戦闘は終わります。 その時には、勝敗よりも 仲間が生き残った・怪我が無かったかが一番の重要事である事が判ります。殆どの人が、勝敗よりも、仲間に死傷者が居なかったことが一番うれしいと言っています。日常の中に占める戦闘の時間は稀で、戦時の軍隊の日常は移動か、その準備です。人によっては、殆ど戦闘をしなかった人も珍しくありません。 聞き取りからは、この点は帝国陸軍だろうが、ベトナムの米軍だろうが同じでした。 ですから、興味本位で「人を殺した感想」や「命中の手応え」などを聞いても、怒られるだけです。 なぜなら、そうしたものは近代戦では、一般に体験出来ないからです。 もちろん、狙撃兵という役割は、存在しますので そうした体験をした人は皆無ではありませんが、非常に稀です。 また、そのような体験を、進んで話した人は私の体験ではいませんでした。 戦闘の体験者と聞き手の体験には大きな隔たりがあるので、未体験者には話しても理解が困難だからです。(私が唯一体験したのは、自慢話として嘘を語った例だけです。嘘には内容に破綻がありますから、聞いていて体験が無いからだと判ります)

一方 個人から軍団に眼を転じると、近代戦において、軍団の動きで一番重要なのは、大量に消費される物資を どのように移動し継続的に補給し続ける事です。近代戦の大規模の陸上戦闘では、彼我の戦力は事前に判っていますので、長期の戦闘では補給能力とロジスティックこそが勝敗を分ける事は常識です。(政治的な問題も主因ですが説明は省きます) そんな戦場ですから個人の能力や武勇は出る幕はありません。 ですから、小説で描くには、近代戦でチャンバラのような無双な戦いは、無理が出てきます。

このように考えると、作品の中で 戦いを描く事は、設定が近代以降か、それ以前(火縄銃以前)なのかで、描き方は大きく変わります。


実際に、多くの作品で 戦闘や戦争を描く場合の設定は、火縄銃以前や、中世になっているのも納得できる気がします。 この設定ならば、個人の能力や武勇は大きな要因になります。

個人の能力や武勇が重要な要因ならば、少数の兵団が十倍以上の兵団に勝つことも可能ですし、相手側のパニックや錯誤によって勝利を得る事も可能です。

以下に戦いの中で、私が重要と思うものを書いてみます。



1.音楽は大事:(連射銃が登場した近代以降を除く)

ナポレオンの軍隊が強かった理由は様々ありますが、その中の一つには軍楽隊の活用があります。 軍楽隊がなぜ必要なのかは、歩道を好き勝手に歩く人をみれば判り易いでしょう。 歩道に人が多いと、歩きにくいのは、人それぞれが勝手なリズムと歩幅で歩くからです。 この為、移動出来る速度は、遅い側に合わせる事になります。

単純に、歩道の交通効率だけを考えれば、歩行者全てが同じリズムで動けば、勝手に動いている場合に五割以上の人を、同じ時間で移動させる事が出来ます。つまり軍楽隊は、陣形を組んだ兵隊を措定したリズム動作させる為のコントローラの役割をしています。

ですから、当時の軍隊での訓練では、武器の扱いも当然重要ですが、列を組んで同じ歩幅で、歩く訓練をします。 軍楽隊の始めは、トルコ軍だと言われますが、ヨーロッパでは金管楽器:トランペットやホルン)と打楽器:小太鼓、大太鼓、シンバルで構成されました。 ナポレオン軍では、これにクラリネットを入れて、メロディックで勇壮なマーチを演奏したようです。 また、歩幅と時間辺りの歩数を上げて、他の軍隊よりも早く動ける訓練をしました。 この為、戦場では敵よりも早い機動が出来て、それが有利な戦いにつながったと言われています。 


話しは飛びますが、スーパー・マーケットでマーチや明るい雰囲気の曲を流すのは購買欲を刺激する為だそうです。 実際、音楽が心理や行動に与える影響は大きく、スーパーで人を観察すると、音楽に合わせて動いている人が多いことに気付くと思います。言うまでもなく、無線通信が無い時代には、音楽は効果的な軍隊の指揮、通信手段でした。ですから、音楽により、前進、突撃、退却、待機など、必要な指揮を行い、軍楽隊と伝令はセットになり、司令官とは密接な関係をもっていました。

このように、戦場のような非日常な場だからこそ、音楽や軍楽隊の果たす役割は大きな気がします。

日本の戦国時代でも、進退に太鼓、鉦などが用いられましたが、笛、太鼓などの楽器も入れてマーチ演奏により、敵よりも早く巧みな運動で勝利することは、チート知識と訓練で可能と思います。


2.天候、地形の重要性

古来 戦場で、天気が勝敗を左右した例は多々あります。 日本では、川中島の霧、桶狭間の豪雨など、敵の本陣への接近を可能にした重要な要因になりました。

 これらは、日本の中で、特定の時間の天候が問題になった例ですが、戦場が海外や遠方になれば、その土地固有の気象や風土を理解しないと大きな問題になります。

   近代の例になりますが、昭和の帝国陸軍は、従来は満州やソ連国境の寒い平原に対応した軍備やドクトリンを採用しており、日清・日露戦争の経験もあり、それなりに準備をしていました。 ところが、太平洋戦争がはじまり、戦場が南方になり、ジャングルや島嶼部での戦いになったら、全く従来の経験が使えず手も足も出ず、決戦と称したフィリピンで惨敗し敗戦が決定的になりました。

具体的には、ジャングルでは高い木立があり、大砲を撃っても測地が出来ませんでした。

通常 大砲を撃つ場合には、落ちた弾と目標との距離を観測しながら、撃ち方を修正します。 帝国陸軍の砲システムでは、見通しが悪いジャングルでこの作業が出来ません。サイパンのように、浜辺に並べれば、航空機に発見され、艦砲射撃で自分が撃つ前に壊滅します。

また、軍隊とは、移動であり、予定戦場に 事前にどれだけ資材と人を運べるかが勝負です。 しかし、南方では日本の馬が使えず(輸送途中で病死、現地でも風土が合わず殆ど使えず)、ぬかるみでは日本の非力なトラックは使えず、最後は道路の無いジャングルや山に追い込まれ人力頼みになり、兵は疲弊し、食糧も運べなくなり、飢えた軍隊は組織を維持できず戦わずして自壊しました。

一方では、アメリカ軍は、ジャングルの測地には、観測用の飛行機を用意して空から測地を実施。 加えて着弾後に観測用の煙を出す砲弾を開発し、日本軍の手の届かない距離から砲撃。 輸送には、大規模な道路施設部隊を用意して、道路を作りながら十分な物資と兵器と共に進撃してきました。 日本軍の抵抗にあえば、一旦 下がり、砲撃で一掃してから、また進んできました。 夜間の日本軍の切り込みには、集音マイクや鳴子、トラップで、事前に察知して対応し、切り込みは自殺行為に代わりました。

日本軍はアメリカの物量に負けたとの話は良く聞きますが、それ以前に現地をしっかり調査して、風土や地形に対応した適切な戦い方を用意出来なかったのは事実で、物量以前の組織的欠陥だったと思います。この問題は、日本で聞き取りをした人の殆どが指摘した組織的欠陥でした。


最後にまとめです。

戦いは非日常ですから、それをどのように描くかは、事前にしっかりと決めておきましょう。読者も作者も実体験が無い世界だからこそ、事前設定をしっかりとして、お互いが共感できる、最低でも理解できる世界を描く必要があります。

 ファンタジーだから無双でも良いけれど、それならばその路線を貫くべきですし、理屈抜きの無双世界ならば、それがはっきりしている方が良いでしょう。

一方で、事実を背景にした描写を目指すならば、ある程度の資料調べは必要ですし、時代、地域により、戦闘の状況は大きく異なります。 但し実在の歴史を元にした小説の場合には、事実も元になるので設定には破綻は生じません。 もし架空世界を描くならば、気象、風土、地形、兵隊の士気の維持や、指揮を、どのように描くかは注意が必要と思います。 言い替えれば、この部分で工夫が出来れば、素晴らしい描写や表現につながると思います。 

「小説をよもう」で出あった小説でも、架空世界であれ、実世界を踏まえていようが、しっかりとした設定の元に書かれている戦いを読むと、作者の素晴らしさを感じてワクワクしながら読んでいます。特に、調べた内容を薀蓄として披露するのではなく、小説のネタとして活かして書かれている人を見ると、素晴らしいなぁとゾクゾクして、思わずお気に入り登録をして、高評価が出てしまいます。

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