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魔法について(その2):科学との境目

魔法と科学の境界について書いてみました。


例によって、夢の無い内容ですから、その点はご了承ください。

魔法と科学の違いは何でしょうか? 創作小説では、既知(主人公の元の世界)の知識とは異なったことわりで発動するのが魔法、但し物理法則とは相反しないものだと勝手に定義しました。 創作小説ですから、もちろん色々な定義や設定があると思いますが、一応 そのような前提で話を進めてみます。 

物理法則との相反が無いという意味は、物を移動させたり火や水を出したりするには物理法則ではエネルギーの移動が必要ですが、それが魔素やマナなどのエネルギーで補完できるという考え方です。 エネルギー保存則を無視して、魔法は発動しないという考え方です。

あまりこういう事を詳しく書くと詰まらなくなる事 請け合いですが、作品の設定としては、そうした縛りがある方が、却って面白かったり、破綻の無いお話になると思います。


現実世界の歴史に戻れば、中国の練丹術や、西欧の錬金術の研究者などは、見方を変えれば 当時の人々にとっては仙術、魔法の如きものと思います。 それ故、宗教家や施政者からは、管理不能な人物として危険視され、異端として弾圧されたり、迫害された事も記録に多くあります。  しかし、このような研究が、体系的に整理され理論が明確になり、知識と設備があれば普遍的に実現可能になったものは科学として扱われるようになります。 言い替えれば、科学として体系化されていない、一部の人だけが実現できる不思議が、魔法と呼ばれていたと考える事も可能と思います。

そのように考えれば、創作小説で、主人公が他の世界に転移して、未知の理論により 元の世界で出来なかった事を、魔法として扱うのは、至極 当然の事となります。移転先の新しい理は主人公にとっては、未知の理で発動する魔法となります。

とりあえず、この文章では、魔法をそのようなものとして定義します。


さて、現実世界に戻ってみると、現代の科学でも、理論が明確でない事項や、人間により実現出来ない事項が、かなり多くあります。 これを現代の魔法のネタとして提示してみようと思います。 内容を説明すると、何とつまらないとガッカリするかもしれませんが、事実とはそうしたものだとご容赦下さい。 そんなものでも、ネタとし上手く料理出来る方がおられれば幸いです。


<現代の魔法のネタ?>

1.牛の胃袋とタンパク質、ビタミンB

乳牛は、草を食べているのに、タンパク質とビタミンBを大量に含んだ牛乳を 出し続ける事が出来ます。 牛には4つの胃袋があって、これらが巧妙な発酵プラントになっています。 このプラントでは、牛の一番面の胃袋で、細菌プロトゾアの力を借りて、飼料の草を分解して酢酸・プロピオン酸・酪酸として、メタンガス・二酸化炭素などのガスを発生します。このガス部分は、牛のゲップとして出てきます。

更に酢酸・プロピオン酸・酪酸は、微生物により更にアミノ酸を含んだタンパク質や、ビタミンBも合成します。 牛は、これらの栄養素を体に取り込む事で、体や乳の中のタンパク質やビタミンBとする事が出来ます。牛の反芻運動は、こうした巧みな発酵を行うのに必要な作業のようです。

同じような、化学プラントを人間が作れれば、タンパク質やビタミンBの合成が、飼料やセルロース(廃材や、古紙など)から作ることが出来るはずですが、商用になるような効率が良い設備として作る事が出来ません。 これが出来れば、食糧問題のかなりの部分が解決可能と思いますが、そのような魔法も科学も実現できていないようです。 牛がゲップで出すメタンガスも、全て集められれば、燃料になるのですね。プラントならば、同時に燃料を作る事も出来るかもしれません。



2.シロアリと糖

動物が動くには、ブドウ糖などの糖分がエネルギーとして必要です。

シロアリは、体内のバクテリアを利用して、木材等のセルロースから、糖分を作る事が出来ます。 残念ながら牛の場合と同様に、シロアリがやっているセルロースから糖分を作る、効果的な化学プラントを、現代の科学ではまだ実現できていません。

(研究は、随分と進みつつあるようです)

糖分は、食物としてだけではなく、発酵によりバイマスエネルギーとして加工する事が出来ます。 ですから、こうしたプラントを作れば、内燃機関を動かす事も可能となりますし、異世界で石炭や石油が無くても産業革命が出来るかもしれません。


少なくとも、牛とシロアリが出来る事を、科学や魔法で実現出来れば、かなり その世界が変わる事は事実です。 食糧事情や、エネルギー問題は激変すると思います。

それを魔法と感じるのは、その世界では切実な問題として存在しているからです。

1,2、を効率よく実現できれば、森林の多い国は、それが油田にも等しい重要な資源となります。

日本のエネルギー政策にも、大きな影響が出るでしょう。


もし、こうした事が当たり前の事として、すでに実現できていれば、それは魔法ではありません。

しかし、現実で実現できていないのならば、それは魔法として登場できるかもしれません。


最後にもう一つ、魔法のような事を実現できたお話です。

3.空気から肥料と火薬を作る

それは、ドイツの科学者 フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュにより、「ハーバー・ボッシュ法」として実現されました。 これは当時、水と石炭と空気とからパンや火薬を作る方法と言われました。 具体的には、水から水素を分離して、その水素を空気中の窒素と、高温高圧下で触媒により反応させ、アンモニアを化学合成する方法です。

アンモニアにより、農業に必要な化学肥料や、戦争に必要な火薬を作ることが出来ます。

当時のドイツは、20世紀の始めで、海外から化学肥料や火薬に必要なリン鉱石を大量に輸入していました。(石炭は、ドイツには炭鉱が多くあり、自給が可能でした。) 第一次大戦の勃発で、英仏はドイツの輸入を海上封鎖し、これで食糧生産に必須な化学肥料の生産と、戦いに必須な火薬に致命的な影響を与えると期待されました。 それが、空気からアンモニアを作るという魔法のような発見で解決され、ハーバ、ボッシュはドイツの英雄となりました。 実際にはドイツは敗戦したので救国の英雄には、なれなかったのですが、農業関係者や軍の関係者からは、まさに魔法だと思われたでしょうし、英仏からは黒魔術の如く、恨めしい発明だったと思います。


ここで何が言いたいかと言えば、既知の科学でも、創作小説の中の理でも、思いもかけない発明を実現する事は出来ます。 それは、未知であった時点では魔法の如きものであり、既知の事実として定着してしまえば、当たり前の事か、気付かれない事になってしまいます。

また、魔法だと強烈に印象づけられるかは、どれだけ切実な問題を解決できるかも影響しています。


さて、創作小説へのヒントです。

既知の科学技術の発展や、科学史を調べる事で、かつては夢であった事を、魔法のように実現できた事は、様々にあります。 先のハーバー・ボッシュ法だけでなく、種痘や、ペニシリンの発見なども同じです。

また、すでに自然界に存在している動物が出来ていながら、人間が実現できていない事も様々にあります。 シロアリや、牛が出来ている、食物繊維から、タンパク質、糖分、ビタミンを作り出す事です。 こうした事は、新しいことわりを見つけたり、創作で理論設定する事で、実現可能に出来ます。 それを上手く、材料として使う事が出来れば、創作小説の彩や、良き調味料になるのではと思います。


江戸時代の町人学者 山片蟠桃は、西欧からの科学知識を趣味で学び、従来の信仰や迷信の部分と、伝統文化とを分離して『夢の代』を書きました。 その結びの和歌に「神 ほとけ 化け物もなし 世の中に 奇妙不思議の ことはなお無し」とあります。


科学知識は、世の中から奇妙不思議の事を無くして行きます。 同時に、科学史や、物理法則を理解する事は、既存のモデルや理論をあてはめられない、不思議や魔法を合理的に創作する事を助けるのだと思います。皆様は、如何思われますか?


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