火縄銃
火縄銃を撃ってみて思った事を書いてみました。
男の子なら、武器が大好きで、特に銃は王道と思います。
まず、火縄銃について書いてみます。
火縄銃は、中世ヨーロッパ、そして日本にも伝わり、戦国時代の戦闘に大きな影響を与えました。 火縄銃は、円筒形の鉄(鍛鉄)の筒の底を螺子等で塞ぎ、発射の為の機構と、支えの為の銃床をから構成されます。 鉄の筒の後方脇に着火の為の溝があり、この脇に火蓋という着火用の開閉可能な皿が取り付けられます。 この火蓋を開いた部分に、火縄を押し付ける為のカラクリが用意されます。 カラクリは、火縄挟みと、引き金から構成され、引き金を引くとバネ仕掛けで火縄挟みに取り付けられた火縄を、開いた火蓋に押し付けるようになっています。
実際に火縄銃を撃つには、加えて弾丸と黒色火薬が必要です。
弾丸は、球形の鉛で作られます。 鉛は融点が低いので、鉄型があれば比較的容易に欲しい形状のものが作れます。 この直径は、銃身の内径よりも少しだけ小さい事が重要です。
火縄銃の口径は、手作りの為 統一性がなく、銃毎に 調整する必要があります。
私が教わった方は、銃毎に 複数の弾の鋳型を持っていました。黒色火薬を作るには、硫黄、硝石、木炭の粉が必要です。木炭は木があれば、硫黄は火山があれば入手が可能です。 硝石は、少量ならば便所などの床下や洞窟などに結晶すると言われています。しかし、大量に使うならば、化学的に合成するか、チリ硝石のような鉱床が無ければ入手が困難です。 日本の戦国時代では、大量の硝石が必要になり、それらの殆ど輸入した説が有力でしたが、最近は国内での量産が可能になっていたとの説も出てきました。 いづれにせよ、黒色火薬の生産には、硝石の入手が重要なのです。
私が撃った場合には、これらを乳鉢で擦りましたが、戦国時代は薬研を使ったと思います。
さて、火薬と弾丸も揃ったので、銃を撃ってみましょう。
実際に火縄銃を撃つには、銃身を立て、銃口から装薬(弾丸を発射させる火薬)を入れ、カルカ(槊杖)で突き固めます。その上に弾丸を入れます。
火蓋の部分には、口薬という火薬を入れます。口薬は装薬と同じ黒色火薬ですが、私が教わった流派では、口薬には細かい粉状のもの、装薬には荒い粒状にしたものを使います。荒い粒状にして燃焼速度を遅めにした方が、ガスの力を効率よく使えるようです。 日本の火縄銃では、装薬と口薬は別にするのが一般のようで、入れ物も別のものが用意されています。 西欧の火縄銃では同じ火薬を使うと聞いた事がありますが、詳しくは不明です。
発射する時には、カラクリを起し、火のついた火縄を火縄挟みに取り付けます。
火縄の質が悪いと火の粉が飛び、これが暴発の原因になる事があります。
発射には、火蓋を開け(これが「火蓋を切る」の語源)、照準をします。
引き金を引けば、火縄が火蓋におかれた口薬に点火され、銃身内部の装薬を燃焼させます。
燃焼により大量のガスが発生され、このガスが弾丸を前に向けて高速で発射させます。
ネット小説を読んで、違和感を思えた事をいくつかあげます。
1)火縄銃では精密な射撃は困難
実際に撃つのを見ると判りますが、引き金を引いてから、弾が出るまでタイムラグがあります。 ですから、自分に向かってくる以外は、動いている標的を撃つのは困難です。
同様に、火薬の量は目分量に頼りますし、発射による銃身温度の変化は大きいです。
この為、発射毎に、弾丸の飛距離や、弾道も異なりますので、距離合わせが困難です。
この点が、現代の薬莢のような、すぐに発射、安定した弾道、どちらも期待できません。
それゆえ、精密な狙撃は、希少な名人でもない限り無理です。
2)連射や密集隊形の発射も困難
実際に火縄銃を撃つ場合に、何度も注意されるのは、火の粉による暴発です。
黒色火薬では、発射後に大量の白煙が出て、不完全燃焼した火の粉が飛びます。
この火の粉が曲者で、風向きが悪いと、これが原因で待機中の火縄銃を暴発させます。
火縄銃では、安全装置として火蓋があるのですが、運悪く銃口から火の粉が入れば暴発します。装薬を粒状にするのは、この危険を減らすためと聞いています。私が見た中では、防止の為に銃口に和紙を貼っている人がおりました。
照準し火蓋を切った(開けた)状態では、運悪く火の粉が口薬に入れば、暴発します。
これは、燃え残りの火の粉だけでなく、火縄の質が悪いと自分の火縄から落ちる事もあります。
長篠の合戦で言われる「信長の三段撃ち」の説もありますが、これが密集隊形で三段の銃隊が前後に入れ替わるならば、火縄や火の粉による暴発の危険があります。
また、連射した場合には、白煙により視界が遮られ、よほど風向きに恵まれない限り 連射し続ける事は困難だと、体験から思っています。
小説を書く場合の注意としては、薀蓄を語るならば、徹底的に調べて、可能ならば実射もするか、見る事をお勧めします。 昨今は、戦国ブームで、火縄銃演武を見る事は、それほど困難ではありません。 趣味で火縄銃を撃っている人は、興味を持って聞いてくれる人ならば、喜んで語ってくれると思います。 実射を見て、小説を描く事と、頭の中の知識だけで書く事は違います。 ですから、薀蓄を書くならば、可能な限り調べる事をお勧めします。 または、詳しい事や、薀蓄は、全く語らない事です。 本来の筋が面白ければ、そうした説明は不要です。魔法や、錬金術で、面倒な事を片付けてしまうのも解決方法です。
プロの作家で、転移ものや、架空歴史小説を書いている人でも、実際の火縄銃は撃った事がないだろうと思われる、違和感がある描写をする人がいます。
銃の原理は、強固な銃身の中で、高速のガスを発生させて、その力で弾丸を打ち出す事です。 ですから、面倒な火薬も使わず、中途半端な火縄銃を説明するよりは、魔法や錬金術で済まして、小説の内容に集中した方が、いっそ清々しい気がします。
もし転移もので、チート知識を使えるとすれば、銃床の改善、フリントロック式への移行があります。 日本の火縄銃は、頬付のまま形式が固定化しましたが、肩付けにした方が命中率が上がるように思います。(私の知り合いは、そのように改造して使いやすくなったようです)
フリントロック(火打ち石)の導入は、火縄や火の粉による事故を激減させます。
私は体験しませんでしたが、火縄銃では不発も多いようです。これもフリントロックでは改善されたようです。事故が減るという事は、安全の為の手順が減るので発射速度の向上にもつながります。
さらに進んだ、薬莢による元込め銃、そして連発銃を導入するには、高度な機械加工技術と、雷管の発明が必要です。
もちろん、それだけのチート知識を主人公が持てば可能とは思いますが、機械加工技術の向上には個人だけの力では、時間がかかると思われます。例によって、魔法や錬金術を導入するのは可能ですし、その描写や設定を上手く書くのは作者の力量と思いますし、それに成功されている小説も多くあります。
この記事を読んで、知人に指摘された事があったので、追加です。
信長の先進性や、鉄砲の活用を否定するつもりはありません。
但し、三段撃ちという「やり方の変更だけ」では、勝因にはなりにくい点を言いたかったのです。勝利できる集中的な火力を運用するには、火薬の調達や、それらを戦場まで運ぶロジスティック、多くの人がすでに書いているように野戦陣地を構築して希望する戦場で戦える為の下準備などがあって、勝利につながったのですね。
それを実現したのが、信長と、その配下の武将を含む組織の強さだったと思います。