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序章 そのなな

「ふぅ~外の空気は良いねぇ~ふねの中は何だかんだ言っても息苦しいからなぁ。ま、慣れなんだろうけども」


 ふとドックの外に目をやると、サーシャを含め3名のエルフが、下半身に短パン、上半身に薄いシャツだけの姿で強い日差しの中に立っていた。


「おぉ、サーシャさん。何をして居らっしゃるので?」

「あぁ、ボウヤかぃ?何って食事だよ」

「え?ただ突っ立ってるだけですよね?」

「おや?ボウヤは知らないのかぃ?アタシらエルフは日光を吸収できるのさ。ま、普通に食事も出来るけどね」


 そう言えばエルフは、光合成が可能な人外生物でしたな。

 ザードが威嚇してきたが、サーシャさんに頭を叩かれてる・・・アイツも立場が弱いな・・・。


「日光がかてになるのですか・・・経済的でうらやましい限りです」

「アタシらエルフが浮空艇に乗り込んでる最大の理由がそれさ。多いふねなんざ、半数以上がエルフだったりするよ」 

「・・・もしかして、『草原の小人』が多い理由も経済的な観念で?」

「そうさ、あいつらチッコイ分、食事の量も少ないからねぇ。それでいてエルフほどじゃないが優秀ときたもんだ。そりゃ~普通は雇うだろ?食事の問題は昔から色々考えられてるよ。うちの艇の食料の大半は、ボウヤとターニャとオーガ達の食糧といっても過言じゃないやね」

「オーガの人達は食べそうですもんねぇ・・・」

「それでも普通は、あの規模の艇なら操帆そうはんに十数人を必要とするんだよ?オーガを雇えばたった三人だけだからね。一人一人の食事量は多いかも知れないが長い目で見たら意外と経済的なのさ」


 成る程、確かに長い航海じゃ食事の心配が一番の問題だよな。


「そう言えば、サーシャさんはかなり物知りですよね」

「そりゃそうさ『オーグル』には30年は乗ってるからね。嫌でも色んな事を知る事になるさね。お陰で艇長補佐なんてのも任されてる。アタシはバンバン魔法をぶっ放したいんだがねぇ」


 さ、30年?30年飽きもせずに乗り続けてるのか・・・何がそんなに楽しいのやら?・・・って、甚大な被害を出した副長ってサーシャさんか・・・何やってるんだか。


「え?あの艇、30年も稼働してるんですか?」

「いや、もっと年寄りさ。確か・・・50年は動いてるはずだよ。トルピードクラスの中でもかなりの古参のはずさ」

「うゎお・・・」


 この手のモノの耐用年数は何年なんだろ?中枢さえしっかりしてれば外装が痛んでも交換可能なのかね?

 

「ま、それは良いんだけど、そろそろ出航の時間だろ?艤装ぎそうの最終チェックももう終わるはずだしね。出航前の挨拶とか予定されてたと思うけど?」

「え?そうなのですか?私は初耳ですよ」

「ま、良いさね。細かい所は任せるよ。さて、一度あいつらを艇から出さないとね」

「どうしてですか?」

「アホだね。艇はまだドックに入ったままだろ?そりゃ~そのまま出航する事はやろうと思えば出来るけど、もしぶつけたら格好が悪いじゃないか」

 

 え?そのまま浮き上がり出航!・・・だと思ってたのに、違うんですね・・・。

 

 しばしそのまま待ってると、艇からぞろぞろと皆が降りてきた。

 サーシャさんは『パンパン』と手を打ちつつ手際よく皆を並べていく・・・あの曲者揃いを手玉に取るとは・・・・あなどれないお方だよ。

 そのまま列に並ぼうとすると『アンタはアッチだよ!』と皆の正面に追いやられた・・・皆の視線が痛ひ・・・。


「さ、始めるかね・・・?傾注けいちゅうぅぅぅっ!!」


 おぉ、いきなり軍人っぽい。って、軍人だよな・・・そう言えば、普段のアレな姿からは想像もできないけども。


「今より我らが『オーグル』艇長殿の新任の挨拶があぁ~る!!心して拝聴はいちょう~せよっっ!!」


 そんなに持ち上げられても困るんですが・・・普段の軽いノリで行こうよ・・・。


「あ、あ~・・・今しがた紹介のあった新任の艇長、ヒョーエ・ジンナイです。え~、新任で至らぬ点も多々あると思いますが、宜しくお願い致します」


 シドロモドロになりながら挨拶はしてみたが、サーシャさんは『チッ!無難すぎて面白みがないねぇ・・・』とかボソボソ言っている。


「ま、こんなモノかね?一応は形にはなったかもねぇ。以上!解散!!」


 か、簡単すぎる・・・結局はいい加減なままか・・・貴女あなたに期待した私が間違っていたのでしょうか?

 解散の言葉と共に、ワラワラとドックの作業員と思しき人々が何処からともなく現れ、浮空艇から伸びるロープを手に取り引っぱり始めた。

 力自慢の男達は手伝いに行くようだ。

 力自慢であると思われるが、手伝いに行く素振りも見せないサーシャさんに聞いてみた。


「そう言えば、この船の男女比はどうなってるんですか?やたらと女性比率が高いように思えるのですが」

「あん?そんなの当然だろ?幾ら能力があっても、男だけ女だけってのはムサ苦しいじゃないか。同性のみで構成されたふねなんてゾッとしないね」

「そう言うモノですか・・・?でも、男女の揉め事とか起こったりしないんですか?」

「その場合は艇長または副艇長権限で『去勢罪』ってのを行使できるからね」

「きょ、去勢罪・・・?」

「そうさ、艇長と副艇長がなぜ男女に分かれてるんだと不思議に思わなかったかぃ?オイタをしたら罰する事が出来る様にだよ。ま、恋愛なんざ本人たちが良ければアタシは気にしないけどね」

「そうなんですか?」

「惚れるのは仕方ないだろう?但し、れた場合はその限りじゃないけどね。艇から降りてから腫れるのは良いよ、個人の責任だからね。作戦行動中は慎みなって事さ。戦闘中に産気づいたとか、別の意味で戦場に成っちまうさね」


 くっくっく・・・と、笑いながら言っている。・・・・冗談のつもりなのか?どこまで本気で、どこから冗談なんだ?


「・・・一応聞いて置きますが、誰と誰が女性なのでしょうか?それ次第では距離感を大事にしたいですので」


 プッチンされたくはないからな?


「あれ?一通り挨拶をしたんじゃないのかぃ?」

「・・・・『草原の小人』とか性別分からないですし」

「あいつら凹凸おうとつが無いからねぇ・・・それを聴くって事は、ボウヤはそういう趣味かぃ?」


 そう言う趣味ってどう言う趣味だ?


「いや、私は幼女愛好家ロリコンではないので大丈夫です。ユーリィとユーリスとか私には見分けがつかないですからねぇ」

「あぁ、あいつらはアタシですら見分けつかない時があるよ。たまに口調を入れ替えてからかいやがるし」


 やっぱりアレは日常的にやってたのか・・・ま、双子のお約束だもんな。


「でも、ボウヤほど極悪な仕返しをした事は無いね・・・あれからしばらもだえてたよ・・・可哀想かわいそうに・・・」

「あいつら見た目はアレだけど成人してるはずですよね?潰れないように手加減してあげたんだから文句を言われる筋合いはないと思いますよ?」

「まぁ、確かにミレーヌよりかは年上のはずだよ。この艇の『草原の小人』の中じゃ一番の年長なのは間違いないね」

「イイ歳してイタズラ好きか・・・アレを制御しないといけないのか・・・私の人生、前途多難ですよね・・・・それで、誰と誰が女性なんです?」


 話が脱線しすぎて本来の目的を忘れるとこだった。


「あぁ、そうだね・・・ずアタシだろ?・・・なんだい?その目は?どう見ても女性にしか見えないはずだけど?出る所は出てるし、引っ込む所は引っ込んでる」


 見た目はそうでも中身は男と変わらないでしょ?貴女あなたは。


「まぁ良いさ。『草原の小人』ではポーラ、ミ・・・ミーシャ、ユーリィ辺りかね」

「ふむふむ」

「『猫人ねこひと』のターニャも女性だね」

「え?あの食欲魔人も?」

「食欲魔人?また何かやらかしたのかぃ?」

「危うくツマミ食いの主犯に仕立て上げられるトコでした・・・」

「アイツは常に腹を空かせてるからねぇ。寝てるか食事してるか・・・って位に働かない奴だね。治療士としての腕が確かだから何も言えないんだよねぇ・・・」


 はぁ・・・と、溜息をつきつつ嘆いている。成る程、腕は良いんだな。


「軍の採用官も太鼓判を捺す程の辣腕らつわんでねぇ・・・タンピヤ総合病院から勧誘が来たくらいだなんだよ。当時、オーグルの治療士が引退したばかりでさ、ど~~しても腕の良い治療士が欲しかったんだよ。そして、本人の強い希望で軍医としてこっちに着たから、アタシもありとあらゆるコネを使って引き込んだのは良いんだけど・・・・」

「そこまで酷いのですか?」

「アイツ、見た目だけは知的そうに見えるだろ?アタシもそれに騙されたんだ。本人が軍医を希望したのも『普段は寝て暮らしたい!』・・・とか言う巫山戯ふざけた理由かららしい。普段は暇なのは確かだよ・・・でもねぇ・・・。まさか、今更要らないから返却します・・・とも言えないだろ?本当に頭が痛いよ・・・」


 猫を被ってたんですな・・・『猫人』だけに。ふむ、相当な問題児の様ですな。


「他には女性は誰がいますか?」

「あぁ、そっか。女性が誰かって言う話だったっけね」


 忘れないで下さい。脳まで筋肉ですか?貴女あなたは?・・・直接言うとくびり殺されそうなので言わないですが。


「後はスレイミーだね。『鳥人とりひと』の」

「え?スレイも?オスじゃなかったんだ・・・」

「・・・え?気づかなかったのかぃ?声もスカイマークよりかは甲高いし、身体の線も細いから一目瞭然だろ?」

「・・・何か違うな~とは思いましたけどね。その程度ですよ」


 そうだったのか・・・まさか女性体とは・・・。


「スレイは有能だよ。スカイよりも真面目で仕事も早いし確実だ。主君を求めてるそうだが、アイツのお目に叶う奴は現れるのかねぇ」

「スカイは他人ひとの話とか聞かないですもんねぇ・・・」

「本当にスレイは良い拾い物だったよ」

「拾い物?」


 どういう意味だろ?


「スレイとミレーヌは『空賊くうぞく』に捕まってるのをアタシ達が助けたんだ」

「『空賊』なんて居るんですか?」

「あぁ、大抵は滅亡した国の敗残兵か、帝国や皇国の脱走兵で構成されてるんだが・・・出自が出自だけに侮れない戦力でね。減らしても減らしても居なくならないんだよ」


 『空賊』か・・・作戦中に襲われたくはないな。


「当時は帝国と開戦したばかりでね。哨戒活動中に居るはずのない空域に『空賊』が居てさ。オカシイと思いながら当然アタシらも攻撃を加えたんだが・・・」

「敵として居たんですか?」

「いや、捕虜みたいな扱いだったらしい。なんでも、帝国の攻撃から逃げる途中に火事場泥棒を働きに来た『空賊』に捕まったとか・・・んな事を言ってたね。最初は艇の手伝いとかをやらせてたんだが・・・思いのほか優秀でね。帰投した際に申請書を書いてウチに引き込んだのさ」

「二人一緒にですか?」

「あぁ、そうだよ。スレイは勇敢に物事にあたる性格だし、ミレーヌは『魔法士』としての適性も高く『魔道士』としても優秀でね。今やウチには欠かせないメンバーだね」

「だから『拾い物』ですか・・・」


 ふむ。あの二人も大変な想いをしてたのな。スレイは兎も角、ミレーヌも気に掛けておくかね。


「え~と、女性は15名中6名だね。半々は流石に問題が出るだろうから、このくらいが無難じゃないのかね?」

「そんなものですかね?有り難うございます。色々と参考になりました」

「ま、ボウヤなら特殊な性癖がない限り問題になる事は無いと思うよ。アタシはアタシよりも強い男じゃないと興味ないしね」

「ははは、サーシャさんに惚れると、色々と大変そうですな」


 ま、情報収集としてはこんなものか。


「さて、私も向こうを手伝ってきます」

「あいよ。行ってきな」

「サーシャさんは手伝わないんで?」

「アタシはこ~見えてもカヨワイ女性だよ?力仕事は男連中に任せるさ・・・何だぃ?その目は?」

「イエ、ナンデモナイデス・・・」

 


 誰がカヨワイのだろうか?艇の中でも最強に近い存在と思うのだが・・・。

後少しで船出です。

浮空石とか欲しいなぁ・・・。


2012/09 『改定済み』

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