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新たなる旅路 そのはち

「距離約28000にゃん!敵小2、極小8、少し減ってるみたいにゃん。対して友軍は22!コッチ方面の定数が36だから結構ヤラれてるにゃんっ!」


 タマちゃんの認識距離と範囲は益々冴え渡る。もはや『オーグル』には欠かせない人材に成長した。やはり『獣人族』は成長が早い。


 『ガレアス防空隊』は4艇を1戦闘小隊とし、それを幾つか組み合わせて運用される。1中隊が12艇、1大隊が36艇となる編成だ。それを3大隊で1連隊とし、『要塞都市ガレアス』を中心とした1時から12時の方角へそれぞれ1連隊が配備されて居る。全軍で1300艇程だろうか?それに合わせ、『ガレアス直掩隊ちょくえんたい』が4連隊で1師団とし『ガレアス』の都市部を護って居る。更には各部隊から選ばれた生え抜きの最精鋭で構成された『覇王様親衛隊』が1連隊存在する。数だけで見れば皇国勢力を遥かに凌駕りょうがする規模である。が、それでも帝国には数で大きく劣る。

 しかし、旧式艇に毛が生えた性能とは言え、一応は総ての艇に旋回砲塔を備え付けられてる筈だが・・・それ程に敵の性能は良いって事だろうか?

 敵の数も減ってる為、善戦はしてると思われるが、やはり性能差は覆せないか。幾ら補強してあるとは言え、装甲艦と木造艦との戦いだろうし。元の世界の海戦でも過渡期には、木造艦は一方的にヤラれてたみたいだしなぁ、コレばかりは致し方ない。


「機関室減速開始!各員対空戦闘準備ぃっ!『オーグル』の制空戦闘能力を戦場に居る総ての者に魅せつけてやれ!」

「「「応っ!」」

「「「「「あいさ~」」」」

「うぉっしゃ~っ!」

「あいよ~っ!」


 ・・・うぬぅ・・・この辺りの返答は統一すべきか?等と思ってしまう位にバラバラだ。ま、まぁ、戦闘力さえ維持出来れば関与しなくても良いのかもね。


主殿あるじどのそれがし如何いかがいたすのでござろうか?」


 こう聞いて来るのは、最早もはや俺の右腕となったスレイだ。指揮所にて敵の艇種と数や方角を見極めるべく待機して貰ってる。直情径行なタイプの多い『鳥人とりひと』には珍しく、思慮深く成長した。・・・え?俺が不甲斐無いから成長しただけだって?あ、いや・・・そんな事は無いと思いたい。


「敵の偵察部隊程度に最新鋭艇を披露するのは躊躇ためらわれるな。今回は申し訳ないが待機しててくれ」

うけたまわったでござる」


 少し残念そうに見えるのは気のせいでは無いだろう。空を飛ぶのが『鳥人』の本分だしな。


「距離約12000にゃん!」


 タマちゃんが敵との距離を報告する。

 最高速から減速しつつ在るとは言え、まだかなりの速度が出ている。しかし、『鳥人』は兎も角、敵を視認出来る距離では無い。


「距離約8000にゃん!」

「うぬ?見えたでござる!」


 タマちゃんとスレイの言葉が重なる。


「確かに速いでござる。速度差は第一世代の1.4倍ほどでござろうか?防空隊が翻弄されてるでござる」


 1.4倍となれば、第一世代では速度じゃまったかなわないか。確かにどんなカラクリだ?


「対空手、法擊準備開始!各員の判断で攻撃開始をしろ!復唱は要らん、訓練の成果を見せてやれっ!」

「距離約4000にゃん」


 この辺りまで近づくと、俺の目にも見え始めた。森林部に大破着底した艇が結構な数に上って居る。防空隊の艇体には穴が開いている艇が多数有り、敵の主武装は『岩石弾ロックバレット』の様だ。確かに木造艇にはこれ以上無く有効だ。基本戦術はこっちが帝国にして行なったのと同じく、高速で飛来し、擦れ違いざまに叩き込むと言う戦術をとって居る。速度が速い為、こちらの攻撃はまぐれ当たりでもなければかすりもしない。


「ポーラっ!機関室との連携を密にし最適な位置へ艇を持っていけ!!」

「あいさ~」

「各員、固定ベルトは外すなよ?吹っ飛ばされるぞ!」


 これから行われるであろう機動に対して、俺は各種の強化魔法を更に追いがけして行く。戦闘中に効果時間が切れたら目も当てられんからな。俺はひ弱で脆弱だ。アッサリと死んでしまう自信があるぞ。


 高速艇との戦闘は今回が初めてだ・・・訓練はしてきたが、どの様になるかは未知数だな。


「ユーリス!防空隊との連絡は取れるか?」

「既にやっていますわ。ですが応答無しですわ」


 うぬぅ、どうした事か。


「っ!?繋がりましたわ!そちらに繋ぎますわ!」


 ようやくか。戦況も思わしくないし、致し方ない所かね?


「当方は第4防空隊第2中隊長クラウスと申します。大隊長戦死の為、指揮を引き継ぎました」


 ありゃりゃ・・・あのオッチャンやられちまったか・・・。


「戦況は?」


 俺は簡潔な説明を求める。


「敵の中型艇1と極小型艇2は仕留めましたが、極小型艇に翻弄されています。名高き『オーグル』の救援、誠に感謝致します」

「おうよっ!あとは任せて後方に下がりな!油断はするなよ!?」

「えぇ、私もこのような場所で死ぬのは本望ではありません。それでは後方支援に移行致します」


 思ったよりも良くない状況だな。


「各員、聴いて居たか!?これより『オーグル』は敵の矢面に立つ!フェルっ!法擊準備は整ってるかっっ!?」


 が、俺の言葉にフェルは反応しない。


「フェルっ!聞いてるのかっ!?」


 再度呼びかけるも反応は無い。


「クソッ!どうしたんだっ?」


 俺は素早く固定ベルトを外すと、指揮所の各所に張り巡らされたパイプに安全帯を結びつけ、フェルの元へと向かう。


「フェルっ!聞いてるのかっ!」


 フェルの肩をつかみ顔を覗き込む。

 フェルは虚空を濁った目で見つつ、口の端からよだれを垂らしながら何やらモゴモゴとつぶやいて居た。


「・・・レ・・・レ・・・レアチー・・・ズ・・・・・・ちゃ・・・ん・・・」


 クッ!なんの禁断症状だよっ!?アレか?材料にエルフにとって麻薬や中毒症状を引き起こす物質でも混ざってるのか?


「しっかりしろ!」


 バチンとフェルの頬を張るが、ビクともしない。


「ダメだ・・・腐ってやがる・・・」


 クソッ!フェルが戦力として計上出来ないと、メッチャ苦しいぞ?

 その間に敵と交戦が始まったらしく、『オーグル』は上下左右に振り回され始める。

 その時、背中に何やら硬いモノがぶつかって来た。確認すると、フェルが大事そうに背負って着たバックパックだ。


「そうか!まだ残ってるかも知れん」


 バックパックを開くと、ヒンヤリとした空気が中より漂って来た。どうやら保冷系の魔法陣が仕掛けられてる様だ。中を覗くと、多少形が崩れてるものの、幾つかのレアチーズの姿が見えた。

 パクリと一口食べてみるが、俺には何ら異常は起こらない。

 俺の食い掛けだが、まぁ問題ないだろう。フェルの口を強引に開くと、中にレアチーズを押し込む。


「ふぉぉぉぉぉぉぉっっ!!この味、この舌触りこそがレアチーズちゃんよっ!あれ?テイチョ~?どうしたんスか?」


 良かった・・・何とか再起動した様だ。


「お前、いつからこんな感じになってる?」

「こんな感じとはなんスか?」


 フェルに自覚症状は無いみたいだな。しっかし、一度調べてみないとならないようだな・・・メンドくせぇなぁ・・・。


「動くなら問題ない。フェル!法擊準備だ。レアチーズはここに置いておく。しっかりやれよ?」

「・・・ん?了解っス・・・?」


 自分の席へ戻ろうとした瞬間に、船が大きく下降する。その勢いで危うく天井に叩きつけられそうになる。安全帯がなければ今頃は重傷を負ってたかも知れないと、一人ヒヤリとする。

 何とか辿り着き、状況を把握する。


「各員、何か問題はあるか!?」


 伝声管に叫ぶと、先ほど離れた場所、フェルの法擊手席から声が上がった。


「テイチョ~大変っス!」

「今度は何だ!?」


 マジで何なんだ!?


「ベルトがキツいっス。もう少し緩くならないっスかねぇ?」


 この腐れデブが!


「耐えろ」

「え?ちょ、それだけっスか?」


 他にもギャーギャーわめいてるが、えて無視をする。


「タマちゃん、敵をどれだけ減らしたか?」


 あれだけの時間があったんだ、流石に数艇は落してる事だろう。


「敵の数は変わってないにゃん。こっちの攻撃はことごとく外れてるにゃん!」


 そんな馬鹿な話があるか!・・・と、敵の姿を目で追ってみる。こっちの魔法弾は敵の姿を追っていて、僅かに間に合わず外れて居た。

 コイツ等、狙えば当たる戦いに慣れすぎて、俺の教えを忘れてやがるな。


「この馬鹿野郎ども!敵の姿を追うんじゃない!敵の到達予想箇所を見極めて弾を敵の通り道に置く様に法擊するんだ!もう忘れたってのかっ!?」


 高速で動く敵に対して直接照準じゃ追いきれないのは当然だ。敵が弾幕に飛び込むように調整すれば、どんな高速艇だろうが落とす事が可能だ。見越し射撃や偏差射撃と言う奴だな。


 俺の罵声と共に、漸く至近弾が出始め、敵の高速艇に命中弾が出始める。

 しかし、何だろうな、この速度は。この道の専門家であるミレーヌに意見を求めてみた。


「機関室!ミレーヌは居るか?」

「ん?何?ジンちゃん」

「敵の速度の秘密はなんだと思う?」


 少しの間を置いて返答が返って来た。


「ん~あの速度は『シュトルム機関』じゃ無さそうだよね・・・どちかと言えば『トルネー機関』の方じゃないかなぁ?」


 やはりミレーヌもそう思うか・・・。


「しかし『トルネー機関』を推進装置にしたら、制御の問題が出てこないか?」

「ん~そこは気合と根性じゃないかな?『グングニール隊』クラスの腕があれば行けるとは思う。並の人間じゃ扱えないのは間違いないとは思うけど・・・」


 やはり人の数はそれだけちからだな。それだけ多種多様な能力者が居るって事だからな。

 その時、艇が大きく横にズレ、敵の至近弾と思われる巨大な岩石弾がスレスレをかすめ飛んで行く。


「あ~ジンちゃんゴメン。僕が抜けると制御が間に合わないみたい」

「了解。貴重な意見アリガトな。助かったよ」

「あいよ~。んじゃ、制御に戻るね~」


 ミレーヌが戻ると『オーグル』は格段に安定する。

 ふっと外部モニターに目を向けると、爆砕された敵極小型艇が墜落して行く姿が見えた。


「やった~っ!初撃墜はボクが一番乗りだねッ!」


 この声はサーガッタスか・・・。性格さえ何とかなれば、腕はピカイチなんだがなぁ・・・。実に残念な事だ。

 しかし、『オーグル』は十分対空戦闘がこなせる事が判明したな。いや~正直不安だったんだよな・・・企画設計した俺が言うのもアレだけれども。

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