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新たなる旅路 そのなな

 我がオーグルは、敵の元へこれ以上無く急いで居た。

 ・・・が、中々に追いつかない。

 それと言うのも、最大の要因は皇国空賊連合軍の浮空艇の目覚しい速度の上昇化にあるのだが・・・。その為、警戒網の大外は『要塞都市ガレアス』よりも500キラムは離れてり、速度の高い『空翔艇くうしょうてい』と言えども中々行き着く事は出来ない。

 空賊も一部の廃艇寸前の旧型浮空艇以外は、『シュトゥルム機関』への換装を終えた艇ばかりである。その為、『オーグル』程ではないにせよ、その速度はあなどれない。相対的な速度に差が無い為、中々に追いつく事が出来ないと言う現象になってると言う訳だ。


 浮空艇の空翔艇化への技術供与は、初期の頃は弊害へいがいしか生み出さなかった。それと言うのも『空賊』達は、基本的に脳筋が大多数を占め、チマチマした改造よりも魔改造を好む輩が多く居た為である。普通の帆船の域を出ない形状の『浮空艇』に限界突破的な速度を与えるとどうなるかは・・・して知るべし・・・と、言った所だろうか?航空力学や空気力学を考慮せず速度上昇を行うと、艇体の先端から生じる衝撃波により、艇体が損傷、又は大破、又は破砕・・・等の現象が見られ、搭乗員は負傷から死亡までその被害は多岐に及ぶ。一応そうならないように説明をしたのだが、受け入れられなかった結果である。今ではその分野の研究も進み、現段階ではそんな魔改造を行うアフォ共は殆ど居ない。・・・わずかでも居るのが頭の痛い所ではあるが。

 『空賊』も脳筋ばかりではなく、一部の知的階級者 (主に政治犯や思想犯)の研究により、『空翔艇』の形状は、所謂いわゆる砲弾型が望ましいとの結論が出て居る。が、未だ設計段階であり、実用化へは暫く掛かりそうだ。それでも艇先付近に金属で補強したりの改造を行なって居る。限界まで速度を出したいと言う気持ちは判らなくもないが、無理は止めて頂きたいモノではある。


 俺は耐え切れなくなり、『空賊』への発念を命じた。


「ユーリス、空賊へ通信は繋がるか?」

「やってみますわ」


 暫く待ってると、入念が有ったようだ。


「繋がりましたわ!でも、少々まずい状況の様ですわっ!指揮所に繋ぎますわ!」


 『指揮所に繋ぐ』とは、通信を直接に指揮所で聞き取れる様にしたモノで、前回の戦い後に導入した新機構だ。通信員との遣り取りではタイムラグが生じ、適切な判断を見誤る時がある。その為、非常時には直接対話が可能なようにした。え?それなら通信員は要らないじゃんって?すべての通信の受け答えは面倒じゃん。やらなくて良い事なら他人に任せるさ。


「こちら第一機動艇団所属、飛翔艇『オーグル』だ!貴艇は?」


 指揮所の通信機器は天井付近の魔法陣を介してやり取りされる。その為、少し大声を出さないと成らないのが難点だな。

 こちらの問に、少し濁声だみごえっぽい男から返信が有った。


「おぅっ!オレっちは『ガレアス守備隊』第四防空隊隊長 スラムラってもんだ。今は帝国の奴らと交戦中だっ!クソッタレッ!『グランマ』がやられやがったっ!!」


 うげっ!既に交戦中じゃないか。


「敵の状況は!?」


 『空賊』はフリーダム過ぎてイカンな。まずは状況報告が先決だろうに。


「クッソぇ~『飛翔艇ひしょうてい』モドキに好き勝手にヤラれてる!ありゃ~『飛翔艇』よりも速ぇ~ぞっ!どういうカラクリだってんだ!撃てっ、なんとしても叩き落せっ!」


 『ガレアス守備隊』の『飛翔艇』は第一世代であるため、確かに最新鋭の『飛翔艇』よりかは遅い。だが、そこまでの速度差があるとは思えないのだが・・・。なんにせよ、この目で確かめない事にはどうにも成らんな。


「了解。直ぐに急行する。そちらの現在位置は?」

「あぁっ!?現在位置だとっ!?ちょっと待て!」


 ガレアスを防衛するに辺り、周辺の地図をマス目に区切り、X軸とY軸に記号を割り振り、現在位置を割り出せるようにしてある。戦闘で現在位置を見失うとアレだが、皇国の『空翔艇』には、総てに生体レーダーとも言うべき、タマちゃんの様な人間が乗り込んで居る。近くにさえいければ問題ない。


「あ~現在位置は・・・Pの24辺りじゃないか?ぶっちゃけ、良く判らねぇっ!」

「了解!その辺りだな。直ぐに急行する!」

「クッソ!このままヤラれっぱなしじゃ~腹の虫が収まらねぇ!お前らが来る前に全滅させてやんよっ!」


 それは死亡フラグか?俺達が到着する前に全滅とかするなよな?・・・と、言いたいが、何やら怖そう相手なので『了解』とだけ応えておく。

 ふぅ、仕方ない。最大戦速で行くしか無いか?


「各員!状況は聞いたな?」


 指揮所での他艇との遣り取りは、伝声管を通して艇の各所に伝わる様に成って居る。


「敵の新型の性能も興味あるが、『空賊』たちが良い様にヤラれてる!ここで気張れば目立てる・・・じゃねぇ、友軍のピンチだ!各員、最大戦速で現場に急行する!」


 俺の言葉に、皆が固定ベルトを身体に装着して行く。


「テイチョ~っ!緊急事態っスッ!」


 その言葉はフェルからだ。


「お前の体型以外に緊急事態があるかってぇ~の!?んで、何だ?」

「オイラの固定ベルトが短くなってるっス!誰っスか?こんなイタズラをしたのは!?」


 フェルの方を見てみると、窮屈な座席に身を押しこみ、長さの足らなくなったベルトを『くぬ~』等と声を張りつつ力一杯に引っ張ってる肥満体の姿が目に飛び込んできた。


「イタズラなんかじゃねぇよっ!お前が太り過ぎただけだ!!」

「え~オイラは太ってなんか居ないっスよ~。少しポッチャリしただけっスよ~」

「あ~クソッ!誰かロープを持って来いっ!いや、俺が取りに行くっ!」


 そう声を張り上げると、資材置き場へと向かいロープを持ち出してきた。

 ブヨブヨのフェルの身体を、ロープで長さの足らないベルトを繋ぎ合わせ座席へと固定する。


「ちょっ!イタッ!イタイっス!」

「うるせぇっ!ちっとは痩せやがれ!」

「ポッチャリしただけっスよ~。あ、そこのバックパックを手元に持ってきて下さいっス」


 俺はフェルの要請を無視して自席へと戻る。フェルが何やら『レアチーズちゃんがないと死んでしまう~っス~っ!』等と叫んでいるが聴こえないフリをする。


「良し!各員、準備出来たな!?機関室!『オーグル』最大戦速!目標P-24!」

「あいさ~」


 いつも通りの急加速で、『オーグル』は戦場へと赴くのであった。

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