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新たなる旅路 そのろく

「カンカーン!カーン!」「カンカーン!カーン!」「カンカーン!カーン!」


 そんな鐘の音が『浮空都市ガレアス』に鳴り響いたのは、夜も明け切らんとする時刻、太陽も昇りきらない明朝の事であった。

 『オーグル』の狭い自室で惰眠だみんむさぼってた俺は、勢い良く飛び起きたお陰で、寝台から転げ落ちて居た。


「うぉぉぉぉぉっ!ここは何処だ!?一体何だっ!!」


 再度、9回の鐘の音が鳴らされる。


「3回の三点鐘さんてんしょう・・・非常呼集かっ!?」


 状況を把握する為、指揮所へ向かう。今が戦闘状態では無いとは言え、戦時には違いない。その為、『オーグル』には常に数人が当直に着いて居り、今日も夜勤組が指揮所にて待機してるはずだ。え?俺?指揮官であるからして、自発的に『オーグル』に寝泊まりしてるな。宿代を浮かす為・・・なんかじゃ無いんだからね!


「状況はどうなってる!?」


 そこに居たのは、寝惚ねぼまなこを擦りつつ、発念装置に取り付いて居る『大地の小人』トルフィー・アームアーツの姿があった。・・・真逆まさか、居眠りしてたんじゃないだろうな?


「おぅ!艇長!どうやら敵の襲撃の様じゃぞ!」

「数は?」

「今確認中じゃ、しばし待っとれ。慌てる鍛冶師は駄作しか産み出さんぞぃ」


 何か、格言みたいなのが来たな・・・コレさえ無ければ良いオッチャンなのに。


「確認したわぃ。敵の数は中型1、小型3。極小型10らしい」

「極小型?」

「どれも新型で、今迄いままでとは在り得ない速度じゃそうじゃ」


 新型か・・・先の戦いでこちらの装備が分析されたって事だな。まぁ、この辺りは想定内だ・・・数からして強行偵察か威力偵察と言った所か、後詰に注意だな。

 


「友軍の集結状況は?」


 状況を確認してみるも、『オーグル』でさえ俺を含めて数人だもんなぁ・・・精々20~30%位だろうな。


「ガレアス守備隊は7割が集結済みらしいぞ。皇国は5割じゃ・・・『空賊』どもは身が軽いのぉ」


 この会話の間にも、3回の三点鐘は繰り返されて居る。

 この辺りに来て、『オーグル』が泊めて在る皇国用駐艇場が騒がしくなって着た。


「敵襲だって!?ようやく暴れられるんだね!クソッ!コイツを待ってたんだよっ!」


 うむ。非待機組では、サーガッタスが一番乗りか・・・全く、コイツは相変わらずの戦闘狂バトルジャンキーだぜ。


「早く行こうよ!早く早く早く早く早く早くっ!たっ!!!!」


 サーガッタスの頭を軽くはたいて言動を止めさせる。


「痛いよっ!」

「軽くなんだから痛くはないだろう?未だ乗組員クルーが揃って居ない。それとも何か?お前さんが機関室要員として艇を動かすか?」

「ちょっ!じょ~だんっ!それじゃ戦えなくなるじゃん!」

「だからもう少し待てって、出撃は皆が揃ってからだ」

「ぶ~~っ!なんでんなはこんなに遅いのさ。軍人としての自覚が足らないんじゃないの?皆~んな馘首くびだよ馘首!」

「お前が言うな」

「なんでさっ!ボクは戦闘じゃ一番頼りになるでしょ?」

「・・・苦情が沢山着てるぞ。お前宛てにな。例えばコレだが『貴艇の所のサーガッタス・ウルフゲインを極刑に!あのガキャァ!また俺の店の食材をちょろまかしやがったっ!今度見かけたらアイツを食材にしてやるっ!』だとか『ううう・・・また・・・またあの人にお風呂場を覗かれました・・・イッソの事、あ奴の眼を潰して下さい!お願い致しますっ!』だとか着てるぞ」

「・・・あはははは、若気の至りって事で・・・」

「若気の至りって言うが、俺とお前は同い年だ!それにだ、食い物の恨みは恐ろしいぞ!それに覗きなんてなんてうらやま・・・じゃねぇ、なんてトンデモナイ事を!」

「・・・テイチョーも一緒に行く?」

「俺は未だ死にたくないから遠慮して置く。お前は素早いから良いが、俺なら間違い無く捕まる自信があるぞ」

「あはははは、だよね~」

「だよね~。じゃねぇよっ!苦情処理する俺の身にもなれってんだ!ただでさえ『オーグル』は問題を起こす奴ばかりだってのに・・・お前はその中でも別格だ!その都度つど、料理やら菓子やら振る舞う羽目になってるんだぞ!しかも、自腹でだっ!!」

「そんなに褒められても何も出ないよ~」

「褒めとらん!」

「そんなにカリカリすると禿げるよ~」

「じゃかましいっ!禿げは遺伝するらしいから、俺もいずれは禿げるわぃっ!ほっとけっ!」

「なら良いじゃん」

「良くねぇよっ!」


 こんなアフォな会話の最中にも『オーグル』の乗組員は次々に到着し、俺達の遣り取りを眺めて居る。周囲を見渡せば、準備を終えた艇が続々と空へ舞い上がって行く。


「うちはまだ揃わないのか・・・?残りは誰だ?」


 定位置に着いたユーリスが、手元のチェック表に記入しつつ応えてくれた。


「ん~後はラクールさんとフェルーナンさんですわ」

「あの二人か・・・あの二人も問題児だよなぁ・・・全く、なんでうちはこんなヤツばかりなんだか・・・」

「能力で選ぶからですわ。高い能力保持者には問題児が多いって統計が出て居ますわ」

「それには、お前さんも含まれてるんだが・・・?」

「あら、嫌ですわ。私の何処が問題なのかしら?こんなに真面目で有能ですのに酷い評価ですわ」

「『草原の小人』は総じてイタズラ好きだろ?それだけで問題じゃないか?ミレーヌやポーラはそんな事は無いのだが・・・」

「それは、私達の存在意義に関わる問題ですわ。イタズラの無い『草原の小人』は『草原の小人』ではないですわ。そう言えば、お二人は浮空島育ちだとか・・・その辺りが要因だと思いますわ」

「生まれや育ちなんざどうでも良い。問題を起こすな!とは言わんが、ひかえてくれ・・・」

「え~控えてるよ~こう見えてボクも軍人なんだし」

「そうですわ。艇長ったら酷いですわ」

「「ね~」」


 クッ!こう言う時の『草原の小人』のシンクロ率は恐ろしいな・・・双方が反対側に同時に首を倒しながら『ね~』って言うのは反則だろ!恐ろしく可愛いじゃねぇかっ!



「『ね~』っじゃねぇよ・・・」

 

 力なく反論するも、その効力は限りなく無さそうである。


「あ、テイチョー、二人とおぼしき反応が来たにゃん」


 何時の間にか『艇長』では無く『テイチョー』と言う呼び方が定着しつつ在る・・・ったく、俺の威厳は何処へ行ったのやら・・・。


「漸く来たか。機関室!動力始動準備は出来てるか?」

「あったりまえじゃないっ!何かとにぶいジンちゃんと一緒にしないでよねっ!」


 皆の俺へのあつかいが段々と酷くなるな・・・。クッ!俺が一体何をしたと言うんだ!

 その時、入り口にラクールの姿が見えた。その手には、何やらロープらしきモノが握られて居る。


おせぇぞ!ラクールっ!皆んな待ってるんだぞ!」


 俺のキツイ言葉に、いつもなら反論するラクールが、反論して来ない。その態度にいぶかしんでると、ラクールが口を開いた。


「いや、その・・・俺様は急いだんだぜ?だがよぉ・・・なんつ~か・・・」


 と、妙に歯切りが悪い。


「お前は良いとしてフェルはどうしたんだ?一緒じゃないのか?」


 タマは二人と言い切ったしなぁ。姿が見えないのは可怪おかしい。


「いや、それなんだがよぉ・・・まぁ、見てくれた方が早いか・・・。おいっ!フェルッ!早く来いってんだっ・・・よっと!」


 と、何やら手元のロープを手繰り始めた。その先には、何やら丸っこい人影へと繋がって居る様だ。


「イタイイタイッ!ラクッ、もう少しお手柔らかにっスッ!」


 その姿を見た指揮所のメンバーの目が真ん丸に見開かれ、あごが落ちんばかりに開かれて居る。


「お・・・おま・・・誰・・・だ?」


 いや、真逆・・・なぁ・・・。


「テイチョー、それは酷いっスよ~。オイラっス。フェルーナンっスよ~」


 声も少しクグモッた感じだが、確かにフェルそっくりの・・・お相撲さん体型の、巨大な金属の箱を背負い緑の肌をしたエルフの姿がソコには在った。


「ちょっ、おまっ!何だ?そのスットコドッコイな体型は!?一体全体、お前に何があったんだっ!?」


 驚愕きょうがくの余りに叫んでしまったが、それは無理も無いとは思わないかね?


「スットコ・・・なんスか?確かにちょっとポッチャリしたっスけど、いつもと変わらぬフェルーナンっスよ~」

「何処がちょっとだっ!真ん丸じゃないかっ!それに『スネックヘッド』はどうしたよ!?ボサボサの頭をしやがってっ!」


 そうなのだ。アレ程にこだわってた『スネックヘッド』では無いのだ。元々の長髪をボサッとさせた、寝ぐせヘアーと言うべきモノに変貌へんぼうげて居た。


「え~!?あの髪型は維持するのにお金がかかるっス。今はそんなモノにお金を掛けたくは無いっス!」

「な・・・何がお前をそこまで変えたのだ・・・?」


 いや、マジに。


「ぐふふふふ、良くぞ聞いてくれました。オイラは今、『レアチーズちゃん』のとりこっス。これさえ有れば、他には何も要らないっス」


 そう言いつつ、背後に背負った金属箱を『どっこぃせっ!』と降ろすと、何やら中からケーキの様なモノを取り出して来た。直径は20サンチ程も有ろうか? 


「オイラは『レアチーズちゃん』だけで良いっしゅ・・・良いっス」


 カミやがったが、そこは言い直さなくても良い!笑い声まで変になりやがって・・・あのスリムなナイスガイは何処へ行ったんだ!?


「ラクールゥゥゥゥゥッッ!!アレはどうした事だぁっ!!」


 フェルを指差しながら叫んだ。指さされたフェルは、ケーキに頬擦ほおずりをするかのごとく、『ぐひひひひ』と笑いつつ、ウットリとしながらもよどんだ目でケーキを眺めて居る。ツイツイ声を荒げてしまったが、アレを見てしまったならそれも致し方無いとは思わんかね?


「お、おおお俺様も知らねぇよっ!むしろ俺様が聞きたいねぇ!お前があの店に連れ込んだんだろぅがよぉっ!?」

「あの店・・・?なんのこ・・・っ!?真逆、あの時かっ!!」

「あぁ、俺様を無視しやがったあの時だ!」

「いや、真逆・・・そんな・・・でも、確かに・・・あ~~~~っっ!!」


 つい混乱して頭をむしったが・・・それも致し方無いとは思わんかね?


「まぁ、最初から変な奴が変態になった所であたちは構わないのね。それよりもテイチョーさん?あんな変態の事はどうでも良いとして、早く出撃ちゅつげきちなくても良いのかちら?緊急事態ではないのかちら?テイチョーさんも変態のお仲間かちら?あぁ、それは最初さいちょからでちたわね。あたちとちた事が失念ちつねんちてたのね」

「う、うぐぅ・・・相変わらず心にひびくぜぇ・・・」


 ポーラの心をえぐる様な言葉に我に返る事が出来た。うむ、今は出撃ちゅつげきをちなければ。


「機関室!動力始動!他の艇に追随ついずいするぞ!」

「あいさ~!・・・って、何があったのさ?何か叫んでたけども」

「この出撃が終わったら・・・な。今は目の前に集中・・・うむ、集中しなければな」


 良し、取り敢えずはアレの事は忘れよう。今は敵の意図を探らないとな。


「良し!『オーグル』出撃!ポーラ!目標、敵新型浮空艇!タマ!敵の探知を頼むぞ!」

「あいさ~!」

「了解にゃん」


 こうして、不安要素を抱えたまま、『オーグル』は飛び立ったのであった。

前回、フェルーナンに『脂肪しぼうフラグ』が立ちました。

その為、プンプクリンのパッツンパッツンな男性にクラスチェンジしました。

いや、まぁ、アレですな『過ぎたるは及ばざるが如し』


実は筆者も、小さな人魚製の『ベイクドチーズタルト』で似たような経験が・・・。未だ大丈夫未だ大丈夫と毎日食べてたら・・・大変な事に!(笑

まぁ、10数年前の事なので今は平常運行ですけども。

皆さんも、食べ過ぎには注意いたしましょう。

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