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新たなる旅路 そのよん

初の予約投稿。誤字脱字は帰宅してから見直しますので、ご容赦下さいませ。

 今現在、街の視察・・・もとい、散歩を楽しんでるところである。まぁ、更に言うなら散歩と言うよりも、この世界で初めてとなる『甘味処』が開店したと言う事で、『料理長』としての俺に招待状が届けられて居た。そして、その店に向かう途中である。面子メンツは、俺とミレーヌとスレイ、そしておまけのフェルである。いつものメンバーと言えばメンバーだが、フェルが付き添いと言うかくっついて来てるのは『スネックヘッド』の普及具合を自慢したいが為・・・らしい。

 世の中、中々におかしな所があり、あの珍妙奇天烈ちんみょうきてれつな髪型が、この『要塞都市ガレアス』で異常な程の人気を博して居るんだとか。

 その立役者となったのは、当然のごとく『飛翔士ひしょうし』達であり、まかり間違ってもフェルのお手柄ではない。

 『飛翔士』達は、薄い装甲に身を包み、蒼空そうくうを自由に駆け、我が身をもって帝国を蹴散らした勇壮無比ゆうそうむひ強者つわものとして、この『要塞都市ガレアス』の市民は認識して居る。その彼等の髪型を真似るのは、『飛翔士』に憧憬どうけいに近い感情を抱く彼等にとって至極しごく当然な流れなのだろう。

 そして、そのオリジナルたるフェルーナンは鼻息も荒く、意気衝天いきしょうてんな感じだ。


「見てくだせぇっ!この夢の様な光景を!」


 まぁ、俺からしたら『見てくれダセェ!この悪夢の様な光景は!』なんだがな・・・。


「・・・ああ、うん、そうだね・・・」

「・・・何と言うか・・・凄いでござるな・・・」


 ミレーヌもスレイも心なしか表情がうつろな様な気もする。 


「凄いでしょうっ!あぁ・・・オイラの夢がまた一つかないやしたぜ・・・」


 空を仰ぎつつ、大袈裟な身振りで何かしらの存在に祈りを捧げて居るかの様にも見える。コイツ、一体何を信仰してるのやら・・・。


 ま、正直、どうでも良い夢だがなぁ・・・。

 他にどんな夢があるのか聞くか聞くまいか悩んで居ると、目的地とおぼしき店の前で、何やら揉めている集団があった。


「ん?何処かで見た様な奴が居るなぁ・・・」


 俺の言葉にミレーヌとスレイが反応しその姿を確認する。フェルは未だに空を仰いだままだ。


「あれは・・・ラクール殿・・・でござろうか?」


 うん、確かに俺の目にもあの馬鹿の姿が良く見える。無駄に筋肉質な上半身を薄いシャツで覆い、筋肉美を周囲にアピールして居る暑苦しい『虎人とらひと』の姿がっ!


「あの馬鹿、何やってんだ?」


 そのラクールは、取り巻きと思われる、やたらとスタイルの良い同じ『虎人』の女性を3人ばかり周囲にはべらし、店員らしき者にくって掛かって居る姿・・・にしか見えないのだが。しかし、スタイルの良い女性体の獣耳か・・・アレをモフると間違い無く犯罪だよなぁ・・・。


「馬鹿ってのは酷い評価だけど、本当に何をやってるんだろ?」


 近づくにつれ、会話が段々と聞こえて着た。


「こぉの英雄たるラクゥ~ル様が着てやったっってぇ~のにっ!門前払いたぁ~どう言う事だってぇ~のぉっ!?ヤハッ!」

「えぇ、ですから、今日は特別なお客様が居らっしゃる予定ですので、終日貸しきりなのですよ・・・」

「あぁ~ん、俺様以上の特別な客がぁ、この街にぃ、いやさ~、この世界にぃ存在する訳がぁ~無いだろうがよぉ~おほっ?」


 うん、はたから見ても、完全無欠に不審人物だ。元の世界なら存在するだけで通報レベルだな。


「この『要塞都市ガレアス』は勿論の事、私達、料理人にとっても大恩有る御方なのですよ・・・」

「俺様がぁ、あの『空翔艇くうしょうてい』たる『オーグル』のぉ、主法撃手にして『オーグル』唯一の『飛翔艇ひしょうてい』載り、ラク~ル・シャァインブレ~ス様だって知っててぇのぉ狼藉ろうぜきかぃ?」


 何やらぶっ飛んだ発言をしてるな・・・あの馬鹿めは。


「おぃ、フェル?」

「テイチョー、何です?」

「お前さん、何時いつ、ラクールのアフォに主法撃手の座を譲ったんだ?」

「え?知らないですよ?」

「あそこのアフォはそう主張してるみたいだが?」

「・・・まぁ、ラクールの言う事ですからねぇ・・・」

「お前さん達、仲が良かったよな?」

「えぇ・・・まぁ・・・」

「スレイも知らんよな?」

それがしも身に覚えが無いでござる。主殿が命じない限り、『飛翔士』としてのにんは解かれないでござるよ」

「まぁ、そうだよなぁ~。やはり、アフォは何処まで行ってもアフォだよなぁ~」


 その当人は、更に言葉をにごす店員の胸倉を掴み挙げ始めた。

 あ~そろそろ止めないと不味まずいかもなぁ。


「あ~そこのアフォな獣人、自警団を呼ばれたくなければその手を離すんだ!」


 うん、実に無難な声掛けだ。


「あぁ~ん、このぉ偉大なぁるラク~ル様を~アフォ呼ばわりした上にぃ脅迫する不届きぃ者ぉは・・・だ・・・れ・・・」


 俺の姿を見るなり、今までの威勢は何処へやら、語尾が尻すぼみになって行く。


「よぉ、ラクール、楽しそうだな?何をやってるんだ?」


 俺は片手を挙げながら軽く挨拶をする。


「ぐ、お・・・を・・・?」


 明らかに狼狽ろうばいして居る様だ。そして、俺の隣に居るスレイやフェルを見て狼狽っぷりが更に加速する。


「うぇ・・・フェ・・・ル・・・スレイ・・・ミー・・・?」

「やぁ・・・」

「・・・・・・」


 何とも言い様のない表情のフェルと、魂まで凍り付きそうな冷ややかな視線のスレイに見られ、ラクールは完全に硬直して居る。

 取り巻きの『虎人』の女性達は『どうしたのラク?良いからやっちゃいなよ!』だとか『いつもの威勢は何処へ行ったの?ねぇ、ラクってばぁ~』等と言ってたりする。ラクールにもたれ掛かりつつ言葉を放つ度に、スタイルの良い身体がプルプルと揺れて居る。ウム、まったもってケシカラン獣耳だ!ケシカラン、ケシカランぞ~っ!

 その頭と胴体とお尻で揺れ動く物体に目を奪われて居ると、突然足の甲に激痛が走った。


「ギャポレッ!イタタタッ!一体何事だ!?」


 自分の足元を見てみると、ミレーヌが力一杯に踏み付け、グリグリと脚を押し付けて居る所が目に入った。


「ど、ど、ど、どうした?ミレーヌ?」

「フンッ!何でも無いよっ!ヨダレなんからしてさっ!」


 一体、俺が何をしたと言うのだろうか?しかし、ヨダレなんて・・・と、手を口元に当ててみるとなんか濡れて居た。あ、垂らしてるわ・・・イカンイカン。

 しばし激痛にもだえてると、横合いから声を掛けられた。


「料理長!お待ちして居ましたよ!」


 お、俺を料理長と呼ぶ奴は誰だ・・・?ふむ・・・何処かで見たような?おぉ、コイツは確か・・・。


「シャダルじゃないか!元気そうで何よりだ。スワリも相変わらずか?」

「えぇ、店長もお待ちかねです。さっ、どうぞお入り下さい」


 シャダルは、例の地獄の料理人時のデザート担当で、主に下拵したごしらえ担当だった奴だ。手際が非常に良く、素材の持ち味を殆ど壊さず処理が出来る、稀有けうの才能の持ち主だ。


「お~イテテテ・・・絶対に爪が割れてるぜ、こりゃ。ま、良いか。んじゃ、入るぞ~」


 この世界、魔法で大抵の傷は治る為、何時の間にか怪我に対して無頓着むとんちゃくになってしまった。


「・・・丁度良いぃ、このラク~ル様も連れて入る事を~許可しようぉ~」


 なんだ、だコイツは居たのか。まぁ、女の手前、後には引けないんだろうな。しかし、それは俺にとってはどうでも良い話だ。あの獣耳美女達は惜しいが、何故なぜかミレーヌの機嫌が悪くなるしな。


「さ、ミレーヌ、スレイ行くぞ。あ~フェルはどうする?アイツと一緒に行くか?」

「ちょっ!冗談でしょう?女連れの邪魔をするほど、野暮チンじゃ~ありやせんぜ~!」

「はははは、ま、そりゃそうか。んじゃ、シャダル、宜しく頼むよ」

「はいっ!お任せ下さい。料理長!」


 俺たちが連れ立って店内に入ろうとすると、ラクールが文字通りえた。


「うがぁ~っ!この俺様を無視するんじゃね~っ!」


 あ~マジ、面倒な奴だ・・・。仕方ない、奴の弱点を突くとするか。


「おぃ、ラクール!あんまりグダグダかしてっと、『ザザリムシ』のフルコースを喰わせんぞっ!」


 この俺の恫喝どうかつで、ラクールの動きがピタリと止まる。


 この『ザザリムシ』とは40サンチにもなる『ダンゴムシ』の様な陸上の甲殻類で、生息場所は腐った倒木の影などに良く見られる。動きも遅く、腐りかけた倒木をひっくり返すと大抵はそこで生活をして居る為、捕獲も容易だ。その為、この世界の人達には非常に有り触れた食材である。それほど硬いと言う訳でも無い甲殻の下の身は、海老えびの様にプリップリで、その味はタラバかにに近い、非常に美味な存在である。このような美味が至る所に存在してる為、この星の住人は総じて舌が肥えて居たりする。『浮空島人ふくうとうひと』の味覚音痴は別として・・・。


「え?『ザザリムシ』?アタイ、好物なんだ~。ね?ラクもそうでしょ?」

「アイツ、料理長なんて呼ばれてたよね?期待できそうじゃん」

「ラク~、当然アタシ等にも分けてくれるんだよねぇ~」


 取り巻きの『虎人』の女性達は、しゃべごとに、プルプル、ユサユサ忙しい。

 それとは対照的に、ラクールの表情は硬直して居る。


 実際のところ、ラクールのアフォめは、『ザザリムシ』が大の苦手らしい。なんでも、足が大量に有る生物が苦手なんだとか。大量の足がワシャワシャと動くのを見ただけでく程に苦手らしい。元の世界にも居たよなぁ、そんな神経の細い奴が。

 んで、この事は『オーグル』の乗組員なら全員知って居る。アナピヤ戦線での夜食に出した饅頭まんじゅうの具に、大量の殻付き『ザザリムシ』を使用し、それを食べたラクールが悶絶し立ったまま気絶したのは記憶に新しい所だろう。

 そんなラクールを、ミレーヌもスレイも冷ややかな視線で見て居る。


「さ、アフォも黙ったし、行くとするか」


 ラクールは、『ザザリムシ』の勇姿を思い出したのか、硬直したままだ。もしかすると、想像だけでヒューズが飛んだのかも知れん。『ラク~どうしたのさ?』とか『ちょっ!あいつらが入っていくよ!ラクッ?』だとか聞こえるが、えずは無視で良いだろう。あのユサユサ、プルプルは無視し難いが。

 こうして俺達はシャダルの案内の元、店内へと歩みを進めたのであった。

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