序章 そのろく
『艇長室』は使えないのか・・・さり気なくしょんぼりして『指揮所』に戻る。
先程は余り見てなかったが、一通り見て回る。
舵輪の少し前方の床に台座が置かれ、それを囲う様に魔方陣が描かれている。
「ふむ。これが『浮空石』か・・・」
近寄って調べようと思い近寄ったが、台座に隠れるように小さな人影が有った。
草原の小人が大量の分厚い本を床に置いて熱心に調べ物をしてるようだ。草原の小人率多いな・・・。
その小人は、すぐ傍に立っているこちらに気づく様子もなく本を読んでいる。何の本かと思い覗きこんでみると『浮空石の効果的運用術』と書いてあった。
もう少し近寄って見てみようとしたのだが、目の前の小人から「ヒッ!」と言う声がした。
「お、おめさいっだい誰だべ?(訳:あ、貴方は一体誰ですか?)」
え?『タンピヤ人』?
「ごごは部外者が入っで良い場所じゃ無いべさ(訳:ここは部外者が入って良い場所では無いですよ)」
少し訛りが緩いな・・・?
「早ぐ出て行がないど人を呼ぶべさ(訳:早く出て行かないと人を呼びますよ)」
ふむ、どうしたものか・・・?まぁ、挨拶はしておくべきか。
「うむ。申し遅れた。ヒョーエ・ジンナイと申すものです。宜しくお願い致します」
「あ、おめさが例の異世界人だべか?あだすはミーシャ・ダンピヤ。よろすくおねげえしますだ(訳:あ、貴方が例の異世界人ですか?私はミーシャ・タンピヤ。宜しくお願い致します)」
「こちらこそよろしく頼みます。して、ミーシャ殿は浮空石の制御担当者ですかね?」
「あい、今日からごの艇に乗り込むごとになりますだ(訳:はい、今日からこの艇に乗り込む事になりました)」
「大量の書物ですね。かなりの勉強家と推察しましたが?」
「いんや~恥ずかしいだ。はやぐバドルシッブに乗れるように頑張らねぇどいけねぇべさ(訳:いえ、恥ずかしいです。早くバトルシップ級に乗れる様に頑張らないといけないです)」
「ほぅ、バトルシップ級を目指してるのか・・・先の長い道のりですな」
「あだすの小さい時がらの夢だべ。何どしでも叶え無いどいげねぇべさ(訳:私の小さい頃からの夢です。何としても叶えないといけないですから)」
成る程、大量の書物は先を見越しての知識を得るためか・・・努力家なのかな?
「私も今回が初航海なのですよ。お互いに頑張りましょう」
「あい、ごちらごそよろすくおねげえしますだ(訳:はい、こちらこそ宜しくお願い致します)」
勉強の邪魔をしても悪いのでその場を後にする。
『浮空石』のエリアから先に操帆用と思われるスペースがあった。ワイヤー状のロープがあちこちに張り巡らされ、滑車などを用いて巧く一箇所に集まるように調整されてるようだ。
操帆用のスペースは3つ、帆柱の数と同じだけ有るようだ。試しにロープの一本を引っ張ってみたがビクともしない。こりゃ、かなりの力が要りそうだ。『オーガ族』が操帆手として雇われてる理由が判る気がする。
ロープを引っ張ったり緩めたりしてると艇首部分に人影があった。目を凝らしてみると『鳥人』の様である。
先程出会ったスカイマークかと思い近寄ってみると、ほんのりスマートで顔つきがシャープな感じに思えた。
「あの、すみません。スカイマークさんとは違う様ですが、あなたはどちら様でしょうか?あ、申し遅れました、私はこの度、この浮空艇の艇長を務めさせて頂く事になりましたヒョーエ・ジンナイと申します。以後、お見知りおきの程を」
ここの乗組員は変わった奴ばかりなので、様子見も兼ねて丁寧に聞こえる口調で話しかけてみた。
「うむ。新しい艇長殿でござるか。某はスレイミー・サルピヤと申すでござる。主に偵察兼見張りを仰せつかってるでござる」
その『鳥人』は『ござる口調』の変な奴でした。そういやスカイマークも『拙者』とか言ってた気がするなぁ。
「艇長殿は『鳥人』の見分けが出来るでござるか?『異世界人』としての能力だったりするでござるか?」
「その様な大層なモノでは無いですよ。見分けると言うか、何となくですけどね」
「それでも大したものでござる。ふむ。少し試させて頂いても宜しいでござるか?」
「試す?私の艇長としての適正か何かを・・・ですか?」
「その様なモノでござる!しからば御免!」
スレイミーは言うなり鉤爪を振りかざし襲い掛かって来た!
が、その目を見る限り敵意とか無い・・・と、見たのでその場を動かずにスレイミーの目を見続ける。予想通り顔を鷲掴みにする直前で止まった。
「どうして避けないでござるか?」
「避けても避けなくても当てる気はなかったでしょう?それなら避ける必要はないですよ。それにスレイミーさんは『試す』と言いましたからね。逃げたりしちゃいけないでしょう?」
「ふむ、成る程でござる。某も腰抜けには用がないでござる。艇長殿の覚悟は確かに有るようでござるな」
合格なのかね?
「それでは今日より艇長殿を主君と崇め、この生命、尽きるまでお仕えさせて頂くでござる!何なりとご命じ下さいでござる」
生命尽きるまで?それはイカンな。
「私を主君として、スレイミーさんが私に仕えるって言いましたか?」
「そうでござる!」
「それでは主君として命じる!無駄に生命を捨ててはならぬ!生命あれば為せる事もある。先ずは生きる事!その後に命令を熟すと良い。良いな?」
ちょっと格好良い事を言ってみたり~。
「艇長殿は、某を『人』として扱ってくれるのでござるな・・・」
「そりゃ当然だろ?唯でさえ同じ艇に乗り込む仲間なんだ、そりゃ~悪い奴にはお仕置きもしたりするだろうが、だからこそ普通に接するべきだと思うよ」
不甲斐ない事を言ってくれるので、なんか少し『地』を出して喋ってしまった・・・。
「『人間族』は某達『鳥人』を、話が出来るモンスターを見るのかの様な目でしか見ないでござる。使い捨ての駒としてしか見ないでござる」
「そりゃまぁ、人間にも色々居るからな。俺と同じ様な人間も少なからず居るはずだ」
「『人間族』の皆がそうであれば良いのでござるが・・・」
「そう思うなら認めさせてやれば良いんだよ。悩む暇があれば認めさせてやれば良い。なんなら協力するぜ。いつ迄も半人前扱いとかムカツクからな。あの腐れ課長が・・・!」
嫌な事を思い出したなぁ・・・働けど働けど不当に評価を低くして絶対に認めようとしない上司ほど辛いものはないよね・・・そりゃ~給料を抑えて実績が上がれば管理者の実績に成るだろうけどもさ~世の中には限度というものがある。
「艇長殿は、『鳥人』の地位向上が果たせると思うでござるか?」
「現状の扱いが低いからといって諦めたらそこで終わるからな。足掻けるだけ足掻いてみようぜ」
「・・・判ったでござる」
「俺も何とかしてみようとは思う。幸い皇王とも顔見知りだしな。う~んと手柄を立てたら実現できるかもしれないしな」
スレイミーは決意が固まったかのような口調で言った。
「改めて艇長殿を某が主としてお仕えさせて頂くでござる。某の事は『スレイ』とお呼び下さいでござる」
「こちらこそヨロシクな。スレイさん」
「某の事は『スレイ』と呼び捨てにして下さいでござる。主殿!」
「いやいやいや、主殿は無いだろう?せめて名前で呼んでくれ」
「某が主君を名前で呼ぶとは恐れ多いでござる」
「その方がこっちも助かるから~」
「ダメでござる。主殿は主殿でござる!」
「うぬぅ~」
いや、頑固だね。説得の仕方を間違えたっぽいな?どうしよう・・・。
「主殿、共に頑張るでござる!」
「了解しました。それで良いですよ」
「某に対して敬語とかはダメでござる!周囲に示しが付かないでござる!先ほどの様にざっくばらんにお願いするでござる」
うぬぬぬぬ。完全に失敗したかな・・・こりゃ・・・。ま、世の中成るようにしか成らないか・・・。
「んじゃ、これから宜しく頼むわ」
「承ったでござる!同胞の為、某の生命に替えましても主殿はお守りするでござる」
「命を懸けるのはダメだって・・・」
こりゃ、大変なフラグを立てちまったようだなぁ・・・。失敗したかも知れん。
とりあえず、気分転換に外の空気を吸いたくなったので艇外に出て見ることにした
ようやく全員集合?
予定の人物は全部出した気がする。
誤字脱字を探していかないとねぇ。
2012/09 『改定済み』