章間話 手痛い勝利
激戦の一夜から丸々一日が経ち、被害の全容が見えてきた。
皇国の損害・・・・・・『空翔艇』 『オーグル』中破、『伏龍』並びに『飛龍』小破。『デストロイヤー改』 『ティグル』『ヴァフィール』『ノルワール』『ラキシス』『グレイシス』轟沈、『ゾーダス』『サーチャス』『エルメア』中破、『ラークル』小破。『皇国陸戦隊』 10%が死亡。
空賊の損害・・・・・・ドレッドノート級 轟沈X1 大破X2。バトルシップ級 轟沈X8 大破X10 中破X2 小破X5。クルーザー級轟沈X15 大破X20 中破X5 小破X10。小型艇の被害総数は確認出来ず、少なくとも100艇以上が轟沈。
アナピヤの損害・・・・・・市街地のほぼ全域が全壊ないし半壊。要塞の40%が全壊、50%が半壊。
正に、全滅と評するに値する損害だ。中でも『空賊』の被害が群を抜いて居る。装甲艇と木造艇がガチで殴り合えば当然の結果か?これは間違いなく、死地に誘い込まれたのだと思う。思えば、アナピヤ奪還が思いの外順調過ぎた時点で疑うべきであったか・・・悔やんでも悔やみきれない損害だ。朗報としては、何とか帝国を追い払った事だろうか?例えそうだとしても、余りにも痛い損害である。
更に、『空賊』の盟主連中にも戦死者が出て居る。
『元剣聖』シュルツ・ホークウッド含む、麾下の第一陣の約70%が死亡。シュルツ殿と第一陣は『トロール族』10数名と戦闘し、第三陣、皇国陸戦隊との共闘でこれを撃破。その際に戦死した。
第二陣は後方支援の為に全体の中核に位置して居た為、直接の被害無し。
クレイン・ガウ・オーグルニスは、『元剣聖』と行動を共にして居た為、戦闘時の負傷と魔力を行使しのし過ぎで昏睡状態。麾下の第三陣は約30%が死亡。
第四陣は最も敵の層が分厚い地下施設を攻撃して居た為、約80%が死亡。『空賊』の戦闘での損害では最大である。
『覇王』ガレアス・アーモナルドは自らの艇と運命を共にした。本陣の大半は艇に帰還中で、戦場に支援部隊として派遣されて居た部隊を除き、『覇王』と共に艇と運命を共にした。損害は約90%にも上る。現在、炎上し着底した艇を捜索中。艇の損傷が激しく、生存は絶望視されて居る。
『空賊』の盟主達でマトモに動けるのは、イソラル・ホームテップとレニヨン・サーガルウスのみ。言葉を発しない奇人と、女性を見ると総てを棄ててでも口説きにかかる奇人の、二大巨頭が『空賊』を取り仕切って居る・・・ってか、自由に振舞って居る。遠くから『はぁ~い、そこの見目麗しきお嬢さん、二人の素敵な素敵な出会いに、ちょっとそこに茂みにでも行かないか~ぃ?』等と脳天気そうな声が聴こえて着たりする。正直イラッと来るが、いくら脳内花畑野郎でも、帝国の攻撃を跳ね返し、罠を食い破った猛者である。下手に男が手出しをすると殺されるかも知れん。時節『パシーンッ!』と言う音と共に、頬に平手打ちを喰らったり、蹴飛ばされたりしてる様なので、ナンパの成功率は絶望的の様だ。
んで、戦闘処理の大半が、皇国幹部に降り掛かってキてる訳で・・・正直、脳にキそうな感じではある。
中でも、帝国に奴隷として使役されて居た捕虜達の扱いが一番厄介である。隷属用の魔法が腕輪に仕込まれ、その解除の為に『空賊』の魔法部隊に助力をお願いしたりと大忙しである。
解除だけなら他人任せなので良いのだが、戸籍の確認とか奴隷解放の為の手続きとやらで、書類仕事が膨大に成って居る。
「無理!もう無理だぁ~・・・誰か、休みを・・・休み俺にくれぇ~っ!!」
頭を抱えて叫ぶも、無情にも誰も反応してくれない。皆が手一杯で、眼が死んで時間の経過した魚の様に濁ってきて居る。宛ら、生きてる亡者の様な有様だ。『ア~・・・』だとか『ウ~・・・』だとかの、意味の無い声も聴こえて着たりする。
実務能力の高いクリスさんは、クレインさんの付き添いだ。流石に実姉が危篤状態って時に仕事の処理能力は期待出来んしな。お姉ちゃんっ子だったみたいだし。
駄目だ、このままでは駄目だ!精神的に死んでしまう。クッソ不味い携帯食料じゃ、精神の崩壊は着々と進んでしまう。
うむ、こんな時は旨い料理。これに尽きる!辛い時には旨いモノを食えば、少なくとも気分と肉体は生き返る!
良し、そうと決まればこんな淀んだ場所はオサラバだっ!
「ちょいと、旨いモノでも作りに行ってくるな?んじゃっ!!」
片手を挙げ素早く駈け出した俺を、一同は濁った目線をむけつつ無言で見送る。数秒ほど経ち、気づいた一人が叫び声を上げた。
「ヒョーエの野郎~~っ!逃げ出しやがったなッッ!」
叫びに反応し、周囲の者の眼に生気が戻り、直ぐ様殺気が宿るが、既に俺はその場には居ないから気付けない。
淀んだ空気と共に、ジワリとした殺意がその場を支配して行く・・・・・・。
修羅場から抜け出し、足取りも軽く『オーグル』の内部へと向かう。外観からも見て解るが、外装に開いた穴が痛々しい・・・修理は最優先で行なってやるからな?との想いを胸に、貯蔵庫へと向かう。
そこには珍客が2名居た・・・一人は沈黙の奇人、レニヨン・サーガルウスと、死んだとされて居る暴食の奇人、ガレアス・アーモナルドの姿で在った。レニヨン殿は両手に1本ずつナイフとフォークを握りしめ樽に座り、ガレアス殿は樽を抱えるかの様に座って居る。
その樽は、俺の秘蔵の『ドラグ米』の樽じゃねぇか・・・食欲魔人コンビの前には秘密も何もあったもんじゃねぇな・・・。
「あれ?ガレアス殿・・・生きて居られたのですねぇ。皆が心配して居ましたよ?」
しかし、彼は艇と運命を共にした筈では・・・?
「がっはははははっ!艇が炎に包まれて墜ちる前にレニヨンに救われてのぉ。ま、そ~言う契約だから当然ったぁ~当然だがな」
・・・契約?なんじゃそりゃ?
「あぁ、契約ってのは、俺がコイツに生きる場所を与え、その見返りに『この世の総ての旨いモノを我が手中に』・・・っつ~契約での。それを達成するまでは俺の命はコイツが全力で護る。そんな契約だ」
あ~、だからレニヨン殿は、旨いモノを作ることには興味を示したが『オーグル』に載る事は拒んだのね。
「それは良いとして、何故此処に?」
まぁ、その樽を抱えてる時点で判らなくも無いが・・・。
「レニヨンに聞いた所、何やら旨い料理があるらしいじゃねぇか。それを喰わずしてしてオチオチ死んでられるかっつ~の」
「・・・・・・・・・・・」
レニヨン殿は、相変わらずのっぺら坊な仮面を装着してる為、その意志はサッパリ読み取れない。
「はぁ、そうですか・・・」
そんな間抜けな返事しか返せなくても、仕方無いとは思わないかね?
先ずは、『空賊』達に『覇王』の生存報告だな。ま、これで仕事が多少は楽になるだろう・・・このオッサンに、実務能力が有る事を祈るのみだ。
「ガレアス殿は沢山食べますよね?」
「おぅ、喰うぜ!喰って喰って喰いまくるぜっ!」
間髪入れずに返答が返って来る。
「はぁ・・・皇国の人間にも作らないといけないんですよねぇ・・・正直な話、私一人で数十人前は不可能ですから、貴方方の炊事担当者を数人ばかし貸して頂きたい」
「ソレくらいなら自由に使いなっ!」
竹を割った様な受け答えとはこの事かっ!?・・・的な、ハキハキとした受け応えだ。成る程、この食欲魔人に人望があるってのは、何となくだが理解は出来るな。
幾つかの調理器具を『オーグル』から持ち出し、樽も含め重量のあるソレらをガレアス殿は軽々と持ち運ぶ。
料理を待つその目は、期待感に溢れる少年の様にキラキラして居た。
「鍋をひっくり返すのが遅い!もっと手際良くやらないと素材が死ぬぞっ!!」
「ラッジャ~っ!」
「刻め、刻んで刻んで刻みまくれっ!」
「はいぃぃっ!」
厨房と化したアナピヤ中央公園は、戦場さながらの様相を呈して居た。
数人の炊事担当者を借りる予定が、いまやその規模は数十人体勢に移行して居る。その人員の総監督にされた俺は、先程迄の書類整理の数倍もの負担を強いられて居る。
「湯切りが遅いっ!そんなに食材を無駄にしたいかっ!?」
「申し訳ありませんっ!」
「火加減が強い!焦げ付いたら台無しだぞ~っ!」
「すみませ~ん・・・」
どうしてこうなった?
周囲に溢れる美味しそうな匂いで、調理場を取り囲むかの如く、人が集まりつつ在った。包帯を全身に巻きつけた者、片腕や片腕を無くし松葉杖の様な補助具で立って居る者、餓えた視線で此方をギラつく眼で睨んで居る者・・・そこに存在する総ての者が、料理が出来上がるのを待ち望んで居た。
調理場の直ぐ傍の簡易テーブルには、涎を垂らさんばかりの『覇王』とナイフとフォークを握りしめた『大魔法使い』の姿が見て取れた。どこから嗅ぎ付けて来たのか、『オーグル』の乗員も席に着いて居る。
「出来ましたっ!」
「良し、直ぐに運べっ!次だ、休んでる暇は無いぞっ!」
「料理長も手伝って下さいっ!」
「誰が料理長だっ!?俺は今回のみだ。次は知らんぞ!」
そう怒鳴り返すと、鍋を振り始める。
横目でテーブルを見ると、相変わらずの食事風景の『大魔法使い』と、料理を吸い込んでるんじゃないかと錯覚する勢いで食べる『覇王』の姿が見えた。
「くっそ~っ!何の因果でこんな目に・・・」
眼から滴り落ちる汁で前が見えない・・・。だが、そんな状況でも手は動かさないとならない。疲労で身体が動かないが、味見と言う名のツマミ食いで空腹は満たされつつ在る・・・それがせめてもの救いか?
それから暫くの間、職務放棄した俺にブチ切れた皇国の幹部連中から正式に料理長に任命され、過酷な数日を過ごす事になろうとは・・・。
こうして、戦闘直後の数日は、瞬く間に過ぎて行くのであった。
何とか数日以内にUP出来たかな?
10日を過ぎなきゃ数日以内ですよね?(笑




