分水嶺 そのじゅう
「撃て、近寄らせるな!コッチの方が遥かに射程は長いんだ、近寄らせずに撃ちまくれ!!」
今現在『オーグル』は、僅かに後退しつつ、敵の戦列とガチバトルを展開中。
ふと真上を見上げると、『艇長席』のほぼ真上の天井に開いた大穴から、文明の光に毒されて居ない、この世界の美しい夜空が良く視える・・・。
艇体に空いた穴は、此処だけではなく数カ所にも及ぶ。直撃を受けるのはこれ以上避けたい所だ。
「2時の方角から敵小型艇接近中だにゃん!」
「距離は!?」
「約2500だにゃん」
「右舷対空砲座!弾幕を張れっっ!敵が1発撃つ間に10発を叩き込め!数で圧倒しろ!」
時節、敵の大型艇からの弾着が『オーグル』の艇体を揺らす。艇首方面の装甲は特に分厚く、傾斜装甲と成って居る為に、有効打には成り得ない。
速度重視のこの艇が、こんな無様な戦いを強いられて居るとは情けない。
そう、勇猛果敢に斬り込んだのは良いが、手痛い反撃と言うか自爆をしてしまったのが、そもそもの原因である。
「『オーグル』、敵の戦列に斬りこむぞ!!」
『オーグル』は、超高速航行を開始し、闇に紛れて突き進む。このまま接近出来るだけ接近し、最大火力を大型にブチ込んでやるぜ!
「敵散開にゃん!距離は約4000だにゃん!」
クッ!気付かれたか?だが散開すれば摺り抜ける隙間も大きくなるってトコよ。
「距離3000にゃん!」
「フェル!打ち噛ませっ!!」
「よっしゃ~っ!」
主砲より発射された『岩石弾』は闇に紛れて弾着を待ち望む。
距離が近づき『魔法投影』に映しだされた敵影は、今までの艇とは一線を画す姿をして居た。敵もコチラを完全に視認した様で、敵からの一斉法撃が始まった。
大半が掠りもせず後方へ飛んで行く。時偶、艇首付近に直撃弾が有り『ガインッ!』だとか『ガギャギャギャッ!』等と嫌な音がするが、今現在は問題は無い。
ってか、『オーグル』の正面装甲を貫ける艇は、『オーグル』位のモノだもんな。
「ポーラ!敵の大型と中型の間を抜けられるか!?」
「ふんっ!あたちなら問題ないのね!」
口調はアレだが実に頼もしい。
「距離、約1000だにゃん!」
「良し!対空砲座!各員の判断で撃ちまくれ!!」
命令と共に、各対空砲座から『火球』が放たれる。夜空を彩るその魔法は、打ち上げ花火の様な派手さを持って敵へと突き進む。
ポーラが巧みに操艇し、敵と擦れ違う瞬間、『岩石弾』が敵に着弾する。
『ゴッギャギャギャンッッ!』
鋼鉄の塊を巨大な鉄のハンマーで打ち殴ったかの様な音と共に、『岩石弾』が弾かれ粉微塵に飛散する。
敵の大型艦は、アーモンドに似た楕円形で全体を重装甲で覆って居る様だ。その頑強なる鎧に阻まれた事で、巨大な質量を持った岩石が粉砕され、周囲へやたらめったらに襲い掛かった。
大型艇の至近距離を摺り抜け様として居た『オーグル』にも破片は襲い掛かり、比較的に弱装甲の側面や上部が打ち破られた。
俺が座る『艇長席』のほぼ真上にも破片が突き刺さり、構造材を周囲に撒き散らした。
『ガツンッ!』と言った音と共に破片が俺の頭部に直撃し、血を辺りに撒き散らす。流れでた血液で右目の視界を奪われつつ、周囲への被害を確認したが、俺以外は皆が無傷だった・・・。
「ま・・・また俺だけが被害を・・・?」
運が良いのか悪いのか・・・即死しない以上は運が良いのかも知れないが、独りだけ怪我をするのは不運としか言い様が無い。しかも、また頭である。これ以上アフォになったらどうしたら良いんだ?
「ひ、被害状況を知らせろ!」
伝声管にありったけの大声を張り上げる。怪我の為か、少々声が震える。
俺の少し震えた声に誰かが此方を見たのだろう、誰が発したかは分からないが『ヒィッ!』と言った悲鳴が聴こえて着た。
「6番サーガッタスッ!砲座が動かないよっ!」
「3番のハインツだっ!砲が使用不能だクソッタレェッ!」
「オォ~レはラァクールゥ、シャァイィンブレスゥッ!艇の腹に穴が空きぃっ、俺の腹にも穴が開くぅっ♪ヤハッ」
良し、俺よりも不運な奴が居た。アイツは日頃の行いが悪いんだろう。
「ターニャ!怪我人だ!至急『指揮所』に来てくれ」
『医務室』へ繋がる伝声管に叫ぶも返答は無い。
「ターニャ!?」
まさか、直撃でも受けておっ死んだか?そう危惧して居ると、返答があった。
「にゃ~・・・何か石が部屋に飛び込んで着たにゃ~。部屋も何もかもが滅茶苦茶にゃ~・・・」
「生きてるなら良い。ラクールが負傷した様だ。治療に向かってくれ」
「石が棚に飛び込んで『治療符』が壊滅だにゃ~・・・はぁ・・・面倒だけど自前の魔法を使うしか無いにゃ~」
げ、『治療符』が壊滅だと!?俺の治療はどうすんだ?
無くなったモノは仕方無い。仕方無いので着て居た上着の袖をナイフで引き千切り、頭に巻いて止血をして置く。不衛生だが失血死とか情けないからな。
「タマ!敵の位置は?」
「7時の方向、距離は約7000だにゃん」
「『機関室』!異常は無いか?」
「ユニが頭を打つけてコブが出来た程度。機関には異常無しだよ」
「なら360°ローリングの後に機関停止、180°回頭だ!」
「了解だよ」
頭上の岩石の破片は振り落として置きたい。何かの表紙に突き抜けて来たら、今度は怪我だけじゃ済まないからなぁ。
ま、艇はボロったが、機関が無事なら問題は無い。俺は頭が痛いが我慢出来ない程じゃ無い。
こうして、冒頭部分の状況に至った訳だ。
「夜明けまでは後何時間だ?それまで耐えれば増援が来る!」
「後2時間弱ですわ!」
「フェルッ!後何回撃てそうだ?」
「・・・・・・」
「フェルッ!?」
「気絶してるみたいなのね」
クッ!仕方ない。
「ハインツ!サーガッタス!至急『指揮所』まで着てくれ!主砲要員として使いたい」
「え?ボクの力が必要なんだね?直ぐに行くよっ!」
「フェルーナンの奴はもう駄目なのか!?仕方ない、俺様が力を貸してやんよっ!」
「ハインツッ!撃て!撃ちまくれっ!」
「も、もう、限界・・・」
「あら?口程にも無いのね。アレだけ豪語して置きながらもうダウンなのね?口だけ男は嫌なモノなのね。フェルーナンも大概だけど、貴方は更にその上を行くのね」
「ポーラ、それくらいにしておいてやれ・・・。サーガッタス!いけるか?」
「漸くボクの出番だね?まっかせてくれよね!」
「左舷弾幕薄いぞ!近寄らせるな!」
「左舷直撃弾来るにゃん!」
タマの声と共に、『オーグル』の艇体に衝突音と衝撃が走る。
「何やってんのっ!?撃てっ!撃ちまくれっっ!敵に法撃の隙を与えるなっ!」
長い長い緊迫した戦闘に意識も思考も麻痺しかけた頃、漸く空が白み始めた。
「ユーリス!ナタリアさんに繋いでくれ!」
再度の救援の要請を行う為にそう命じた。
暫く待った後に、待ち望んだ報告があった。
「繋がりましたわ!そちらへ回します!」
正に藁にも縋る心境で通話を開始した。
「ヒョーエ!生きてたかぃ?」
「ナタリアさんこそご無事で何よりです。そちらの状況は?」
「『空賊』と協力して何とか撃退したよ。そっちはどうだい」
「敵の数自体は減らしましたけど、新型と思われる大型艇に手子摺ってまして・・・」
「具体的な数は?」
「確認できる範囲なら、大1、中6、小10ですねぇ・・・このままじゃ、持って後1時間程度でしょうか?」
「はっは~っ!流石のヒョーエも手に余る数だった様だね。そう言うと思って『グングニール』を含む『飛翔艇』60艇に、出撃を命じてるよ」
「そうですか・・・助かります」
「1つ貸しだね」
「借りて置きます。それでは、生き延びられたらまた後程に」
「あぁ、そうだね。必ず生きて戻ってくるんだよ?」
「了解です」
通信を終了し、『オーグル』各所へ繋がる伝声管に吉報を叫んだ。
「『飛翔艇』が出撃し此方へ向かってるそうだ。もう一踏ん張りだ!諦めずに攻撃を密にしろ!」
心が萎えそうに成るのを押し留め、皆が奮戦し、更に粘る事、十数分、漸く待ち望んだ救援がやってきた。
「2時の方角から超小型艇が多数接近中だにゃん!救援が間に合ったにゃんっ!」
編隊を組んだ『飛翔艇』は、まずは与し易そうな小型艇に襲い掛かった。
敵の10数艇が瞬く間に破砕し構造材を撒き散らせつつ、大地に還る為に地表へと降りて行った。
「良し!敵は混乱の極みに在る。この機に乗じ進撃開始!機関室!全速前進だ」
敵の中型艇は、『飛翔艇』と『オーグル』に挟撃され数を減らして行った。
敵の大型艇は、『飛翔艇』や『オーグル』の攻撃を物ともせずに、未だに空に浮かんで居る。その重装甲を盾に、戦線の離脱を図ってる様だ。
「ユーリス、サーシャさんかスカイに繋げられるか?」
「やってみますわ」
命じて30秒ほどだろうか?念話が繋がった様だ。
「サーシャさんに繋がりましたわ。そちらに回しますわ」
繋がったか。まずは感謝の言葉だな。
「サーシャさん助かりました」
「ボウヤかぃ?おやおやおや、こりゃまた、こっ酷くやられたもんだねぇ」
「人的被害が無いのが何よりですよ」
「それはアタシに対する当てつけかぃ?」
「いえいえ、そんな事は無いですよ」
戦闘に被害は付き物だ。『飛翔艇』なんて攻撃を食らうと終わるんだから、多少の被害は仕方無いと思うけどな。
「それは良いとして、あのデカブツはなんだい?攻撃がちっとも効きやしない」
「えぇ、何やら後退しようとしてるみたいですし、このまま見逃しませんか?まぐれ当たりでも食らったりして『飛翔艇』への損害とか出したくないですし」
「はぁ、目の前の敵を逃がすのは癪に触るが仕方無いかねぇ」
「中型も逃げたい奴には逃げさせましょう」
「ま、ボウヤの言う事だ。今回は従うよ」
「有難う御座居ます」
「今度、旨い酒でも奢ってくれりゃ良いさね」
「了解です。それでは、また後程に・・・」
「あいよ、またね」
長い戦闘を終えた『オーグル』は『飛翔艇』に護衛され、朝日の帰還と相成った訳だ。
こうして、思わぬ所から大苦戦となった、『アナピヤ攻略戦線』は、一先ずの終焉を迎えたのであった。
章間話を、数日中にUP
したいなぁ・・・(笑




