分水嶺 そのきゅう
『オーグル』の艇首より、漆黒の闇を斬り裂くかの如く、白光を纏った『雷撃槍』が帝国の浮空艇列を両断した。
機関室員が、艇首を絶妙な操作で横に振れさせ、バリバリ、バチュバチュと耳を劈く轟音と共に横一文字に帝国艇を斬り裂いた。その直線上に居た大型の艇は半壊し、中型の艇は全壊、小型の船は粉微塵に吹き飛んだ。
攻撃はその程度では留まらず、五芒星を一筆書きに書くかの様に夜空を紫電光が切り裂いて行く。
『オーグル』の主砲の直撃を何度も受ける事になった敵の艇は、夜空に咲く花火の如く、炎に包まれ粉微塵になりつつ地表面へと落下して行った。
『オペレーション・ペンタグラム』とは、『オーグル』の砲座で魔法陣を描いて魔法を発動させてみよう!・・・的な取り組みで、色々と試行錯誤を繰り返しているが、残念ながら非常にタイミングがシビアらしく魔法の発動率は0%だ。だが、強大無比な艇首砲で五芒星を描く為、その範囲内に居る敵艇には甚大なる被害を与える事が可能となって居る。
五芒星を描き切る迄に10秒弱、描ききった後に艇体を720°ロールさせつつ対空砲座を使用し、魔法陣の外枠と五芒星を取り巻く文字群を描く訳だが・・・この『オペレーション・ペンタグラム』に於ける最大の難関が、上下左右にガックンガックン揺さぶられ、揺さぶられ切ったら今度は無理矢理に2回ばかり側転をさせられる・・・事である。之に因り、三半規管にダメージが生じ、それを要因とする猛烈な『艇酔い』が何よりも辛い訳である・・・ウプッ。
『指揮所』周辺はまだ動きが少ないものの、第一から第四までの対空砲座の砲手が一番辛いと思う。揺さぶられる強さが段違いだからなぁ。
後は艇が540°ばかり回転した所で、『医務室』に繋がる伝声管から『ギィ~ニャ~~~~~ッッ!!』等と聴こえてきたが、まぁ、間違い無く、戦闘中だと言うのに寝ていたんだろう、あの穀潰しめは。
しかしながら、敵の艇は戦闘力を喪失したものの、今回も魔法の発動は失敗。・・・うぬぅ、中々に難しいモノよのぉ・・・。
「ヒャッハ~っ!敵艇隊壊滅ぅぅぅ~っっ!コイツを食らって生き延びられる艇はこの世に存在しないぜっっ!」
フェルの奴は御機嫌だが・・・うぬぅ、今回も失敗かぁ。因みに発動予定魔法は、魔法の中でも一番簡単に発動出来る単発魔法の『炎矢』何だが・・・・発動はマジに難しいよなぁ。
『オーグル』の皆も『こんな方法で魔法の発動なんて有り得ない』と、圧倒的火力で敵を捻じ伏せる為の作戦名だと誤認識してるし・・・実に難しいモノだ。
独りうんうん唸って居ると、突然の叫び声に思考が中断された。
「12時の方向に反応があるにゃん!距離は10000だにゃん。発見が遅れて申し訳にゃいにゃん・・・」
ま、波状攻撃は基本だよなぁ。
「機関室!出力は微速前進。タマ、敵の数は?」
この攻撃は予測の範囲内なので取り乱さず聞いてみた。機関の出力を落としたのは、このまま敵に突っ込むのは頂けないからである。まずは状況を把握してからだな。
「大型1、中型8、小型15にゃん!大型を取り巻く様な密集陣形にゃん!」
ブッ!戦列組んでやがるのかっ!?戦線の背後を突き、戦場が混乱した所に主力を投入・・・か、帝国の戦力は無尽蔵かよ?
こりゃ~たったの1艇でどうにかなる数じゃ無ぇ~よなぁ・・・。
退くか戦うか・・・。
「ユーリス!クレインさんに繋がるか?」
「やってみますわ」
時間にして1分弱が経過し、何とか繋ぐ事に成功した様だ。
「艇長さんへお繋ぎ致しますわ」
さて、助力の要請は可能だろうか?
「ヒョーエかぃ?景気はどうだい?」
「余り芳しくはないですなぁ」
「アタイんトコも天手古舞さ」
「あ~それじゃ助力は期待出来そうにないですねぇ」
「どうしたんだい?ヒョーエらしくもない」
え~と、俺は彼女に、どの様な認識をされてるのだろうか?
「目視確認した訳では無いですが、『オーグル』の正面、距離約10000にバトルシップ級X1 クルーザー級X8 小型艇X15 と、大盤振る舞いですよ」
「・・・そりゃ~不味いんじゃないのかぃ?アタイんトコもヒョーエ程じゃないが敵の増援が着ててねぇ」
「かな~~~り不味いですなぁ・・・。いっその事、撤退しちまいますか?我らの虎の子である『飛翔艇』を夜間に飛ばすと、半分くらいは墜ちそうですしねぇ」
「それは・・・『空賊』達を完全に見殺しにする事に成るよ?」
「ですよねぇ・・・まぁ、彼らならってか、レニヨン殿が居ればあの程度の数の艇なら、鎧袖一触に吹き飛ばしそうなんですけどね」
「あのお方は色々と常識外だからねぇ」
レニヨン殿が船に載ってくれたら、心強い事この上ないのだが・・・。
「して、此方への助力は難しそうですかね?」
「ヒョーエ、スマナイねぇ・・・何とか出来るのなら何とかしたいんだけど・・・」
「うんぬぅ・・・了解です。コッチはコッチで何とかしてみましょう」
二人共に、何とも無い様に会話をして居るが、相変わらず『呑龍』の『指揮所』は怒号と罵声が飛び交って居る。二人の会話を中断させるかの様に『『ティグル』轟沈!『ノルワール』大破!クソッ!敵は何処から湧いて来やがるんだっ!?』等と聴こえてくる。
アッチも大変そうだなぁ・・・助力は無理っぽい・・・てか、完全に無理だろうな。
会話が中断されたのを切っ掛けに、何方ともなく通信を終了する。
「タマ?敵との距離は?」
「約8000だにゃん」
間に合えば良いが・・・。
「フェル!『岩石弾』の魔法を準備!『機関室』!『トルネー機関』を使用する。最大戦速にて攻撃、敵の数を減らすぞ!各砲座は『火球』に交換して置け!」
『機関室』の準備が整うまでの間、目を瞑り上手く行く事を願って置く。え?何にって?この世界に居るかは判らぬが『天御柱神』と『国御柱神』にだ。
「こちらは『機関室』。『トルネー機関』発動準備完了だよ」
「良し、ポーラ!敵のど真ん中をすり抜けるぞ!?主砲は距離3000で攻撃開始だ。対空砲座は距離1000以下になったら照準は適当で良いから、兎に角にも撃ちまくれ!タマ!大体の距離3000と1000で合図をくれ!」
さ~て、一丁ブチかましますかねぇ!
「『オーグル』、敵の戦列に斬りこむぞ!!」
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序章の改訂は、それを狙ったものではありませんので、此処に明記して置きます。
いや、普通に考えて無理でしょう?
精々200~300位以内には入れるとは思いますが、それ以上は無理だと判って居りますよん。
上位の人達って、私が読んで面白いと感じる方達ばかりだもんなぁ。
いや~、あれは無理ですわぁ。




