分水嶺 そのはち
時刻は夜半過ぎだろうか?突然の爆音と浮遊感に因り、安らかなる眠りから叩き起こされた。
「な、何事だ!?」
と、周囲を見回してみるも、何時も通りの殺風景過ぎる自室、『艇長室』に何ら変わりは無い。
慌てて机の上に投げてあった上着を着こみ、『指揮所』へと向かう。
指揮所は戦闘の喧騒に包まれ、慌ただしくも的確に、一人の『オーガ族』が指揮を執って居た。
「クリスさん、これは一体全体、何事で?」
俺の少し間の抜けた質問に嫌な顔ひとつせず『帝国の夜襲です』と、答えてくれた。
夜襲・・・夜襲かぁ・・・。うむ、失念してた訳じゃないが、このタイミングで来るとは・・・地上戦力は此方が圧倒的に上回って居る状況で、奪還など望むべくもないと思うのだが・・・。
「うぬぅ。緊急時ですし指揮権を受け取りましょう」
「お願い致します」
「確かに受け取りました。これより『オーグル』は敵戦力の撃滅に向かう!今回は夜間戦闘だ!各員、『暗視』の発動を抜かるなよ!」
ま、俺が言うまでも無いだろうけどな。
この遣り取りの間にも夜空を閃光が走り、爆音が轟いて居る。ふと横を見ると、遥か遠くに巨大な火球と化したと思われる浮空艇が、地表面へと墜ちて行くのが見て取れた。
「クリスさん、現在の状況は?」
「帝国の浮空艇に因る襲撃に呼応する形で、敵要塞内部から敵の進撃がありました。共に『空賊』戦力が対応中です」
ふむ。周辺警戒を任せてくれっ・・・てのは偽りなく遂行されてるのな。彼らばかりに負担を強いる訳には行かぬだろうなぁ。
「ユーリス、ナタリアさん宛に発念!『飛翔艇』の夜間戦闘要員に救援を乞う!・・・と」
『飛翔艇夜間戦闘要員』は、主に夜の眷属に属する『鳥人』で構成された特殊部隊である。一般的に『鳥人』の多くは鳥目であり、夜間にはモノの役には立た無くなる。その為、『鳥人』で構成された昼間専門の突撃部隊『グングニール』に対し、夜間専門の飛行部隊が存在する。
その特殊部隊の名は一部の幹部にしか知られて居ない。表向きは『グングニール』の隊員が『暗視』魔法を使用して戦闘して居る事になって居る。完全に影の部隊だが、本人達も表舞台に出る事を嫌って居るので問題無さそうだ。
「艇長さん、ナタリア様から直通念話が着て居ますわ。そちらで受け取って下さいですわ」
ユーリスはそう言うと、念話を此方へ回して来た。
受信機を耳に当て念話の送受信を可能にすると、ナタリアさんの艶っぽい声が聴こえて来た。
「あ~ら、ヒョーエどうしたんだぃ?夜這いなら何時でも歓迎だよ?」
はぁ~・・・この人も悪い人じゃないんだがなぁ・・・。
「ま、その時は何も言わずにお伺い致しますよ。今回はその件とは別に緊急の要件が有りまして・・・」
「あぁ、帝国どもの襲撃だろ?こっちにも着てるさね。『ダークナイトイリュージョン』を既に出撃させて対応してるよ」
「私の心配は杞憂でしたか?」
「ま、それがヒョーエの持ち味だわな。ヒョーエも参加するんだろ?無茶はしない様にね♡」
戦闘中だと言うにこの余裕・・・。歳の・・・ゴニョゴニョ・・・経験の差は埋め難いな。
「あ、あはははは・・・。無茶をするのは私ではなく、乗組員の皆です。何も出来ない私は指示を出すだけですしね」
「ま、お互いに死なない様に気をつければ良いさね」
その時、周辺警戒に気配を探って居たタマから警告が発せられた。
「2時の方向から敵の反応だにゃん!距離約15000、敵数7、大型2中型2小型3の反応が有るにゃんっ!」
数の多さに少し緊張気味だ。
「おや?ヒョーエの方も大変そうだねぇ・・・」
「えぇ、どうやらその様で」
「んじゃ、また後でね。無事を祈って居るよ」
「ナタリアさんも御無事で」
通信終了と共にタマに確認をする。
「タマ!付近に友軍は居るか!?」
「居ないにゃん!『空賊』は9時の方角、距離は8000は離れてるにゃん!」
「皇国戦力は?」
「6時の方角に反応があるにゃん。距離は約10000だにゃん」
ふむ、なら問題無いな。
今回も、囮部隊に対応してる間に後方から襲撃・・・なんだろうなぁ。目視での監視なら見逃してだだろうな。派手に撃ち合いしてるし。
タマちゃんのお陰で大助かりだ、『動体感知』BANZAIだな。
「フェルッ!準備は出来てるだろうな?一発ブチかますぞ!」
「イ~ッヤッハァ~ッッ!!待ってやしたぁ~っ!」
「ふひひひひっ!今は夜だ!やたらと目立つぞ~っ!昨日の雪辱戦だ!」
矢鱈と高いテンションの二人に対し、指揮所のメンバーの視線は限りなく冷たい。特に俺に対してチラチラと視線を向けて着て居る。
このテンションは今更だろうに何だろうな・・・?と、訝しんでると、クリスさんが聴こえるか聴こえないかくらいの声量で、ヒソヒソと耳打ちをして着た。
「艇長殿、艇長殿・・・上着の裏表が逆ですよ・・・」
「へ・・・?」
確かに良く見ると、有る筈の上着の胸ポケットが無い。カァッと顔が火照るも平静を装い上着を着直す。さっきからの皆の視線はこの為かっ!?
「タマァッ!敵との距離は!?」
照れ隠しも兼ねて大声を張り上げる。
「距離は約12000だにゃん」
「良し、機関室!巡航速度で前進!ポーラ、取り舵だ、敵を3時の方向に捉えられる様に調整!フェルッ!『雷撃槍』の準備は抜かり無いな!?」
「モチのロンでさぁ~!派手な花火をブチ上げましょうやっ!!」
うむ。良い返事だ。
「ポーラ!敵の一番左端に居る艇と高度を合わせろ。射程に入り次第、艇首を振るぞ!機関室!良いチャンスだ、例のアレをやるぞ!?」
「え゛?ジンちゃん、本気でアレをやるの?」
「おおよっ!」
「アレ・・・艇に莫大な負担が掛かるんだよね・・・。暫く派手な戦闘が出来なくなるかも知れないけど・・・?」
「はははは、ミレーヌは相変わらず心配性だなぁ」
「直すのは主に僕なんだよね・・・コレは貸しにして置くょ?」
「う・・・ぬ・・・。も、問題は無い」
「ま、そこまで言うのなら良いけどね~。さ~て、何をして貰おうかな~♪」
うぬ、うぬぅ・・・。ま、まぁ、致し方ない。この戦いこそ『オーグル』の名を、この世界に轟かせるには持って来いのシチュエーションでは無かろうか?
「んじゃま・・・『オペレーション・ペンタグラム』を発令する!!総員、着席の上、固定ベルトを装着!身体強化魔法をフル発動しろ!」
艇内からは不満の声が噴出して居る。・・・まぁ、今からやる事を考えたら当然か。
「敵との距離、9000だにゃん!」
良し、頃合いか。
「ポーラ!ミレーヌ!タイミングを抜かるなよ?フェルっ!最大出力にて主砲発射ぁっ!!」
「ガッテンッ!」
「あいさ~」
「仕方ないなぁ~」
三者三様の返事と共に『オペレーション・ペンタグラム』は発動した。
『オペレーション・ペンタグラム』・・・うわっ!厨二病クサッ!!(笑




