分水嶺 そのご
まぁ、居ない人間の事を気にしても仕方が無いので、今は目の前の事に集中をする。
遥か前方を見れば、スレイが反復攻撃を仕掛けて居る様だ。その火力は凄まじく、破片やら血煙やら土埃が、遥か高くにまで舞い上がって居る。
「スレイも張り切ってるなぁ・・・」
今現在『オーグル』の前進速度は、大人がノンビリ歩く位の速度で航行中だ。『空賊』達の前進速度に合わせて居る為なのだが、その御蔭で戦場の様子は手に取る様に見える。良く良く前方を見れば、クレインさんやシュルツ殿の姿も垣間見える。
今まさに激闘中に見え、相手は5人の『トロール族』の様だ。その5人相手に『空賊』戦力は大幅に削られたのか、はたまた脳筋コンビが殲滅したのか、その周囲は死屍累々とした有様だ。
かなり高い領域での戦闘をしているらしく、遠目ながら派手に動き回って居るのが見て取れる。あの2人で『トロール族』5人を相手取りながら引けを取ってないと言う驚愕の事実!どんだけ強いんだか・・・。
だが5対2と言う数の暴力には抗えず、攻め手に欠けて居る様に見える。クレインさんは相変わらず巨大なモールを叩きつけ、シュルツ殿は大剣を地面に突き刺し片刃の剣を2本、逆手に持ち懐に飛び込みつつ関節に斬り付けて居る様だ。だが、そんな2人を嘲笑うかの様に、トロール達は包囲の網を狭めつつ在った。
トロールに因る包囲網が完成するかと思った次の瞬間、2人から最も遠いトロールの上半身が破裂した。そのトロールのほぼ直上に、急速上昇をする『ホークウィンド』の姿が在った。
不運なトロールを襲った『岩石弾』は、その巨大な威力を以てして、頑強な『トロール族』の硬皮を貫き肉片を周囲に撒き散らせつつ、掌大の石を残る4人のトロールと2人の脳筋コンビを破砕しようと襲い掛かった。
上半身を吹き飛ばされたトロールに一番近かった更に運の悪い奴が、背中を中心に破片を受け吹き飛び、吹き飛んだトロールを避け損ねたクレインさんが巻き込まれ、一緒に倒れ伏す。その僅かに生まれた隙を逃さず、シュルツ殿がその手に持つ双剣を目の前のトロールの眼窩に突き立てた。剣先が脳髄にまで達した様で、そのトロールは糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちる。
残った二人のトロールは、茫然自失と言った有様だ。これ程までの火力の魔法に身を晒した事が無いのだろう。彼らが信頼する自らの硬皮が、いとも容易く撃ち破られた訳なのだから。
硬直したままのトロールに、更にもう1発の『岩石弾』が真上から頭部に直撃し、今度はその身を真っ二つに引き裂く。その隙にクレインさんも何とか這い出してきた。
5対2であるからこそ拮抗して居たパワーバランスなので、1対1になってしまえば当然の如くトロールには勝ち目は無く、瞬く間にクレインさんには叩き伏せられ、シュルツ殿に斬り伏せられた。
トロールに潰されてしまったクレインさんが少々心配だが、あの人の事だから問題は無いだろう。
良い仕事を全うしてくれたスレイに通信を入れる。
「スレイ!鮮やかな手際、実に見事だ!」
「おぉ、主殿!有り難きお言葉、感無量でござる!」
「引き続き対地支援を任せたいが、いけるか?」
「承ったでござる。某にお任せでござる」
「戦闘が終わったらだ・・・何か褒美を与えたいんだが・・・何が良い?」
「某は・・・も、モフ・・・・・・・いや、なんでもござらん。某は自らの役目を果たしたまで!褒美は他の者に与えて欲しいでござる」
「スレイは相変わらず欲が無いな・・・判った。無理強いはしない」
「申し訳ないでござる」
「無理せずに帰投する事を忘れるな?」
「お任せでござる!」
うむ。俺は部下に恵まれてるな・・・一部を除き。
さて、砲塔の残魔力はどんなモノかねぇ?先程から散発的になって来て居るが。
「各砲塔!戦闘継続は可能か?無理な者は申告せよ」
ここからが正念場だからなぁ。王宮にも敵が篭ってるだろうし。
「3番砲塔のハインツです。少々厳しくなってきました」
ハインツは暴走気味だからなぁ。今現在で倒れていないだけマシかな。
「サーガッタスだよ!鼻血が出始めたかな?でもまだまだイけるよっ!」
サーガッタスは無駄撃ちが多いからなぁ。敵を甚振るのはコイツの悪い癖だ。
「5番ドリス・・・少々配分を間違えたねぇ。アタシとした事が情けないねぇ」
ドリスも頭に血が上りやすいからなぁ・・・ま、この口調なら問題なさそうだ。
しかし、全体的にそろそろ限界かもな。仕方ない休憩を摂らせるか。
「3,5,6番砲手は大休止を、残る砲手は小休止だ。今のうちに腹に何かを入れて置け。タマはユーリィと交代、大休止だ。今の内に身体を休めろ」
「まだ行けるにゃん!」
この世界に於ける大休止とは3時間に当たり、小休止は1時間である。大休止は仮眠が摂れる時間、小休止は食事が摂れる時間である。
仕事熱心なのは良いが、ここは戦場だ。僅かなミスが命取りに成りかねん。
「ダメだ。休む事も軍人の責務だ。医務室で休む事を命ず!ターニャに癒して貰え」
「う・・・判ったにゃん・・・」
ターニャはここ最近新しい魔法を会得しつつある様だ。その為の実験体を送ってくれ・・・と、再三の催促を受けて居る。
しかし、タマを動かすのはターニャに関する事が手っ取り早いな。心なしか嬉しそうなのは気のせいでは無いだろう、なんか耳がピクピクしてるし。しかし、あんな危険人物の何が良いのか・・・サッパリ判らん。『猫人』には『猫人』の好みってのが有るんだろうなぁ。
「ユーリス!『空賊』に発信だ。『オーグル』は消耗が激しい為、法擊支援は一時中断す!・・・とな」
「了解ですわ」
「機関室!高度を下げれるだけ下げろ。出来れば大きめの広場に降ろしたい。敵の攻撃には注意しつつも、休息を摂ってくれ」
「ジンちゃん!機関室了解だよ。あ、出来れば何か美味しものが食べたいな~」
ミレーヌ麾下の機関室要員には無茶ばかり言ってるしなぁ。ま、労いを兼ねて作ってやるとするか。
「あ~判った判った、何か精のつくモノを作ってやるよ。俺は実質的には、一番の暇人だしなぁ」
「やったぁ~!ジンちゃんってば話が分かる~っ!」
「小休止しかないから、手の込んだモノは無理だからな?」
「味気ない保存食なんかよりも何倍もマシだよ」
「ちょいと待ってろよ」
「うん!」
さて、引き継ぎをして置くか。
「クリスさん、申し訳ないが指揮権を暫く預かって下さい」
「話は聴いて居ましたよ。艇長殿も相変わらず大変ですな」
「要塞砲撃滅の立役者たちへの御褒美ですからねぇ。ミレーヌ達が居るからこの『オーグル』は活躍出来て居ますしね」
「そうですな。指揮権を預からせて頂きます」
「ありがとう」
「行ってらっしゃいませ」
俺はクリスさんの言葉を背に受け、厨房へと向かったのだった。
モフモフ分の補充に、友人に連れられ『猫カフェ』なるものに。
何?この桃源郷は?(笑
小動物を用いた、お触り自由な合法的風俗店だな・・・こりゃ。
やべぇ、ハマりそうだ(笑




