序章 そのご
一度指揮所に戻ってみた。
戻ってふと指揮所の後の方を見ると何やら扉がある。
ドアのプレートには『艇長室』と書いてあった。
「え?マジ?個室が貰えんの?」
気分的に小躍りしながらドアを開けてみると、そこはジャングルでした。
「何コレ?どういう事?」
よく見ると、プランターの様なモノから植物群は生えている。家庭菜園?艇長室で?なんで?
暫し困惑してると、いつの間にかサーシャが後ろに立っていた。
「おや?艇長じゃないか、どうしたんだい?こんな所につったってさ」
「この部屋は何ですか?」
「あぁ、そっか、そういやここは艇長室だったっけね。いやぁ~前の艇長の計らいでね、栽培室にしてたんだよ」
「前の艇長?あの事故だか何かで死んじゃった方?」
「そうそう。粋な計らいだよね~。アタシらが新鮮な野菜が食べたい!と、直談判したら快く引き受けてくれたよ。いやぁ~惜しい人を亡くしたものだわ」
「それがこのままって事は・・・私にも受け入れろ・・・と?」
「え?嫌なのかい?こいつらの収穫をみんな楽しみにしてるんだよね。そんな非道な事をまさか言ったりはしないよね?」
ニヤリと不敵に笑いながらサーシャに尋ねられた・・・って、脅迫ですか?
「そんな顔をされると脅迫してるみたいじゃないか。乗組員の体調管理も艇長としての大事な仕事だと思うよ」
「あの~私は何処で寝れば・・・?」
「下層船室にハンモックがあったろ?艇長は何だかんだ言っても新入りなんだから、個室なんて贅沢はイケないとは思わないかぃ?」
な、何たる新人イジメ・・・この世界にもイジメやパワハラが存在してたとわっ!
ここはガツンと・・・言えたら苦労しないよな・・・さりげなく筋肉をピクピクさせてるし・・・。
「ま、それは良いとして、艇長を探してたんだよ」
全然良くないです。寝床を返して下さい!・・・と、言えたらどんなに良いだろうか?
「な、何の御用でしょうか?」
揉み手をしながら聞いてみた。
「そんなに卑屈に成らなくても良いよ」
総ては貴女のお蔭です。
「ホラッ!早く来な」
サーシャが呼んだのは緑色をした人間・・・エルフでした。
性別は男。かなりこの世界では珍しい髪型をしています。
「おぅ!アンタが艇長さんかぃ?俺の名前はフェルーナン・レイヤード。35歳のナイスガィさ!」
「え?35歳・・・ですか?」
35でその髪型ですか・・・?
「俺もまだまだ若造だがヨロシクな!」
「35で若造ですか?って、同い年じゃないですか!?」
「おぅっ!マジかぃっ!そうか、これから宜しくなっ。楽しい任務になりそうだぜ。ヒャハッ!」
・・・やたらとハイテンションなエルフだな・・・。
「おや?艇長はフェルと同い年かい?まだまだボウヤだねぇ」
「アレ?サーシャさんの方が若いんじゃないですか?」
「はっ!アタシは今年で54になるよ。ザードの奴と同じだね」
「え?54歳!え?あの目付きの悪・・・いや、やたらと好戦的なエルフの人も54?・・・そうとは知らないから張り倒しちゃったよ・・・」
そういやエルフは長寿なんだったっけか・・・見た目は若いのに詐欺な種族だな。
「まぁ、アイツは自業自得だろう。そういや、ボウヤの名前はなんてんだぃ?」
何時の間にか呼び名が『ボウヤ』に・・・。いや、良いんですけどね・・・。
「あ、申し遅れました。私はヒョーエ・ジンナイと申します。宜しくお願いします。一応、異世界人と言う事ですが、コレと言った特技はありません」
「ヒョエ~ッ!ヒョエ~殿は異世界人ですかぃ?俺は初めて見たぜぃ」
「そんな他人の名前を悲鳴みたいに言わないで下さい!」
忘れていた小さい頃のトラウマが蘇ったじゃないか・・。ちょいと仕返ししてやる。
「フェルーナンさんは、中々に個性的な髪型をしていますよね?どんな謂れがあるんですか?」
「おぅっ!、目の付け所が良いねぇ!コイツは『スネックヘッド』ってんだ。イカスだろぅ?」
スネックとはその肉がとても美味しく、乱獲された挙句絶滅しかかっている蛇のようなモンスターの事だ。しかし、どう見ても、リーゼントです。その髪型も元の世界では絶滅危惧種に指定されている髪型ですよ?
「このスネックが鎌首持ち上げて威嚇してるかの様なフォルムゥ!俺はどんな場合でもぉ、常に挑戦し続けてるからなっ!見ろよ!最高にクールだと思わないかぃ?」
「アア、ソウデスネ。サイコウニイカストオモイマスヨ?」
つい、棒読みで返しちまった。今時流行らないっつ~の。
「ほらっ!ボウヤが困ってるじゃないか。その程度にしてやんな」
「姐さぁん、コイツの良さを広めるのが俺の使命なんだぜ。邪魔は困るぜぇ!」
「ああん?何か文句があるのかぃ?」
「イエ、ナンニモナイデス・・・」
立場弱!・・・まぁ、他人の事は言えないけれども。
エルフは激しい縦割り社会なのかね?もろに体育会系のノリなんだが?
『「元」艇長室』でワイワイしてたのだが、ふと気が付くと部屋に二人増えていた。
草原の小人だ。着るものから髪型、顔つきまで何から何までそっくりな草原の小人が、「元」ベッドに腰掛けていた。
「おわっ!?いつの間にっ!?」
少し大げさに驚くと、二人はクスクスと笑っていた。
「お?ユーリィとユーリスかぃ?丁度良い、コイツが新しい艇長のヒョーエだ。仲良くするんだよ」
「話は聞いてたよ、ヨロシク、ヒョエー艇長」
「そうね。ヨロシクね。ヒョエー艇長」
こ、こいつら・・・。
「どうしたの?ヒョエー艇長、顔がなんかピクピクしてるよ?」
「ヒョエー艇長、なんか目が血走ってるけど大丈夫?何かの病気?」
「ぐぎ、ぐぎぎぎぎ」
「歯が丈夫なんだね、ヒョエー艇長」
「あらホント、ぐぎぐぎ言ってるわ。歯が健康なのは良いことね」
ぶっ殺す!・・・・・・。イカンな、つい熱くなってしまった。
「今日から此処でお世話になるヒョエー艇長だ、ヨロシクな」
表面上はにこやかに見える様に表情を作り、握手の為に両手を差し出す。
「あら?ヒョエー艇長ったら。そう簡単に認めては面白くありませんわ」
「礼儀正しいのは良い事だと思うよ。ヒョエー艇長」
双子の小人はおちょくりながら手を差し出してきた。掛かりやがったな!
二人の手を素早く掴んで引き寄せると、体勢が崩れた二人のホッペを素早くつまみ、ギュイギュイと抓りあげる。
「ほぉ~ら、悪いのはこの口かぁ~?こんな悪い口は無い方が良いとは思わないか~ぃ?クックック・・・」
「いひゃいっ!」
「ひょ、いひゃいって!」
「もう言わないな?言わないなら離してやろう」
少し力を込めて強めに引っ張った後に開放してやる。
「ヒョエーのバーカ」
片方がそう言うなり、二人してサーシャの背後に隠れる。
だが甘い、既に『印』は付けてある。
にこやかに笑いながら悪口を言った方を捕まえる。
「こっちじゃないよ、言ったのはユーリスだって」
「はっはっは、お互いのホッペを見てご覧なさぁ~い?お前さんがユーリィかユーリスかどっちかは知らんが、悪口を言ったのはお前の方だぁ~」
二人はお互いの顔を見合わせてそれに気づいた。ホッペが赤くなってる事に。
捕まえた方を足を持ち宙吊りにする。さぁ~てお仕置きタイムだ!
「お前さんはどちらかなぁ~?・・・喰らえ!戦慄の『電気あんま』!」
小人の足を股裂き気味に開き、右足を股間に当て、小刻みに振動を加える!この恐怖は異世界には伝わっては居ないはず。ってか、伝えるようなアホは居ないはず!
「はははははは~どうだ?どうだ?ビンビン来るだろう~?」
足の裏に伝わる感触から間違いなく『男の子』だと判明している。
「ほ~ら、ほ~ら」
「あひゃひゃひゃ、止めて!あはははは!」
『電気あんま』の恐ろしい所は、痛いのか気持ち良いのか、それすらも判別出来ないところである。正に悶絶!
しかも、何故か妙に笑えてくるし。仕掛けてる方も仕掛けられてる方もテンションがMAXにっ!
「あはははは、いひひはひはは!」
「ボウヤ、それはあんまり無んじゃないのかい?男にとってそこは急所だろう?」
「サーシャさん見てください、苦痛に喘いでるように見えますか?いひひひひ!」
「あひひひひあひゃひゃひゃひゃうひひひ!」
「ほ~ら、楽しそうではないですか~?」
「やめやめやめ、いひひひしんじゃう~」
あはははは、骨の髄にまで叩きこまないとな。
フェルーナンに至っては、何故か内股にして顔を蒼白にしてるが・・・これはそんな痛いモノじゃないんだぜ?
「やめやめやめ、あはははは」
ユーリスの顔は涙と鼻水でグチャグチャである。
うむ、予は満足じゃ。そろそろ許してやるかな。変な世界に目覚めてもヤバイし。
「ふぅ~。どうだ?これに懲りたら軽口は止めることだ。理解できたか~?」
「・・・・・・・」
ユーリィは息も絶え絶えとばかりに喘いでいる。ユーリスが心配そうに覗きこんでるが、命に別条はないから大丈夫だって。
「返事はどうした?それとももう一度やられたいか~?」
手を伸ばすと、ビクッと震え後退ろうとする・・・が、身体に力が入らない様で顔を背けるのが精一杯のようだ。
「反省したか?」
「・・・・・・・」
「聞こえないな。もう軽口は叩かないな?」
「たたきません・・・」
「またしたらもっと長い時間するからな?ユーリスにもちゃんと言っとけよ?ユーリスが言った場合もお前が罰を受けるからな?これは男専用の業だし」
心底理解できたようで、コクコクと首がもげるんじゃないかって勢いで頷いてる。
「うむ。素直な事で良い事だ。サーシャさんも、またザードさんがオイタをした場合は掛けてあげると良いかも知れませんね?」
「ふむ。そうかぃ?命に別状は無さそうだし試してみても良いかもね」
「あ、力加減は緩くなりすぎず強くなりすぎず、軽く当てた状態で振動ってのがコツですよ。あんまりに強すぎたら、さすがに潰れちゃいますからさ」
「ふむ。優しく力強くか・・・難しいね」
「断末魔の叫びの様な悲鳴じゃなければ大丈夫。丁度良い力加減だと何故か笑えてきますから。その辺りが目安かな?」
「機会があれば試してみよう。そうだ、ボウヤが実験台になってくれたらどうだい?」
「これはお仕置き用なので遠慮致します」
自分が受けるなんて冗談じゃない。サーシャにはにこやかに返しておく。
ふぅ、一仕事終えた後の気分は格別だなぁ。
ユーリィは未だに脱力中。まったく、これに懲りてくれたら楽なんだけどね
さて、他の場所に行くかな。
『電気あんま』はある一定以下の年代の子は知らないんだそうで・・・。
友人同士などで興味本位に試すのは結構ですが、それが原因で友情にヒビが入ったりしても、当方は責任を負いかねます。使用の際は十分に注意して下さいませ。
2012-09 『改定済み』